第18話 あの女の宝石の価値を破壊してみせますわ
グラウベルク山の珪砂は質が高かった。
文字通り、怪我の功名で見つけたおかげだ。
珪砂があったのは丘がくぼんで見えづらい場所だった。おかげでずっと見過ごされていたらしい。
ほかの材料も豊富で、合成宝石は量産体制に入る。
八月下旬。
リンドベルグ領の領民みんなで協力し、偽ダイヤ作成に邁進していた、ある日。
「オークション?」
「ええ。十月に王都で行われます」
いつものようにテオドールの部屋で、ヴィルヘルムと三人で相談をしていたところだ。
テオドールが封筒を見せる。彼の”特殊なルート”で手に入れた情報だ。
「ユリウス王子主催のパーティーで行われるようです。全国の貴族が『これぞ』という商品を出品して、売り上げの一部を国に寄付するとのこと」
「寄付か、よかった。貧しい領地も楽になるだろうか」
「どうでしょうねぇ。王子のお考えがそこまで達しているといいのですが」
テオドールはぶすっと顔を歪めた。
彼の貴族嫌い・王族嫌いは筋金入りだ。
それでよく貴族がはびこる社交界で情報を得られるな、と感心するが、彼の面の皮は厚い。
話題に上ったユリウス王子とは、この国の第二王子だ。現在二十四歳。
結婚相手を選ぶために日々舞踏会を開いているらしい。
いまのところ、これといったお相手には恵まれていないようだが。
美しいものや面白いものに目がなく、今回のオークションも金儲けというよりは「珍しいものが見たい」という理由だろうとテオドールは語った。
「偽ダイヤは王子の興味を引くんじゃないか」
「そうね。テオドール、それ、わたくしたちも出られるの?」
「そうおっしゃると思って参加証を手配しました」
テオドールはさっと数枚の参加証を見せる。
早。うちの執事が優秀すぎて怖い。
「オークションにはルイーズ様も参加されるようですよ」
わたくしはパッと顔を上げた。
ヴィルヘルム、テオドールと目を合わせる。
ごくり、唾を飲み込む。
部屋の中に一瞬、緊張が走った。
「オークションに出す商品は事前に運営にお伝えする必要があります」
「へえ」
「そしてこれが、ルイーズ様の出品リストです」
なんであんたが持ってるのよ、と顔を見遣ると、テオドールはにこりと笑う。企業秘密らしい。
リストに目を落とす。
ダイヤモンドのイヤリングがひと組。
相続した中で一番大きく立派なものだ。
……あの女、一族の宝を簡単にオークションに出すのね。
実の父から相続した財産だってのに。
ま、それくらいのクズなら動かしやすいわ。
「エレーナ、いまがチャンスだ」
「ええ」
わたくしはにやりと笑った。
まさか。千載一遇のチャンスがこんなに早く来るだなんて。
準備しておいてよかったわ。
「ルイーズお姉様の宝石の価値を破壊してみせますわ」
リンドベルグ領はオークションの準備で忙しくなった。
今は八月下旬。
オークションは十月だが、リンドベルグ領から王都までは馬車で片道一ヶ月かかる。
「わ、私も行っていいんですか?」
「ええ。むしろアルマにお願いしたいことがあるの」
ひぇ、とアルマは肩をふるわせる。
リンドベルグ領から一歩も外を出たことがないようだ。
「王都って……すっごく大きいんですよね」
「ええ、そうね。ああ、ショッピングもできるわよ。時間が空いたら街を見て回りましょう」
「た、楽しみですけど……ちょっと怖いです。粗相をしないかどうか……。だって、そのオークションって、貴族の方のパーティーなんですよね」
アルマは不安そうにそわそわしている。
「わたくしがサポートするから」と笑うと、眉を下げて「エレーナ様がいるなら……」と呟いた。
まあ、実はわたくしもパーティーに出たことはないんだけれども。
人生の半分は度胸でなんとかなるから大丈夫よ。
「それと。ヴィル様にもお願いしたいことがございますの」
少し離れた机で書類を整理していたヴィルヘルムに声を掛ける。
突然話しかけられて驚いたのか、きょとんとした顔でわたくしを見上げた。
「……なんだ」
「うふふ。まあ、ちょぉーっとオークションの壇上で、にっこり笑ってほしいんですの」
「……ま、まさか俺を売る気か……?」
ヴィルヘルムの瞳におびえが走る。
大男がこんなにびくびくするなんて。
「人聞きが悪いですわね。人身売買は法律で禁止されてましてよ」
「法が許せばするのか……」
「しませんわよ! わたくしをなんだと思ってまして?」
キーッと叫ぶと、ヴィルヘルムはほっと胸をなで下ろした。
本気で心配していたようだ。心外だな。
「ヴィル様のそのお美しい姿を利用させてほしいんですの」
「……どういうことだ?」
わたくしはヴィルヘルムに近づき、その端正なお姿を上から下までじっくり見つめる。
百八十センチを超える、すらりとした立派な体躯。
お顔はもちろんのこと、遠目に見ても足が長く、バランスがいい。
素晴らしい逸材だ。
「ヴィル様には広告塔になっていただきますわ」
「…………え」
「偽ダイヤをふんだんに使った衣装を用意します。そして、ネックレス、イヤリング、指輪。ブローチもつけましょう。そのお美しさでオークション会場の皆様に偽ダイヤの素晴らしさを伝えてくださる?」
ヴィルヘルムは顔を引きつらせた。
「お、俺は美しくない」
「何をおっしゃるんですの! ヴィル様は理想のモデルですわ! 国中を探したってこれほどにアクセサリーの美しさを引き立てるお方はいませんわよ」
「いや、買いかぶりすぎだろ……」
ヴィルヘルムは半信半疑だ。
人前に出るのに慣れていないのだろう。
令嬢たちがこぞって山奥に来るのを”金目的”と一蹴しているあたり、ご自身の美貌に気づいていない。
なんてもったいない。
「ヴィル様は立ってるだけでいいですわ。偽ダイヤの売り込みはわたくしが。ね? ヴィル様にしか頼めませんの」
眉を下げて頼み込むと、ヴィルヘルムは、うーんと唸りながらも、ゆっくりと頷いた。
第十九話は18時20分頃投稿予定。
次話よりオークション開始。第一ざまあ始まります!
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