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あっさり読めるーショートショート・カプセル

その薬、飲みますか?

作者: あみれん

悲しみに暮れている40代半ばの男がいた。

彼は1年間付き合った恋人と別れたばかりだったのだ。

付き合って1年たったある日、その恋人は突然彼に別れを告げた。

「ごめんなさい、もうこれ以上あなたとお付き合いすることはできません。あなたは私のタイプではないと知ったの。さようなら」

それに驚いた彼は何かを言おうとしたが、結局何も言えなかった。

彼女はそんな彼を見ると、かっがりとした表情で去っていった。


彼女は彼が長年の努力によってやっと見つけた生涯唯一の恋人だった。

彼は彼女のことをとても愛していたが、今は憎み始めていた。

彼女のために出来ることは全てやってきたので、自分の何がいけなかったのかを理解できなかったのだ。

彼はこんな惨めな思い出と共にこれ以上生きては行けないと考えていた。

生きる希望が見出せないのだった。


するとそこへ、何処からともなく彼の前に怪しげな女が現れた。

彼は驚いて叫んだ。「あなたは誰ですか!?」

「怖がらないでください。私はあなたを救いに来たのです」女はある薬を彼に見せながらそう言い、更に話し続けた。

「この薬をお飲みなさい。これを飲めば、あなたの最も嫌な思い出を消すことができますよ」

「どういうことだ? 私に何をしようとしているのだ?」と彼は言った。

「何も。言ったように、私はただあなたの苦しみを和らげたいだけなのです。お気に召さなければ私は消えますよ」女は答えた。


彼はこの女を気が狂っていると思っていたが、結局生きる希望が持てないのだからこれ以上恐れるものは何も無いのだし、ひょっとしたらその薬が彼からあの恋人の思い出を消し去り、安らかに生きていけるかも知れないと考え始めていた。

彼は言った。「それをください」

その怪しげな女が彼に薬を渡すと、彼は素早くそれを飲み込んだ。


しばらくの後、女は彼に訊ねた。「気分はいかが?」

その言葉で、彼はすすり泣き始めた。

女はそれを見て驚き彼に訊ねた。「まだあの恋人のことを覚えているのですか? というか、元恋人のことを」

彼は言った。「恋人? 何のことですか? 恋人なんて1度でもいたことがありませんよ」

女は薬が効いていることを知ると訝しげに彼に訊ねた。「では、なぜ泣いているの?」

彼は言った。「分からないのですか? 私は40年以上も生きてきて女性と付き合ったことなど一度もないのですよ。懸命に努力をしましたが、結局だめでした。もうこんな惨めな人生などまっぴらです」


彼は大声で泣き始めた。

彼の泣き声を聴きながら、その不思議な女はゆっくり、そして静かに消えいった。

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