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第11話 本当に宝石みたいですね

窯へトレイを入れ、焼く。

三ヶ月間、何百回と繰り返した動作。


けれど。


「できましたわ!」


わたくしはトレイを作業用テーブルに置く。

隣で立っているヴィルヘルム、後から合流したアルマが覗き込んだ。

わらわらと近くにいた使用人たちもテーブルを囲む。




トレイの中には、透き通った輝くガラスがあった。





「わあ! 綺麗ですね! これが宝石になるんですか!?」

「そうよ、アルマ」


アルマは目を輝かせる。

シェフやメイドたちも覗き込んで「綺麗!」と驚いていた。


わたくしはトレイの中のガラスを確認する。

ひび割れはない。

気泡も入っておらず、白い濁りも解消された。

太陽の光を反射して、きらりと輝く。美しいガラスだ。



「すごいな。これなら宝石になるのも頷ける」

「うふふ、そうでしょう」

「だが、どうやって濁りをとったんだ」


ヴィルヘルムが不思議そうにガラスを覗く。

三ヶ月ほどずっと解消できなかった問題が、突然解消されたのだ。

わたくしはにんまりと笑った。


「水分ですわ」

「水分?」

「ええ。材料から不純物をとる際に冷水で洗っていたでしょう。細かい石に水分が付着して、焼いた際に中で白く濁ったんですわ」


まさか、こんな初歩的なミスだとは思わなかった。


珪砂もルチル鉱石も山から採れる。

原料以外の不純物がかなり含まれていた。倉庫の埃も多かった。


そのため、焼く前に丁寧に何回も洗うようにしていた。

そのせいか石に水が染みこんでしまったようだ。

乾燥が不十分なまま、ガラスの素を作っていたのだろう。


今回は、洗った材料を冬用の暖炉で乾燥させてからガラスの素を作った。

うちわで扇いで水分を飛ばし、からっからに乾かしてから混ぜた。

夏に暖炉は暑かった。汗だくで倒れそうでしたわ。






説明すると、ヴィルヘルムは「すごいな」と呟いた。


「なぜ俺のゴーグルを見てわかったんだ?」

「ああ、ヴィル様のゴーグルが曇っていたでしょう」


わたくしはヴィルヘルムの胸元を指さす。

先日と同じく、窯用のゴーグルがあった。


「窯の蒸気が付着して曇ったのですわ」

「そうか。だが……」

「窯からそれほどの蒸気が出ると言うことは、材料から水分が抜けきっていなかったということ」


ガラスの中に蒸発した水分が溜まり、白く濁って見えたのだ。

だから、ガラスの素の水分をなくせば濁りはなくなる。



ゴーグルが蒸気で白く曇るのは一瞬だから、今まで見過ごしていた。

窯から取り出す作業を一緒にしてくれる相棒がいなければ、わたくしは一生気づかなかったに違いない。


「ヴィル様のおかげですわ」


一緒に窯の近くで相談してくれたおかげだ。

手を取って微笑む。

ヴィルヘルムは頬を赤らめて、はにかんだ。







偽宝石作り、第一段階はクリアといったところ。

あとは研磨して宝石の形にしていく段階に入る。


職人たちにやり方を尋ね、見せてもらい、試す。

本物のダイヤモンドと違ってガラスは比較的柔らかい。

高速回転する円盤にガラスを近づけ、大まかな形にして、やすりで削っていく。






「本当に宝石みたいですね」


アルマがにこにこしながらヤスリを掛けていく。

リンドベルグ邸の三階に特別に作業部屋を用意してもらった。

やっと外の作業から解放され、それだけで気分は落ち着いた。


直径三センチほどの長方形のガラスを削っていく。

段階に分けてヤスリの目の粗さを変えて。

アルマは手先が器用なようだ。初心者とは思えないほど。

彼女の手元のガラスは、パッと見は宝石に見える。


「アルマが上手なのよ」

「えへへ。嬉しいです。エレーナ様もお上手ですよ。もう、売っても問題ないんじゃないでしょうか?」


アルマはうっとりした瞳で偽ダイヤを見つめる。

ガラスができてから数週間、色んな道具で磨いてきた結果だ。

たしかにこれはダイヤモンドと言っても遜色ない出来だ。


けれど。



「これだけだと足りないわ」

「そっか。量産できないと厳しいですよね」



目先の課題はそれだ。

”開かずの倉庫”にあった珪砂などの材料は、この三ヶ月の試行錯誤でほとんどなくなった。

失敗したガラスを溶かして再利用しているが、それでも売ればなくなる。

圧倒的に原材料の”量”が足りない。



(それに、そろそろお兄様たちの動向が知りたいわ)



わたくしの目的ーーーー、ハルムートたちの財産の価値をゼロにするためにも。

偽ダイヤ作りが基盤に乗ったところで、そろそろ次の一手に出たいところだ。






「エレーナ、ちょっといいか」


コンコン、と扉が叩かれ、ヴィルヘルムが顔を出す。

どうしたのかしら。今日は領地の管理で忙しいと言っていたけれど。

アルマと一緒に首を傾げて扉の方に目をやる。



ヴィルヘルムと、もうひとり入ってきた。

薄いグレーの燕尾服。白銀ロングの髪が輝く。

インテリっぽいメガネ越しには赤い瞳。


口角が上がっているものの、笑顔を貼り付けただけというような笑みだ。

美形な分、なんだか畏怖すら覚える。


「執事のテオドールだ。半年ほど王都に使いに行かせていたが、今日帰ってきた」

「初めまして、エレーナ様」


テオドールは丁寧な仕草でお辞儀をする。

わたくしはぽかんと口を開けて眺めた。


隣のアルマは頬を赤らめて口を覆い、「ひゃぁ……」と謎の感嘆を零す。

え、なに? 好きなの? ファン?


「エレーナ?」

「あ、ああ、失礼いたしました。エレーナと申しますわ、初めまして」


立ち上がり、スカートの裾をひらりと上げる。

けれど令嬢が着るようなドレスではないし、なんなら作業用の粗末なスカートだ。

初対面がこんな格好になってしまうとは。



「テオドールは長らくリンドベルグ邸で執事をしてくれていて、屋敷のことだけでなく外交も任せられる。何かあったら気軽に相談してくれ」

「……頼りになりますわ」


テオドールに目を向ける。

にっこりと、先ほどの笑みを崩さない。

頼りにはなりそうだけれど、わたくしを信用していないのが100パーセント伝わってきますわね。



そして、そりゃそうか、と納得する。


長らく仕えてきたのに、不在にしていたこの半年でリンドベルグ辺境伯領の様子はがらりと変わってしまったのだ。

外部から来た謎の女のせいで。


庭には謎の窯があるし、邸宅では使用人と謎の石を削っている。

テオドールからすれば恐怖でしかないだろうな。



「よろしくお願いします、エレーナ様」



礼儀正しい挨拶には、『うちの主人を唆しやがったな?』という圧力が含まれていた。

第十二話は明日の12時20分頃投稿予定。

ブクマ&☆5評価、ぜひぜひよろしくお願いします!!

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