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第8話 ゴッドファーザーのひみつ

 2階のひと部屋は、母さんがフェンリルの姿になって寝転べることができるくらいのゆったりスペースとなっている。

 というわけでその部屋でレッツミルクタイム。

 ミイも俺も腹ペコだった。


「それじゃ、頼んだよ」


 ミルクタイムが終わると、母さんとドラゴン兄さんは残りのキッズたちを運ぶためにすぐに玄関に立った。

 ほんと、お疲れ様。でも洞窟にも腹ペコになったキッズたちが待っているはずだ。

 俺はいい子で待っているよ。

 帰ってきたらいっぱい労いのスマイルをプレゼントしよう。そうしよう。


 さてさて。

 いまから俺とミイは人生はじめてのお留守番――。


「ああ、子どもたちのことは任せなさい」


 ではなく、ゴッドファーザー・シアンが俺たちの面倒を見てくれるらしい。

 ああ、素晴らしきかな、協力者! こういうときは大人に頼るのが一番だよな!

 でも、ちょっとこんな厳格そうな人といっしょだと思うと緊張する~。

 粗相しないようにしないとな。


 眉間に皺をよせたシアンはふたりを見送ったあと、俺とミイを床に敷いたラグの上に寝かせてくれた。

 さらに掛布団までかけてくれる。おまけに、俺の服の首もとをゆるめてくれる。実はちょっとキツかったからこれはうれしい。

 シアンはずっと仏頂面で、赤ん坊の世話は本意ではないといった様子だが、その手つきは意外とやさしい。


 本音を言えば世話ついでに、俺とミイをぴったりくっつけて寝かせてほしい。 

 あんたは知らないだろうが、フェンリルキッズの腹にくっついて寝るの、最高なんだ。こう、心臓の音がちょうどよくてさぁ……。

 目で訴えてみる……けど、だめっぽい。さすがにその願望は伝わらないらしい。


 まあ、安心してくれ。俺はそこいらの赤ん坊とはひと味ちがう。

 気に入らないからといって、泣いたりぐずったり喚いたりして迷惑はかけないぜ。


 さてさて。スキルはオフにして温存だ。

 不便にはなるが、街には危険は少ないはずだ。

 そして母さんたちが街に戻ってくる頃にまたスキルをオンにしよう。ここからではスキルを使っても洞窟まで見ることはできないが、ある程度近づいてきたなら見れるはずだ。

 で、危険がありそうならギャン泣きしてシアンに伝えよう。

 うん、ぜったい伝える。俺にはできる。


「だあ」


 喉のチェック、よーし。

 さて。そうと決まるとやることはひとつ。

 ――俺は目を閉じた。

 なんといっても、俺は赤ん坊だ。飲んだら寝る。それが基本だ。

 寝るのが得意なミイはもうとっくに夢の中だ。

 俺はすぐに夢の世界にとびたった。




 ぷっにぷっにぷっにぷっにぷっに


 うーん……。


 ぷっにぷっにぷっにぷっにぷっに

 ぷっにぷっにぷっにぷっにぷっに


 んー……誰かに、腕をぷにられてる……? でも、うぅん……俺はまだ寝る……。


 ぷっにぷっにぷっにぷっにぷっに

 ぷっにぷっにぷっにぷっにぷっに

 ぷっにぷっにぷっにぷっにぷっに


 ああー、もう。しつこいなぁ。

 なんだよ、せっかく気持ちよく寝てたってのに。


 目を開けて……ああ、そうだった。俺ってばまだ赤ん坊。あんまり見えないんだった。

 よし、スキル【天眼】、スイッチオン。えっと、ひとまず視点は俺の目の位置で。

 

「だあ!?」


 ……びっっくりしたぁ!

 目の前には、ゴッドファーザー・シアンの涼やかな明るい青の目があった。

 なんだよ、シアン。そんなにじろじろ見て……。ち、近すぎないですか???


 いつもの俺なら見つめてくる大人にはサービススマイルをプレゼントしてやるのだが、彼は反応がイマイチなのでやめておく。

 あれだろ、シアンはなんか生徒指導の先生っぽいから、かわいいタイプより優等生の方が刺さるタイプなんだろ。たぶん。

 俺、いまけっこう優等生にしてるぜ?


 俺になんか用か???


 ぷっにぷっにぷっにぷっにぷっに

 ぷっにぷっにぷっにぷっにぷっに


 ……もしかして、さっきから俺のぷにっぷにな二の腕をぷっにぷっにしているのって、シアンだったり、する……?

