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第6話 やっぱり俺の異世界転生はハードモード!

 さてさて。毎日毎日、睡眠、食事、たまにスマイルでドラゴンをノックアウト。

 ああ、異世界暮らしは最高だ。


 洞窟で暮らし始めてもうどれくらい経ったのか。

 少なくとも、スキル【天眼】で見ることができる範囲を見尽くし、見飽きるくらいの時間が経った。

 となると、もうスキルでやることがないわけで。


 当初はスキルの性能を知ろうと、あれこれ使いまくっていたが、いまは必要がないときはオフにしたままだ。

 そして気が付いたのだが――スキルは使えば使うほど疲労する。

 いや、当たり前かもしれないんだが、ほんっっとうに疲れる。


 それこそ異世界転生したてのときは異世界転生ハイになっていてなんともなかったが、アドレナリンが切れたいま、ぶっ通しで使うと疲弊して次の日がたいへんだ。


 いや~……若くても疲れは1日ではとれないもんだなぁ……。

 あ、ちなみにスキルはちまちまと使って切ってという使い方ならわりと長く使えることがわかっている。

 

 というわけで、いまはただ赤ん坊らしくごろごろしている。

 だってここは、最強フェンリルと最強ドラゴンが守る洞窟の中だ。危険なんてなんにもない。


 俺は今日もフェンリル母さんの腹の上に寝転がって、キッズたちのしっぽをつかんだり、反対にしっぽに顔をはたかれたりして遊んでいた。

 俺はすっかりこの家族の一員である。


 フェンリル母さんはスイという名前で、父さんはジェイという名前らしかった。

 名前はわかったが、俺は彼らのことをこの世界の両親だと思っているから、これからも母さん、父さんと呼ぶつもりだ。


 そしてキッズたちはそれぞれミイ、ロイ、ピイ、サイというらしい。

 4体とも見た目はふわふわの白い毛玉なのだが、いっしょに過ごしていくとだんだん見分けがついてくる。

 いつも寝ていてふにゃふにゃしているのがミイ、俺とよくしっぽで遊んでくれて面倒見がいいのがロイ、食欲旺盛でいつもミルクをねだっているのがピイ、そして活発に動き回っていつも父さんに回収されるのがサイだ。


 そして最大の特徴として、みんなかわいい。

 遊んでいたら唐突に充電切れで寝始めたり、ふにゃふにゃふがふがと寝言を言っていたり、ミルクを飲み終わるとお腹がぽよんぽよんだったり。


 ああ、かわいい~~~!!

 ジェイが親馬鹿になる理由がよくわかる。この生き物は愛でられるために生まれてきている。

 うんうん、間違いない。


 そして名前といえば、俺にはまだ名前がない。

 否、正確には小林ヒカルという前世の名前はあるのだが、こちらの世界での名前がないわけだ。

 俺の保護者たちも考えてくれてはいるようだが、いまだ正式決定には至れていない。

 いまのところ仮で「おちびちゃん」と呼ばれている。子猫か。あ、いや、フェンリルやドラゴンから見れば俺なんておちびちゃん極まりない存在なのかもしれないが。


 「おちびちゃん」――まあ、悪くはないが、よくもない。

 あ~あ、はやくしゃべれるようになりたい。

 そしたら俺はヒカルですって言えるのに。

 ほんとうは異世界での新くてカッチョイイ名前がほしいところだが、おちびちゃんよりヒカルのほうがいいだろう。


 俺はふんぬ、と手足に力を入れてみる。もう少しで寝返りがうてるようになりそうな感じだ。 

 少し気が早いが、体を鍛えはじめてもいいかもしれない。

 ムキムキマッチョになって剣士になるってのも異世界っぽくていいよなぁ。

 異世界生活。将来の職業への夢が広がる。


 目の方も少しだけ光を感じられるようになっている。

 俺の自立のときも、近い、かもしれない。



 そうしていつものようにごろごろとしていると、今日はまだドラゴン兄さんが来ていないことに気がついた。


 あれ? 毎日欠かさず夜明けとともにやってきては俺に頬ずりしていくのに、今日はどうしたんだ? 

