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第15話 美しいものは分かち合わないといけませんわね

テオドールが味方になってから、一ヶ月ほどが経つ。


早いところ宝石の濁りを解消できてよかった。

パッと見て合格ラインに達していなかったら、あの厳しいテオドールを説得することはできなかっただろう。



偽宝石作りは軌道に乗り、領民の協力も得て、かなり質の高い偽ダイヤが作れるようになった。

アクセサリーへの加工も可能になり、試作品をメイドたちにつけさせると「かわいい!」と大喜びだった。


わたくしもネックレスをつけてみた。

アクセサリーをつけるのは初めてだ。似合ってるのかしら。

不安になったけれど、アルマは目を輝かせて「お似合いです!」と喜び、ヴィルヘルムも嬉しそうに目尻を下げていた。

……なんだか照れくさいわね。







「ターゲットのルイーズですが」


テオドールの私室でヴィルヘルムと三人、声を潜めた。


「前宰相が退任してから金遣いが荒くなっていますね」

「ええ、知っているわ」

「亡くなってからはさらにひどい。特注のドレスをこの半年で三十着。化粧品にアクセサリーも。お菓子や酒を取り寄せ、日々パーティー三昧です」


テオドールは手元の資料を見せる。

王都にいる彼の”特別な知り合い”に調べさせたのだそうだ。

書かれている内容は、なんとまあ贅を尽くした、と言っても過言ではない。

ルイーズの散財を聞いていればファルネリア家の令嬢を警戒するのも当然だろう。


当初のヴィルヘルムの警戒の理由が分かった。

同時に、こんな勘違いをされていたのかと思うと恥ずかしくなった。



「これくらいなら”品性のない贅沢”で済みますが、こちらは見過ごせません」


次に用意した資料には、彼女の”お気に入り”の男性の家の収支報告書があった。


ルイーズは面食いだ。格下の貴族にイケメンがいればすぐに言い寄り、愛人にする。

同時に五人、六人と付き合うのは当たり前。


彼女のただれた私生活はどうでもいいのだが、問題はそのイケメンたちを喜ばせようとするところだ。

多額の賄賂を与え、その近親者を国の重要な職に斡旋する。

おかげでその職に就くべきひとが追い出され、国政はめちゃくちゃになった。


「なんとまあ、クズビッチですわね」

「止めないと国が滅ぶな」


ソファにもたれ、うーんと悩む。

こんな恥さらしと身内とか、マジで嫌だ。



ルイーズは承認欲求の塊みたいな女だ。

自分の肖像画を書かせ、市中に配る。

パーティーで豪華に着飾って自慢をする。

羨ましがられるために気前よくプレゼントもあげる。


何も知らない貴族たちは「ルイーズ様はすばらしいわ」と憧れの眼差しを向ける。

ルイーズはちやほやされるのが何よりの喜びなのだ。


(ま、おかげで助かったわ)


市中に出回っているルイーズの肖像画をみて、にやりと笑う。

流行の最先端のドレス。くるくると巻いた髪。

可憐な耳元に輝くのは、相続した”貴重な宝石”。

大きな一粒のダイヤモンドのイヤリング。


「美しいものは、分かち合わないといけませんわね」









数日後、山の天気が落ち着いた頃。

わたくしはヴィルヘルムと数人の護衛を連れて、リンドベルグ領北部にあるグラウベルク山に来ていた。

細い針葉樹が並ぶ。標高が高いからか肌寒い。


いまは八月、夏真っ盛りだが長袖だ。



「まさか、ここに偽ダイヤの原料が埋まっているとはな」


ヴィルヘルムが山を見上げ、は、と感嘆の吐息を漏らす。

その横顔は屋敷で見るときよりも気が抜けて、なんだか年相応に見えた。

いつもは黒いジャケットで威厳を出しているが、山では見失うので赤い服を身につけている。


「確率は高いですわ。ここは火山ですので」


グラウベルク山は乾燥した灰色の大地だ。森と言うには頼りないほどの痩せた山。

おかげで土砂崩落も起きやすく、開発は進んでいない。

数百年前には噴火したという言い伝えもあり、リンドベルグ領では恐れられていた。



「ガラスの主成分である珪砂はマグマから採れるのですわ」

「そうか。……確かに、似た白い石を見たことがある気がする」


ヴィルヘルムが呟く。

これは期待できそうだな、と口角を上げ、みなで山に入っていった。



偽ダイヤを量産するには、どうしても材料が必要だ。

特に珪砂は外せない。


それでわたくしが目をつけていたのが、ガルデーニエ王国唯一の火山であるグラウベルク山だ。

リンドベルグ辺境伯領に向かうと決めたのも、この火山があったから。

”山に眠るお宝”がすぐ近くにあるからだ。


(……と正直に言うとヴィル様は落ち込むでしょうね。黙っておこ)


