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第12話  そろそろあなたを味方にしたくてよ

テオドールが帰ってきてから、リンドベルグ邸の空気が引き締まった。

今まではやや牧歌的なのんびりした雰囲気だったのだが、使用人たちが一斉に背筋を伸ばすようになったのだ。



テオドールは執事長だ。

屋敷だけでなく、リンドベルグ全体の管理、ひいては外交・交渉・情報収集なども行う。

態度は柔らかいが、視線は厳しい。


テオドールが「ここの掃除、素晴らしいですね」と言うだけで使用人は一週間は笑顔だし、「次の食事は塩に気をつけるといいですよ」と微笑むだけでシェフは一週間落ち込む。

使用人は皆、テオドールに認められたがっている。


この屋敷の裏番長ーーーというべきか。

ヴィルヘルムのようにお人好しでもなさそうだし、今のところ立ちはだかる最大の壁だ。



(なんとかテオドールを懐柔できないかしら)






宝石作りをしながら、わたくしはじっと考える。

隣のアルマはもう、メイドの仕事より偽宝石作りをしている時間の方が長くなってきた。

「エレーナ様! こんなに綺麗にできましたよ!」と尻尾を振ったように偽宝石を見せてくる。

すばらしいわ、と褒めると、にっこにっこ笑って次の宝石を磨き出す。



「ねえアルマ。テオドールについて教えてくださらない?」

「はい! なんなりと!」


アルマは楽しそうに話し出した。


「テオドールさんはみんなの憧れで……。てきぱきして、仕事が出来ます! 格好いいです!」

「彼の弱点はあるかしら」

「じゃ、弱点? 倒すんですか?」

「ええ」

「ん~~~? え、なんだろう。目とか、みぞおちとか……」

「なんで武闘で勝とうとしてんのよ」


フィジカルで勝てるわけがないでしょうに。

アルマは「え、あ、ちがいました?」と恥ずかしそうに笑った。

意外と物騒ね、この子。



「弱点っていうと違うかもしれませんけど、テオドールさんを説得するには企画書が絶対必要ですね」

「企画書?」

「はい! 前に屋敷が寒いから暖炉を新調したいと申し上げたとき、どこがどう寒いのかとか既存の物でなんとかならないかとか、散々詰められまして……。メイドのみんなで話し合って企画書にまとめたんです」

「なるほど」

「そしたら、テオドールさんは寒いところを特定してそこだけ新調したり、暖炉じゃなくてカーテンを厚くしたりしたんです。すごいですよね」


すごいわね、と呟いた。

意見を丸呑みせず根本的な解決を図ろうとする。

敵にすると面倒だが、味方にすると力強い。

正直、欲しい。


ただ、データキャラか。

ヴィルヘルムに成功した泣き落とし作戦はうまくいかないわね。


……いえ、むしろ。

わたくしの本領発揮ですのね。


「ありがとう、アルマ。頑張ってみるわ」







テオドールのわたくしに向ける態度は、”部外者”だ。

最大限に気を遣い、不快な思いをさせないようにしつつ、中には入れない。


外から見ればそれほど違和感はないだろうが、領地の情報をヴィルヘルムが口にしようとすると「エレーナ様はお部屋にお戻りになられた方が」と、自然に壁を作る。


わたくしの宝石作りは”趣味”の一環と見なしているようだ。

暇な令嬢が刺繍や絵画をするのと同じ。

あからさまに止めるとヴィルヘルムや領民が反発するから、”趣味”の範囲ならと許されている。

たまに柔らかい牽制をしてくるが。



まあ、気持ちはわかる。

屋敷を不在にしていたところに現れた、領主の妻の座を狙う謎の女。

目的も分からない詐欺まがいの偽ダイヤを作っている。

警戒して当然だ、が。



わたくし、そろそろあなたを味方にしたくてよ。







「ヴィル様、最近のファルネリア家の状況を教えてくださらない?」


わたくしはディナーの最中、ヴィルヘルムに話しかけた。

すぐそばで待機しているテオドールの表情がピクリと動く。


「どうした、エレーナ」

「もう家を出てしばらく経つでしょう。”次”のためにも状況を知っておきたくて」

「……なるほど」


ファルネリア家のことは、わたくしは聞かれない限り口に出さないようにしていた。

敢えて口に出すのは、”情報が必要な段階に入った”ということ。



と、同時に。

テオドールに聞かせるためだ。





「ねえ、テオドール」





わたくしはにっこりした笑顔を、ヴィルヘルムの背後で待機するテオドールに向ける。


「このあと、お時間いただける? あなたが王都にいたときのお話を聞きたいの」


テオドールは笑顔のままだ。

だが、瞳には訝しむ色が見える。

能面のような笑顔で、しばし思案している。




「テオ、俺からも頼む」

「……ヴィルヘルム様」

「むしろ、きみの意見が聞きたい。俺に聞かせていた話を全てエレーナにも教えてあげてくれ」


ヴィルヘルムがテオドールに言った。思わぬ援護だ。

そして”俺に聞かせていた話”とは。

やはりわたくしには聞かせられない重要なお話があったようね。


テオドールはぴくりと眉を動かすものの、しばしの沈黙のあと、「承知いたしました」と微笑んだ。

第十三話は18時頃投稿予定。

ブクマ&☆5評価、ぜひぜひよろしくお願いします!!

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