第1話 そんな端した遺産など、くれてやりますわ
ざまあ令嬢ものです!
全52話程度&ハピエン、完結保証。
初日は5話投稿します!
わたくしは一度死んでいる。
「エレーナ、聞いているのか!」
叫び声に、ハッと意識を取り戻した。
長男のハルムートが鋭い瞳でわたくしを睨みつける。
彼のすぐ隣には次男のトビアスと、長女のルイーズ。
ファルネリア邸の第一会議室。
楕円のテーブルには十人以上が席につき、大事そうに書類を抱える。弁護士や、屋敷を管理する執事たちだ。
ハルムートが、すぐそばでわたくしを見下ろす。
毛の長い絨毯の上。
わたくしは皆の威圧的な瞳を受け、立っていた。
(……どういうこと)
これは昨日の記憶。
わたくしはこの光景を見たことがある。
二月三日。
わたくしが殺される前日。
雪深く、窓を閉めても部屋中が寒かった冬の日。
父が亡くなって、ファルネリア家の遺産相続会議があった日だ。
「ここに父の遺言書がある。さきほど述べたとおり、お前が相続する遺産はない」
ハルムートがぱらりと一枚の紙を見せた。
美しい文字でファルネリア家の遺産相続配分について書かれている。
ファルネリア家が所有する土地は、長男のハルムートに。
株式は次男のトビアスに。
宝石は長女のルイーズに。
そのほかの財産は、ハルムートとトビアス、ルイーズの合議によって決めること。
ファルネリア家の家紋と、父のサインが記してあった。
「お前は父に好かれていなかったようだな。後妻のアマーリエはメイドだ。お前はただのメイドの子」
「…………」
「血迷った父のせいでファルネリア家のイメージも堕ちてしまったが。俺が家督になった今、早急にファルネリア家の格を取り戻さなければならない。わかるな?」
ハルムートがぱし、とその遺言書でわたくしの頬を叩く。ぺらりとした紙は冷たく、乾燥した肌にひりついた。
「……承知いたしました。ハルムートお兄様」
にこりと微笑む。
ハルムートは一瞬息を呑んだ。
その後ろで、席に座る弁護士たちがざわついた。
法的には前妻の子と後妻の子の区別はないのだけれど。
メイドの子と呼ばれるわたくしは、前妻の子である三兄弟とは異なる扱いを受けている。
高度な教育を受けられず、粗末な服と粗末な部屋で暮らしていた。
宰相だった父の遺産は莫大だ。
土地は人気のエリアで、土地開発が進んでいる。
株は伝統ある、国内最大規模の総合商社のもの。
宝石は歴史的にも貴重で、かなりの金銭的価値がある。
どれも国家予算規模の金額に相当する、大変価値の高いものだ。
わたくしには全く入らないようだけれど。
けれど、いいわ。
「その代わり、この鍵をわたくしにくださらない?」
「なんだ、それは」
「倉庫の鍵です。中はガラクタばかりですが、お父様との思い出が詰まっているんですの。わたくしが処分しますから、どうか」
ポケットから古い鍵を取り出す。
"開かずの倉庫"の鍵だ。
宰相である父は生前、国の税関を管理していた。
倉庫には押収したものが無造作に詰まっている。
どう処理していいかわからず、父が認知症を患ってからは誰も触れたがらなかった。
そして、"開かずの倉庫"として放置されている。
ハルムートは一瞬眉をしかめるものの、それが”開かずの倉庫”のものと知り、顔を緩めた。
ごみ処理を押し付けることができてよかったと思っているのだろう。
粗大ごみも処理にはお金がかかりますものね。
「いいだろう」
ハルムートが頷く。
後ろの弁護士がメモを取る。
”ファルネリア家の遺産相続会議は、誰の反対もなくつつがなく終了した”とでも書いているようだ。
これで遺産分配を法的に覆すことはできなくなった。
ふふっと笑い、この部屋に目を向ける。
きらびやかなシャンデリア。重厚な窓。歴代の当主の絵画がわたくしを見下ろす。
弁護士や執事が、にやにやとわたくしを見つめる。
トビアスとルイーズも、あからさまに笑みを隠さない。
遺産の価値を知らない小娘を言いくるめられてよかったと、全員の顔に書いてあった。
ーーーそんな端した遺産など、くれてやりますわ
「では、ありがたく受け取ります」
ドレスとも言えない粗末な服の端を掴んで、丁寧にお辞儀する。
この邸宅に。愚かな取り巻きたちに。
すべてを失う、哀れな兄弟たちに。
ーーーわたくしがあなたたちの財産を、すべてぶち壊してやりますので。
第二話は15時頃投稿予定。
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