あなた達への愛想は尽きました① ※①とかつけたけど続くとは限りません。ご容赦ください
婚約破棄のシーンのみです。
書きたいシーンだけ書いたので続きとか無いです。
雰囲気で読んでいただけると幸いです。(*^^*)
「ミアティア・フォン・ヴェレタシア!お前を国外追放とする!」
そう声高々に言ったのはこの国の王太子――ジェナード・ミラル・フェルノルシア。金髪碧眼で意志の強そうな瞳をしている。そしてその横で驚いた表情を浮かべているのはピンクブロンドの髪に黄金の瞳の美少女。可愛らしく、華奢で花のような子だ。
この子は私の異母妹――チェルルカ・フォン・ヴェレタシア。
そして彼女を守るように囲っているのは
宰相の息子――キリアン
近衛騎士団長の息子――ドラカン
公爵家の養子――リノル
王太子と腹違いの第二王子――シャルール
なんともまあ、よくある構図だ。みんながみんな私が憎いとその瞳で物語ってくる。
私は何もしていないのに…それも、関係ないのか?
私は悪役令嬢でいなければならないのか?
私は前世の記憶がある。そして今世の私は前世でプレイしていた乙女ゲームの悪役令嬢。
(本当に馬鹿らしい…結局だめじゃない)
暗い心の奥底で呟く。もう、私の心は限界に近かった。それでも縋っていたのだ…まだ光はあると。
「何とか言え!この悪女!!」
高位貴族の子息とは思えないドラカンのセリフに眉一つ動かさず視線を向ける。燃えるような赤い瞳が怒りにつり上がっていた。
「遺言くらいなら聞いてあげます」
嫌味たっぷりに追従してきたのはリノルだ。可愛らしい顔に似合わない形相でこちらを見ている。
他は私の言動に注意を向けているようだった。
私は妹と同じ黄金の瞳を伏せ嘆息した。
「大人しく話を聞いてくださるのですか?」
少しばかりの意趣返しだ。声音がいつもよりも硬く、冷たいのは当たり前だろう。人前で取り繕う余裕など無い。
「何!?」
またドラカンが声を荒げる。それをキリアンが手で制す。そして冷たいロイヤルブルーの目で私を催促する。
何から話せばいいだろうか。それとも何も話さず、ここを立ち去ろうか。しかしそれだと父に迷惑がかかる。
いや、あの人も妹を擁護して私を非難するだろう。政略結婚の母より、恋人だった人の娘を。
あからさまだったその態度はメイドたちにも伝わっていった。そもそも厳しい私と優しい妹。特に新人のメイドは私を毛嫌いするようになり、私の言葉や態度に過剰に反応し反抗した。
家にも居場所など無いじゃないか。
それに気づいたとき、また何か心の底で動いた気がした。
(このまま隣国できままに暮らせるかしら…それとも、いっそ…)
「何も無いのか」
今すぐにでも私に立ち去ってほしそうな声。兄と同じ瞳に茶髪のシャルール。高位貴族同士であった私たち――ジェナード、シャルール、キリアンは昔はまだ仲が良かった。特にこのシャルールは城下まで遊びに行くほどだったのに。
「私の罪状を伺っても?」
ギリっと歯ぎしりの音が聞こえる。先ほどキリアンに止められ少し頭が冷えたのかドラカンは怒鳴りはしなかった。
「お前の罪状は城下襲撃事件の誘発と聖女暗殺未遂…それに関するものだ」
淡々とジェナードが述べる。もちろんどれもいわれのない罪だ。むしろ逆…私はいつも妹を守るために動いていた。
はじめは、仲良くなれば断罪されることが無いと思ったからだ。だから、家に妹として招かれた時も優しく迎い入れた。けれど妹は最初から私のことを警戒していた。万人に優しく、悪意とは無縁なヒロインらしくない…その時感じた違和感は大きくなっていき、彼女も私と同じ転生者であることに気づいた。