あなたのお金が目的ではないですよ、と無理やり家に押しかけたものの、”あなたの山が目的でしたの”と言ったら怒られるに違いない。

知られないようにしなければ。しれっとした顔で山を登った。






山道は険しかった。

乾燥した岩肌の山は滑りやすく、歩きづらい。

材料に詳しいわたくしがいた方がいいとのことで、この山登りに参加している。

生まれも育ちも王都だから、山は初めてだ。


「エレーナ、大丈夫か」

「ええ」

「疲れてないか」

「全然平気ですわ」


隣を歩くヴィルヘルムが声を掛けてくれる。

わたくしの前と後ろを歩く護衛も気にかけてくれる。


わたくしはにこりと笑って顔を上げた。

足は痛い。息が切れる。些細なことで自分が足を引っ張っているように感じる。



ヴィルヘルム含め、メンバーはみな山に慣れていた。

緑が豊富な山が近くにあり、狩りをしたり木を伐採したりするのだそうだ。

不慣れなのはわたくしだけ。


わたくしのワガママで巻き込んでいるのだから、あまり苦労は掛けさせられない。

ぎゅっと手を握って、重い足を動かした。






山に入って数時間が経った。

疲労は見えるが、成果もあった。

珪砂と思わしき砂やルチル鉱石も見つかった。

場所が分かれば合格だ。地図に位置を記載する。


ただまあ、ちょっと質は悪いわね。

鉄や砂利が多くて、洗うのが大変そうだ。

もっと珪砂の割合が高いものが見つかればいいのだけれど。





「エレーナ、ちょっと休もう」


はっと顔を上げる。

ヴィルヘルムが心配そうに見下ろしていた。

わたくしはにこりと笑って「そうね」と返した。


開けたところに腰を下ろす。

もうお尻が汚れるとか言っていられないくらい疲れた。座りたくて仕方なかった。


ここに来るまで何度か転んだし、汗だくだし。

きっともうご令嬢と言っても誰も信じてくれないだろう。

こんなのが仮にも婚約者だなんて、ヴィル様には申し訳ないわ。


「疲れたか」

「ええ、まあ。でも、わたくしが言い出したことですもの」


護衛たちと円になって座る。

水筒からお茶をもらい、ほっと息を吐く。

昼食代わりのパンを食べて、わいわいと語り合った。


「エレーナ様が山登りをされるとは意外でした」

「そう? まあ、確かに初めて登ったわ。想像より大変ですのね」

「女性が山を登るのは大変でしょう。帰ったらゆっくり休まれてください」


そうするわ、と笑った。

山深いリンドベルグ領でも、女性はあまり山に入らない。

登って初めて分かったのだが、やはり体力的な問題は否めない。






「そろそろ天気が崩れそうだな」


ヴィルヘルムが呟く。

東の端で、やや厚い雲が見えた。

重い腰を上げて立ち上がる。ふらつきながらうーん、と伸びた。

うう、筋肉痛がする。足がパンパンだ。


そして視界の端に、ちらりと白く光った。

なんだろう、ときょろきょろする。


今はやや切り立った丘の上にいる。

細い木々が連なってる下に何か白く光っている。

うーん、と首を伸ばすと、足元がぐらりと揺れた。


「えっ」


がらがら、と音を立てて大地が崩れる。

わたくしの足もずるっと滑った。


「エレーナ!」


背後から、ヴィルヘルムが手を伸ばす。

転がるわたくしの身体を抱きしめた。

けれど勢いは止まらず、剥き出しの岩肌を、ずるずるとふたりして落ちてしまった。

第十六話は明日の12時30分頃投稿予定。

ブクマ&☆5評価、ぜひぜひよろしくお願いします!!

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