第五話 戻ることは許されない
翌朝、レーが目を覚ますと、リンらは既に起床しているようだった。寝室までほのかにベーグルの香りが漂い、レーは空腹感に襲われた。
レーが急いで、食堂へ向かうとリンとパトリックは既に食事を始めており、どうやら作戦会議が始まっているようだった。
「んー。寝坊してしまったんですね。申し訳ないんですね。」
レーが申し訳無さを微塵も感じさせずに言った。
「レー殿、リン様とこのパトリックで立案した、現段階での作戦の概要をお伝えします。」
そう言って、二人は作戦の内容を説明し始めた。
「今日の夜、エジンバラを発ち、夜明け前、ケルンに到着します。」
「そして、『12使徒』オダストロのいるケルン大聖堂に突入。昨日の作戦と違うところは、昼間ってこととパトリック率いる後方部隊の砲撃支援をふんだんに使えるってことだな。」
「んー。しかし……街の中で大砲なんてぶっ放したら流石に……下手をすれば国家との戦争になるのでは?それに我々が居なくなった後、ブリテン島はどうなるんーですか?」
パトリックは悲しくとも衝撃的な事実を述べて答えた。
「ドイツ帝国……いえ、ヨーロッパの国の政府にはもう既に至聖教の息がかかっております。どちらにせよ、政府もここで潰す必要があるということでございます。」
リンもパトリックに続けて返答した。
「私たちの居なくなった後のブリテン島は、かろうじて残っていた至聖教の息がかかっていない現地政府に任せるつもりよ。邪魔になりそうな教徒軍は昨日のエジンバラでほぼ壊滅したみたい。
これは、至聖教に対する初勝利なの……ロシア皇帝と皇帝派閥の貴族が、わずか一人の『12使徒』によって籠絡されて以降の世界では。」
「んー。私達が戦ったかいがあったんですね。」
「実は、他にも至聖教へ抵抗を続けている勢力はあるのよ。その筆頭、日本政府とも協力を深めたいわね……
それはそうと、ケルンに向けて色々準備しなきゃいけないわ……そうね。パトリック、ケルンに向かうための船を予約しておいて。」
「はっ!リン様。了解いたしました。レー殿もリン様も出発へ向けて英気を養わねばなりませんから、雑務はこの警備隊長パトリックにお任せください。」
「それじゃあ、よろしくね。私達は出発に向けて準備をしているわ」
その後、作戦会議は解散され、各々が『12使徒』オダストロの居る地ドイツ、ケルンに向けての準備を初めた。
彼らの準備も一段落ついたころだった。その日の昼は、晴天で、のどかであった。一行はエジンバラ市内を軽く歩き回った後、出発の夜まで仮眠を取った。
夜。エジンバラで見る最後の夜は一行の目にどう映っただろうか。レーたちにとって、その夜は忘れられぬ夜となるのは確かであろう。彼らの目にとっては、瓦礫と化した神学校ですらどこか神秘性があるように見えたに違いない。
「パトリック、少し空模様が悪いみたい。少し早めに出発してくれる?」
「承知。レー殿もそれでよろしいでしょうか?」
「んー。私も早く出たいんですね。『12使徒』の顔を早く拝みたくて仕方ないんですね。」
一行がエジンバラを発ったその後、闇夜の、雷雲の立ち籠めるエジンバラに3人の人間が突如として現れた。
『12使徒』のみが着用を許された、宝石の散りばめられた白色のローブ———それに身を包んだ、金髪で白銀の瞳の男は『フクロウ』を肩に止まらせた。
「厄介者たちの動向は掴めたことだし、俺も動くとしよう。
セン、残りの仕事は任せたよ。」
そのセンと呼ばれた紫……いや、淡いピンクというべき色の髪を持つ小柄な少年ははっきりと答えた。
「承りました。マヒュー・ヘルム様の仰せのままに。」
彼は右目をその長い前髪で隠しており、代わりにと言うべきか、くりんとした左目は暗闇の先を照らせるほどの眩い黄緑の光を放っていた。
そして、残りの1人———同じく『12使徒』のみが着用を許されたローブを深々と被った女は、退屈そうに、でもどこか上品に口を開いた。
「ところで……この子とわたくしはもう帰ってもよろしいですの?このセラフィナ・ジャ=レーヌの『能力』を移動手段に使って、何がしたいのかまでは存じませんけれど。」
マヒュー・ヘルムは「どうぞ。それに、ここからは俺1人のほうが都合がいいんだよ。」と邪悪な笑みを貼り付けて返答し、白のローブを脱ぎ捨てセンに渡した。
———彼はそのまま夜のエジンバラの住宅街へと歩いていき、次第に彼の姿は闇夜に包まれ消えていった……
新キャラ大量チラ見せ。
幕間を挟んでからの、第二章幕開けとなる次第です。
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