そして同時に前世の私の妹であることにも気づいた。この物語を知っている私は妹に危険な目に遭うことをどうしても避けたくて、二人で力を合わせたくて何度も仲良くなろうと試みた。
しかし、父やメイドたちは私を疑惑の目で見、メイドたちは私に対する悪意を吹き込んだ。
それでもお茶会に来てくれるくらいの仲になり、学園に入学した頃、妹であるヒロインに対するイジメが起こった。
ゲームの知識がある妹にとってその黒幕が私であると結びつけるのは当然のことだろう。留学から疎遠になっていたジェナードたちとの溝が深まるのもそうだ。
「証拠はあるのですか」
「もちろん掴んでいる」
それもそうだ。この国の王太子なのだ軽々しく公爵家の娘である私を許可も無しに断罪するはずがない。
この世界はどうしても私を悪役にしたいみたいだ。それとも、ジェナードたちが…か。
「どれも私には心当たりがありません」
「白を切るつもりなら…」
「あなたは私を知っていますか?」
ジェナードの言葉に被せて言った。感情の籠もっていない暗い瞳でジェナードを見る。ジェナードは困惑したように口を噤んで眉根を寄せた。
「そんなことを…」
「よく知りもしないでしょう?赤の他人ですもの…殿下のほうが身分も高いのだから当然です。ですから私の噂を聞いて疑問すら抱かなかったのでしょう?」
「それ、は…」
「お望み通り国を出ていきます。ですが冤罪をかけられるのは不本意です」
なおも私は言い募る。
何かを言いかけたシャルールに視線を向ける。
「私はチェルルカを庇ったのにあなたは何と言ったか覚えてます?第二王子殿下。『お前の汚れた手でチェルルカに触れるな』…まったく、酷いですね。敵を斬ったのだから手が汚れるのは当たり前でしょうに…それを汚いとあなたは言った」
「それ、は…」
なぜだかシャルールが傷ついたかのような顔をして黙る。
「あなたもです、宰相子息…私が教団について助言をしたのにそれを無視し失敗した責任を私に迫った」
キリアンは少し非があると感じているのか視線をそらした。
「そんな言い訳をしてもあなたが悪女だということはみんな知っている!」
この空気でそうリノルがいう。ヤレヤレとでも言うようにふわふわな黒髪を揺らしながら首を振っている。
「私が悪女ならあなたは何ですか?ヴァチーア公爵子息」
「なっ、どういう…」
「この前ヴァチーア公爵主催のパーティーで私が恥をかくよう仕向けたじゃないですか」
「…それが?」
リノルは思い当たる節が無いかのように首を傾げる。
「否定もしませんか…みんながそう言っているから、私が悪女だから…それなら何をしてもあなたに非はないと?あなたは会話も交わしたことのない私を噂だけで悪と決めつけるのですか?噂がすべて真実だとも?そんな訳ありませんわ。私は『リノル公爵子息は柔和で心根の優しい方』そう、噂で耳にしましたが実際には違いましたもの」
「でも…」
最後まで言い切らず口を噤む。まるで子供のよう。純粋だから騙された?そんな言い訳など聞くに値しない。自分の行動だ。自分で責任を取れ。
「だが、証拠は揃っている」
絞り出したような声でジェナードが言う。また、視線をジェナードに戻す。
「なぜ私がこの国の聖女に…妹に害を加えるとお思いになるのですか?」
「お前はルルを毛嫌いしていただろう」
「いいえ、私は妹を家族だと思っています」
そう言った瞬間視界が揺れた。ドラカンに押さえつけられたのだ。我慢の限界が来たのか…。
