第七話 『12使徒』オダストロ
誤算。あまりにも大きな誤算だった。
レーにもパトリックもこの事態は予想できてはいなかった。
———まさか、至聖教幹部『12使徒』の一人、オダストロがケルン大聖堂内ではなく、その外から現れるとは。
レーは心の内でそう驚愕していた。
朝日のように輝くオダストロの両眼がレーの顔をしげしげと眺め、口が言葉を紡ぐ―――その寸前、レーは動いた。反動で路面の石畳をめくりあげる程の、剛力の膝蹴りがオダストロの腹部を急襲、体勢を崩したオダストロの白いローブを掴み、大聖堂まで力の限りぶん投げた。
「んー。謎ですが、気持ち悪い視線なんですね。」
一拍を置き、リンも戦闘に参加した。
「……っ!今のが『12使徒』オダストロ……。」
まだ土煙も晴れないうちに竹の連撃を大聖堂に叩き込み、風圧で煙が晴れる。
しかし、既にオダストロの姿はなかった。刹那、大聖堂からは音楽が流れ始め、その一音一音が周辺の空気を軋ませる。
「物騒だな……貴様ら。俺はそちらの男の方と、もう少し話をしたいんだが。」
ケルンに吹き荒れる風よりも速く移動し、再びレーとリンの眼前に現れるオダストロ。
穏やかな声を崩さずレーに話しかけた一方で、リンには完全に冷たい声をかけながら、彼女に接近した。
「そして、貴様は何者だ?」
オダストロがさらに一歩踏み込み、拳がリンを襲う。リンは辛うじて『能力』を行使。竹を創り出して防御を間に合わせるが、強い衝撃と痛みが防御越しにリンの腕へと響いた。
しかし、リンの顔を驚愕に染め上げたのはその威力ではなかった———竹の盾が『灰』となり、崩れ落ちたのだ。
レーもその様子を見ていたが、彼は臆することなくオダストロへ飛びかかる。
「やめてくれたまえ。レー、俺は君と話がしたいんだ。」
初対面のオダストロに名前を呼ばれ、違和感によってレーの動きが遅くなる。
隙を作ったレーは、オダストロに放った飛び蹴りをいとも容易くいなされ、足を掴まれ頭から地面に叩きつけられる。鈍い音とともに石畳に亀裂が走った。しかし、レーは腹筋の力だけで上半身を起こし、拳をオダストロの顔面に打ち付けた。
口の端から軽く血を垂らしながらもオダストロはレーを突き飛ばして、ついに怒りをあらわにした口調で言った。
「貴様……体術だけしか使ってこないとは……!!芸が無い。まさかここまで、このオダストロが舐められていたとはな……!」
「んー。貴方も"彼女”のことを舐めすぎかもしれなぁいんですね。」
「なっ……!」
オダストロがさっきリンがいた場所を振り返ると、無数の竹がもう眼前まで飛来していた。
「……"トルネスシンザス”」
ざらざらという音とともに、竹が無慈悲にも『灰』となって落ちてゆく。
「ふん。貴様相手に俺が『能力』の威力を披露することになるとはな。」
オダストロはそのまま上機嫌そうに話を続けた。
「俺のこの『能力』は俺の魔力で塗り替えた物体を灰に変える……それだけだ。
……おい、赤髪の小娘、お前もなかなか腕が立つようだ。貴様、名前は?」
「私はリンだ。オダストロ、今度はもっと魔力を込めて『灰』にされる前にてめぇに竹をぶっ放してやるよ。」
リンの全身を魔力が迸り、最大火力で眼の前の『12使徒』を穿とうとしたその瞬間。オダストロが口を開いた。
「そうか。ではリンよ、もう一つ『能力』を披露してやろう……"ラフン アルハラーク”」
オダストロは笑みを浮かべて魔力を込め、空気を軋ませていた大聖堂の『音楽』がより一層響き始める。
その旋律はケルンの街中を駆け巡り、オダストロを除く、ありとあらゆる物体・生命の魔力を『狂わせる』。狂わせられた魔力は次第に塗り替えられ、すべてが『灰』へと終着する。
(う……頭が軋むし、何だこれ……『能力』が制御できない……!?)
リンは魔力を乱されて悶絶し、さらに彼女の赤く伸ばした髪は先端から灰となって地面に零れていった。
―――『灰』と『滅びの旋律』が支配するこの戦場には、逃げ場も立ち上がれる者も存在しない
……はずだった。
「んー。なんだか付近の空気感が不気味になったんですね。オダストロ、あなたの仕業なんですか?」
(んー。まずいな……リンは動けそうにないか。それにこの『能力』の効果範囲!パトリックも今安全とは言い切れない。仮に無事でも、支援部隊の砲撃は届く前に灰になりそうなんですね。
……この男を弱らせ、『能力』を解除しなくては……!)
刹那の思考を経て、レーは眼の前の『12使徒』の撃退が最優先だと判断した。
灰と化す石畳を蹴り散らし、加速したレーはオダストロへと迫る。
「ロケット・レー!やはり貴様は動けるのだな!!」
こうして、旋律により灰と化して崩れ行くケルンの一角にて、命運を賭けた戦いは本格化していくのだった。
2つの『能力』を発動したオダストロ。
そして白熱するレーvsオダストロ!
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