表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/44

第14話 金持ち連中を地獄に落としてやりましょう

わたくしは深夜にコツコツ書いた企画書を見せた。


合成宝石の作り方を図解したものだ。

必要な材料、ステップ、作成方法などが事細かに記されている。

他にも、わたくしの"計画"をまとめていた。


ヴィルヘルムとテオドールは興味深そうに読み込んだ。

「酸化鉛…って、危ないじゃないか。毒物だろう」とヴィルヘルムが焦るものの、「適切に扱ってるから大丈夫でしてよ」と流す。

さらっと行っていたから気づかなかったようだが、まあまあ危険な作業ではあった。




「偽ダイヤを売りさばくってことですか? 偽物で本物の市場価値を下げられるとでも?」




テオドールが鋭い視線を向ける。

……確かにこれはキツい。


冷や汗がドバッと出る。尋問のようだ。

準備していたはずだけれど、心臓が嫌な音を立てた。

気取られないようにすっと背筋を伸ばす。



「我が国での宝石の価値は”希少性”に依拠しておりますわ。絶対量が少ない上、父のおかげで”偽物”が混ざることもなかった」

「ええ」

「そこに大量の類似品を投入すれば宝石市場に打撃を与えられます。ですが、それだけだと”ただの偽物”で終わりますわね」


そうですね、とテオドールが返す。

その声は冷たかった。




「ですが、”ファルネリア家”の有力者が『これは本物と遜色ない代物だ』と宣言したらどうでしょう」




ふたりは眉をピクリと動かす。

わたくしはしっかりと、ふたりの瞳を見た。


「国民の大半は宝石を見たことがない。真偽はわかりませんわ。けれど、”宝石をこよなく愛し、毎日愛でている、憧れの貴族”が、『これは本物と見分けがつかない』と言えば」

「……偽ダイヤは本物と同じ価値を持つと国民は考える、か?」

「ええ。そこまでいけば僥倖ですが、まあ、”本物”の価値を揺らがすだけでも充分ですわ」


ヴィルヘルムは「そうか」と呟く。

テオドールは顎に手を当て、じっと考える。


「あなたが言っても国民に影響を与えられないのでは」

「あら。言うのはわたくしではありませんわよ」


わたくしはにこりと笑った。




「ルイーズお姉様ですわ」




ふたりが息を呑むのが分かった。


「彼女が協力するわけないだろう。宝石の価値が下がって大打撃を受けるのは、()()()()()を相続したルイーズだ」

「ええ。でも、彼女は言いますわ」



ーーー偽物(これ)本物(私のものだ)だ、とね。


わたくしは、にぃ、と瞳を細める。

ヴィルヘルムはごくりと唾を飲み込んだ。







「その偽ダイヤを見せていただけますか?」




テオドールが真っ直ぐな瞳で見つめる。

きた。


わたくしは背筋に一筋、冷や汗が垂れた。

ここが正念場だ。

今までの話は全て机上の空論。



()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

全てはそれに懸かっている。



わたくしは余裕の笑みを浮かべながらも、内心は心臓が飛び出るくらい、恐ろしかった。


テオドールの目は誤魔化せない。

屋敷の細かな点にも気づく目端のよさは最大の壁と言ってもいいだろう。

ここで不合格だったらすべてが水の泡になるがーーー




ゆっくりと、テオドールの手のひらに作成した偽ダイヤを置いた。

直径一センチの長方形、ダイヤモンドカットを施している。

ランプの光を反射してきらりと光る。

ここ数か月の努力の成果だ。



テオドールはじっと眺める。

ランプの光にかざし、ルーペで検分し、丁寧に観察する。


無言だった。部屋中に緊張が走る。

不思議とヴィルヘルムも固唾を呑んで見守っていた。

心臓がバクバクうるさい時間を過ごしていると、やっとテオドールは口を開いた。





「削りが甘いですね」





どっと、冷や汗が溢れる。

わたくしは表情を変えないように努めながらも、唇が強ばるのを止められなかった。

……手作業じゃ厳しかったか。


「使用しているやすりの種類を増やしましょう。もう一段階、いえ、二段階。目が細かい物を」

「……え?」

「アクセサリーにするとしたら、金細工の部分はどうなっていますか」

「あ、……ま、まだそこまでは、手が回ってなくて」


テオドールは「なるほど」と呟き、わたくしの手のひらにダイヤを戻した。

先ほどまでの訝しむ表情ではないが、鋭い瞳だった。

速いスピードでぶつぶつと「こうしたほうが」と呟いている。


「金細工が得意な領民を雇いましょう。売るにはアクセサリーに加工する必要がある」

「そ、そう、ですわね」

「エレーナ様、量産の準備は整っておりますか」

「あ、いえ、えっと……」

「では準備させましょう。北部にーーー」

「ちょ、ちょっと待って!」


濁流のように流れるテオドールの言葉に、わたくしは叫んでしまった。

緊張が一気に弛緩したからか、うまく頭が働かない。

ぽかんと口を開けて、テオドールの指示を思い返す。


………え?



「あなたは、わたくしを認めるってこと?」

「……正直、半信半疑ですが」



テオドールはじろりと視線を向けた。

鋭く、ナイフのようだ。


「あなたの計画は机上の空論に過ぎないし、運任せな要素が多い。偽ダイヤだって詰めが甘い。勢いだけで進んでいるのが丸わかりです」

「あ……はい」

「でも、面白い」


は、とわたくしは口を間抜けに開けてしまった。

テオドールは、初めて見るような笑みを浮かべていた。

いつもの能面のような笑みではなく、口角を歪に上げて、悪巧みするような笑み。

絵にしたら明らかに”悪役だ”って思うような笑み。




「私は地位にあぐらをかく金持ちが大っ嫌いでね。奴らの吠え面を見るのが何よりの楽しみなんだ」




愉悦を隠さないで、テオドールは笑う。

……こいつ、なんだか、わたくしより性格が歪んでるじゃないの。


ちらりとヴィルヘルムに視線を向ける。無言でテオドールを見ていた。

知っていたんだろうな、この顔。

慣れているような、ちょっと引いているような顔だ。

俺は常識人だが、みたいな顔をしているけれど、こんなヤベぇヤツをそばに置いているあなたも大概変人でしてよ。


………ま、今更か。

わたくしはすっと背筋を伸ばした。



「では、テオドールも協力してくださる?」

「ええ。もちろん。金持ち連中を地獄に落としてやりましょう」


……うーん。わたくしはハルムートたちにぎゃふんと言わせられればいいのだけれど。


まあ、いいわ。一番敵に回したくない相手ですし。

わたくしはテオドールと握手を交わした。

第十五話は20時頃投稿予定。

ブクマ&☆5評価、ぜひぜひよろしくお願いします!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