「ドラカンっ!!」
チェルルカの悲鳴にも似た声が響く。他の人も少なからず驚いている。
「このっ!大人しく罪を認めろ!!」
大人しく話を聞いてほしいと言ったはずなのに。
「ドラカンやめて!お姉様を離して!」
「どうして…本当にルルは優しいな、だけどコイツはここで許しちゃだめだ」
同一人物とは思えないほどの優しい声音。あまりの変わりように背筋に悪寒が走る。
「でも、お姉様は違うのよ!悪女なんかじゃ…」
「ねえ、チェルルカ…あなたは私が嫌いかしら?」
「え?」
私と同じ黄金の瞳が揺れる。その瞳には私に対する悪感情など浮かんでいなかった。
「わ、私がお姉様のこと嫌いなわけありません…」
消え入りそうな声でチェルルカが言う。この子は気が弱い、いつも他人に合わせ他人のために損をする。私には理解しがたかったが愛らしいと思っていた。この子がヒロインであるのにも納得している。
「なのに、私は一人で勘違いして…お姉様に酷いことを」
チェルルカは泣き出してしまった。それを見たドラカンの手に力が籠もる。そろそろ離してくれないだろうか。仮にも一国の公爵令嬢が床に頭を付けられているのに誰も何も言わない。
「あなたはどうしたい?」
チェルルカにそう問うた。
「わ、私?わたしは…」
「チェルルカ!そんなヤツの言い分は聞かなくていい!」
リノルがそう言い私とチェルルカの間に立つ。
「第一…」
「っ――!!」
次の瞬間私は頭を押さえるドラカンを払い除け、リノルを突き飛ばしチェルルカを結界で囲う。その結界に魔法で作られた剣が当たり消滅した。
ホッとしたのも束の間…
「い、たっ――」
背中に痛みが走った。どうやら普通の短剣が刺さっている。この、紋章…教団か。邪神を崇め、聖女を抹殺しようとするものたちだ。
「まさかこうもあっさりとは」
背後で聞き慣れた声がした。かろうじて振り返りその姿を捉える。紫の髪に不思議な色をした瞳の美男子。教団の幹部――レオン。
「貴様は…!」
ジェナードが怒気をはらんだ声を上げる。チェルルカは結界から出ようと何度も結界を叩いていた。
「やあ、こんにちは王子。今日はとても良い日だね」
にこやかにレオンが告げる。
「学園の防御結界は万全のはずだ!」
「ねえ、君もそう思うだろ?ミアティア」
ジェナードを無視し私に笑いかけてくる。思わず鼻で笑って返した。
「皮肉が効いていますね」
ニッコリとレオンは笑みを深める。
「やっぱりこっち側につく気は無い?」
「あり、ません」
「そう?こんなやつらに何の価値があるんだ?よく分からないよ」
短剣に毒でも塗っていたのか…思考が上手く纏まらない。
「最初から私を狙って…」
「そうだよ。びっくりだね、いつも冷静な君らしくない…妹が危ないと思って焦った?」
レオンは何がおかしいのか笑っている。
私は一気に解毒と治癒を使い傷を癒す。右腹に刺さっていた短剣が粒子となり消滅する。
「いつ見ても凄いね、君の魔法は」
「…………」
立ち上がりキッとレオンを睨む。
「教団にはもう滅んでもらったほうがいいかしら」
「おお、怖いね〜」
思わず口から溢れた言葉にレオンはわざとらしく反応する。
「…はあ、ここは大人しく引いてくれないかしら」
「君がこちら側に来るというならいつでも」
「私は生憎無宗教なの」
「おい!!」
先ほどまで驚き固まっていたシャルールが声を上げる。その瞳は真っすぐこちらを見ている。何やら怒っているようだ。
「早く離れろ!ミア!」
「「は…」」
奇しくも私とレオンの声が被った。
何?離れろ?どうして…?