 スキル【天眼】がご丁寧に彼の腕をアップにして映してくれる。

 う~ん、シアンが俺をぷにぷにしてるぅ……。


 Oh、ゴッドファーザー……ま、まあ、気持ちはわかるよ。気持ちいいもんな、赤ちゃんの腕。ちぎりパンみたいで。

 あんたには世話になるわけだからな。遠慮なくぷにっていってくれ。

 とはいうものの……。

 どんな顔でぷにっているんだ?


 ああ……そんなことを考えたらスキルが勝手にシアンの顔を見せちゃうよな~!

 俺、そんなつもりじゃなかったのにぃ。あーあ。

 俺の意志とは関係なく(重要)、視点が動きだす。俺の目の位置からは彼の顔が近すぎて見えないが、視点はまわりをぐるりとめぐってうまいこと見える位置でとまって――。


 シアンは、でれでれした笑みを浮かべていた。


 ……わかってるよ。ゴッドファーザー。俺、口は堅いからな。安心してくれ。

 普段仏頂面のあんたが俺の腕をぷにぷにしてでれでれしているだなんて、誰にも言わないよ。

 たぶん、俺も同じ状況だったらそうする。ぷにりまくる。そして、たぶん、その、人に見せられないようなだらしない顔になる。


 いや、あんたのいまの顔をだらしないと言っているわけじゃないぞ? ……たぶん。

 うん。男同士の約束だ。これは見なかったことにする。

 

 そう俺が心を決めると、彼は俺の二の腕に満足したのかやっと手を放した。


「すーーーーーーっ……はーーーーーーーっ」


 ……そして次は、隣で寝ているミイの腹に顔をうずめて吸いだした。

 

 ゴッドファーザー?? ゴッドファアザァアア!?

 はい! ピピーッ!! 現行犯!!


 俺は中身17歳だからいいけど、ミイはまだほんとうに子どもなんだぞ!

 やめろー! 俺にもやらせてくれー!!!

 俺はまだ自力で寝返りできないんだぞ! 俺のミイのお腹という名のパラダイスに連れていってくれー!


 はっ、つい本音が……!

 ああ! でも、でもでも! いいなぁ!

 いや、実は俺は毎晩やってるけどな! 優越感!


「すーーーーーーっ、はーーーーーーーっ」


 おかわりしてるぅうう!

 ミイ、起きろ! 吸われてるぞ!

 ……くぅ、駄目か、ミイは一回寝たらまじで起きないっ……!

 俺が手足をばたばたさせて抗議の意をあらわすと、シアンはフェンリル吸いを一回やめてこちらを見る。


「起きまちたか~?」


 ……うっそだろ、おい。

 ……大丈夫、俺は口が堅い。

 俺は! イケメンで長身、涼やかな目と生徒指導の先生的な厳格な雰囲気をもつこの人物が! 赤ちゃん言葉を話すことを黙秘すると! 誓いまぁす!


「ん~かわいいでちゅね~」


 俺はなにも見てない聞いてなああああい!!




 フェンリル夫婦とドラゴン兄さんが3体のキッズたちを連れて戻って来たのは昼を過ぎてからだった。

 結局、スキルを使って彼らの道中を見守る作戦は行えなかった。いや、スキルは使っていたんだが、ちょっと自分がいるところから目が離せなくて……。うん。

 なにを見たかは、言うまい。俺の胸にしまっておく。

 しかし、この小さな胸にはでっかい秘密だ。……しまっておけるかなぁ……不安だ。


 彼らが戻ってくると、シアンはその威厳ある姿を取り戻し、低い声で言った。

「子どもたちは手がかからなかったぞ。……私は戻る」

「今日くらいみんなで夕飯食べないかい?」

「スイ。せっかくだが、仕事を残してきている」


 仕事中だったのかぁ……。それは、うん、まあ、迷惑を、かけた?? いや、仕事中にフェンリル吸いとはうらやましいなぁ……。


「ではな」


 かっこよく去っていく彼の後ろ姿。

 脳裏によぎるのは「ばぶばぶ~」と俺をあやす彼の顔――はっ! いかんいかん。もう触れまい。ゴッドファーザーの威厳は俺が守る。


 ……今日はなんだか、いろいろあった。

 引っ越し、人間の街、名前をもらって、それから……。

 家族の顔を見たら、急に安心して……。


「リゲル? あら、寝るのかい?」

「寝かせてあげましょう」


 母さんの声、ドラゴン兄さんの優しい手。

 ああ、いろいろあったけど……俺たち、これからもいっしょに暮していけるんだな……。


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