第13話 お兄様たちの財産をぶっ壊すために来ましたの
ディナーが終わり、お風呂にも入ったあと。
普段ならそろそろ眠る時間だけれど、わたくしはテオドールの執務室に向かった。
一介の執事の部屋というレベルではない。
むしろ、わたくしに用意された部屋より広い。
けれど、人間の動けるスペースは少なかった。
壁一面の本棚には古い本や帳簿が詰まっていて、所狭しと衣装やら測量の道具やらが置かれている。
わずかなスペースに詰め込まれたテーブルを囲むように、一人がけのソファが四つ。
そこにはわたくしとテオドール、ヴィルヘルムが座っている。
わざわざここに呼ぶと言うことは、”客人”に聞かせる話ではないということ。
緊張もするけど、胸も高鳴ってきた。
「ヴィルヘルム様、本当にすべての話をエレーナ様にしていいのですね」
テオドールは無表情だった。
いつもつけている笑顔の仮面を外している。むしろこっちが素顔と言うべきか。
ヴィルヘルムは慣れているのか、「頼む」とだけ返した。
テオドールはばさり、と大量の書類をテーブルに広げた。
「直近五年間の全国の収支報告書です。こちらはファルネリア領。こちらはリンドベルグ領、王都や国境沿いの領地はこちらに」
「まあ、すごい量ね」
「まとめた資料がこちらです」
ぱらり、と紙を渡される。
テーブルが埋まる大量の書類をこの一枚にまとめるとは。
資料にはガルデーニエ王国の地図が色分けされ、プラスやマイナスの数字があった。
王都や南部のファルネリア領など、都心に近いところはプラス。
リンドベルグ領や国境沿い、産業に乏しい地域はあからさまにマイナスだった。
「前宰相が退任してからの変化です。カネが一部の領地に集中している。地域格差が広がり、辺境領は疲弊しています」
「ひどいわね。具体的には?」
「国境警備への補助金は減らされ、ファルネリアの身内の補助金が増えました」
例えば、とテオドールは続ける。
長男ハルムートが相続した土地の開発で、ひいきしている産業に補助金を出したり。
次男トビアスの相続した会社を支援し、競合会社をあからさまに排除したり。
長女ルイーズが気に入っている愛人の身内を厚遇したり。
国の財産を私的利用しているのが丸わかりだが、逆らえば干される。
誰も口を出せないようだ。
ファルネリア三兄弟のせいで、国政はかなり不健全な状態になっている。
「……教えてくれてありがとう、テオドール」
「今申し上げたことは、あなたのお兄様たちにはご内密にお願いしたいのですが」
テオドールの視線が鋭い。
わたくしを警戒していた理由がわかった。
わたくしはファルネリア家の人間だ。
いま報告された国政悪化の原因であり、リンドベルグ辺境伯領の財務状況が悪くなった原因でもある。
敵と見なされてもおかしくはない。
「もちろんですわ」と微笑んでも、テオドールは警戒を解かなかった。
「エレーナは味方だ。むしろ、この状況を打破できる唯一の人物だと思う」
ずっと黙っていたヴィルヘルムが、すっと口を挟んだ。
テオドールが鋭い視線を彼に向ける。
「どういうことでしょう。彼女はファルネリア家の方ですが」
「エレーナはファルネリア家から追い出され、むしろ兄弟たちに恨みを持っている」
「それはそれは。可哀想ですね」
テオドールの表情は変わらない。
兄妹の確執に情を傾けるような性格ではないのだろう。
”可哀想なご令嬢”なら、掃いて捨てるほどいるのだ。
さあ、ここからが本番ですわね。
「わたくしは、お兄様たちの財産をぶっ壊すためにここに来ましたの」
ふふっと笑い、今度はわたくしが用意していた書類をどさっとテーブルに置く。
テオドールの資料とも相まって、紙の山が出来た。
「……ご説明をお願いしても?」
「正確には、彼らの相続した”土地”、”株”、”宝石”の資産価値を、ゼロにするために来たのですわ」
テオドールの表情が変わる。
ぴくりと眉を動かし、瞳の奥がきらりと輝く。
ふふ、興味を持ってくれたようね。
「わたくしと協力して、やつらを失墜させましょう?」
第十四話は明日の12時頃投稿予定。
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