不可解な言動に思わず眉根を寄せてしまう。ただでさえ気が立っているのに…
「何してんだ!そいつは教団の幹部だぞ。何をしでかすかわからない」
さっき、すでに短剣で刺されたのに…何を言っているの。危ないって?それとも私とレオンが組んで何かするとでも思っているのかしら。
私はシャルールの本意を探ろうと表情を伺う。
「失礼な。僕はレディには優しいよ」
レオンはへらへら笑いながら私と距離を詰めてくる。
「ねえ、じゃあここで助けてあげるから一つ手伝ってくれない?」
「助ける?」
「そ、君は今国外追放になったんだろ?」
「なりましたけど…別に困っていません」
レオンは探るようにこちらを見るが私の言葉が本心だとわかったらしい。
「ふ〜ん、そっか…」
レオンは黙り何かを考えるかのように静かになった。
「ジェナード様!やっぱりコイツは生かしてはいけません!」
またうるさいと思ったらドラカンだった。どうやら私に振り払われたことがショックだったようで先程まで呆然としていたのに…。
「そうですよ、あんな売国奴処刑したほうが国のためです」
リノルも声を上げる。
ゲームではどちらも理想的な性格だったのに…やはり二次元と三次元じゃ違うのか。
それに売国奴?笑わせてくれるわね。
「私が売国奴ですか?意味が分かりません…この国に愛着が無いのは確かですが」
「冷たいやつめ!!」
また一段とドラカンに向ける声のトーンが低くし言う。
「冷たい…それは国民たちも同じではないですか?情報に踊らされ、自分で考えずに無知のままひたすら糾弾する相手を探している…今回はその相手が私だったみたいですね…」
「身分をかさにした報いですよ」
本当にリノルは何を言っているのか分からない。
まあ、分かりたくもないが…。無表情で見つめると肩をビクつかせるくせにその減らず口は閉じない。
「私は身分で人を判断しません…ですが高位貴族として産まれた義務と矜持を持って今まで耐えてきました…なのでもう自由になりたいのです」
「それ、僕が叶えてあげよう」
黙りこくっていたレオンが顔を上げそう言った。
「交換条件でと言うのでしょう」
「ああ、君の妹に手を出すのをやめよう」
「「「…!?」」」
「ただし1年間だけね」
その言葉にホール中が静になる。
(1年…それだけあれば敵の戦力を多く削ぐことができるはず…)
かなりの好条件…しかしその対価が気になる。
「…条件は?」
「君が僕と来ること。あっ、もちろん君の安全も保証するよ」
「…わかりました」
「!意外だな…」
自分で提案していて何なのか。何も全て飲み込んだわけでもない、が、破格の条件であるのは間違いないし、それを実行する力がレオンにはある。
「それなら、はい」
レオンがこちらに手を差し伸べた。私がその手に自らの手を重ねようとした時…
パリンッ――――――――
水晶を割ったかのような澄んだ音が響いた。
反射で振り返る。
「待ってください!!」
「チェルルカ…」
「…お姉様!行ってはだめです!私は大丈夫ですので…」
切実さを感じるその声に決心が鈍る。
(確かに原作では教団は主人公たちの手によって滅ぼされる…)
けれど本当にこいつらに妹を守れるのか?原作の攻略対象たちだからといって必ずハッピーエンドが訪れるわけでもない。
(…やっぱり任せることなんて出来ないわね)
私はチェルルカに微笑みかける。
「あなたはいずれ世界を救うでしょうね…」
「…!」
「でも、無傷でいられるかも分からないし、第一その人たちにあなたの命を預けるなんて愚かな真似は出来ないわ」
そう言って冷ややかな視線をジェナードたちに向ける。
「でも、大丈夫なんです!だって…」
「だって、この世界は乙女ゲームの世界だから?」
チェルルカが目を見開く。私は言葉を続ける。
「それでもね、バッドエンドだってあるのよ…ねえ、あなたは本当に大丈夫だと言える?」
「まさか、お姉様も…」
その瞬間妹が後ろを振り返る。そこにはいつの間にかレオンがいた。
「「…!」」
「はい、おしゃべりはそこまで〜もう、ぼくたちは行かなくちゃだ」
魔法で皆動きを止められているようだ。圧倒的な魔力量…そしてそれを操る技量。この行動に妹を傷つける意志は無いみたいだが思わず強張ってしまうほど。
「…なるほど、誰かが警備隊を呼びましたね…それともあらかじめ私を投降させるために配備されてたのかしら」
何だか疲れてしまった。早く全てを終わらせたい。
「妹から離れてもらえる?」
「そんなに睨まないでよ、言ったでしょ?僕たちは今パートナーなんだから」
思わずため息をつく。軽い足取りで近づき、手を差し伸べたレオン。今度こそその手を取る。ちらっとチェルルカを見た。とても何かを伝えたそうな顔。
「…チェルルカ…いや、さくら、あなただけは無事でいてね」
前世の妹の名を呼ぶ。そして微笑んだ。
レオンの転移魔法が発動し私たちの姿はホールから消えた。
「…もみじお姉ちゃん」
チェルルカの頬を涙が伝う。
いち早く魔法の解けたチェルルカの口から漏れたのはかつて自身を庇って死んでしまった姉の名だった。
読んでくださってありがとうございます(*´ω`*)