 感覚的にはもう昼は過ぎている。

 そんなときはもちろん、スキル【天眼】だ。


 『Hey、Tengan! ドラゴン兄さんはどこ?』


 視界が急激に開け、そしてぎゅん、と視点が動き出す。

 そしてそれが止まるとドラゴン兄さんが映し出されるはずで。

 まだ寝てんのかなぁ。お寝坊さんだな~、なぁんて考えていたら。


 ――ドラゴン兄さんは、光る首輪で大木に繋がれていた。


 ええええええ!?

 ど、ど、どういうこと!?

 何があったんだ!?


 兄さんは懸命に翼を動かし、空に逃れようとしている。

 地上からは銃声が響き、見るとそこには例のふたり組ハンターがこちらに銃口を向けていた。


 えええええ!? あ、あんたら、まだドラゴン兄さんのことを追いかけてたの!?

 しかもなんか捕まえてるっぽい!?

 これってまずいよな!?

 兄さん無事!?


 ……落ち着け、兄さんはドラゴンだぜ?

 この光ってる首輪はたぶん、なんというか、ファンタジー的なあれなんだろうけど、銃くらいでドラゴンが倒せるわけないよな。

 ハンターなのかどうか知らないけどさ、いいのかい、人間がドラゴンなんて怒らせちゃって!?


 強気な俺だったが、予想に反してドラゴン兄さんは反撃をはじめない。

 銃弾が何度か彼の体をかすめていく。

 ドラゴンハンターらしきふたりは余裕の表情で、兄さんは苦悶の表情を浮かべている。


 ……もしかして、もしかしてだけどさ。

 ドラゴンって、この世界でそんなに強くなかったり、する????

 いや、そんなまさか。だってドラゴンだぜ???


 俺は背中に嫌な汗が流れるのを感じながら【天眼】に尋ねた。

『ドラゴンって、こっちの世界でどんなポジション?』

 

 ハンターの荷物には、あのドラゴンの絵が描いてある手配書がある。【天眼】はそれの細部を映し出す。

 ――そこにはドラゴンの部位ごとに数字が書いてあった。


 鱗 10000

 爪 15000

 牙 19000


 ……うーん???

 あれ、あれれ???

 ドラゴンって、ゲームでいうところの、いい素材をドロップするモンスター、みたいな感じ??? 

 これはもしかして、ドラゴン兄さん、ピンチか?


 ドラゴン兄さんはというと、懸命に翼を動かしているが、時折大きくバランスを崩し、そのたびに高度が下がる。

 高度が下がると、銃弾が届きやすくなってしまう。


 やばいよ、これやばい!!

 すぐに助けを呼ばないと!!!


 俺は視点を洞窟に戻すと、思いっきり息を吸い込んだ。

「うあああああん!」

 全力で泣きだすと、すぐにフェンリル夫婦が顔を覗き込んでくる。

「あらあらおちびちゃん、どうしたんだい」

「何だ。腹減ったか?」

「あああああああ!!」


 へるぷ。へるぷ。ドラゴン兄さんがエマージェンシー。

 最強フェンリルさんたち、あの悪い人間をやっちゃってくださいよぉおおお!

 ……という思いを込めて、俺は泣いた。

 だって俺は赤ん坊だ。それしかできない。


「あああああああ!!!」


 ひたすら泣く俺。フェンリル母さんはまじまじと俺を見ている。

「なんだか、様子が変じゃないかい?」

「……腹でも痛いのかもしれない」

「それはあんただろ。いっつもいっつもお腹痛い痛いって……」

「うるせぇ」


 母さんは俺の体を確認する。

「おかしい。熱もないし、おむつもきれいで、さっきミルクも飲んだところだ」

「じゃあ退屈したんだろ」

 そう言って、フェンリル父さんは人間に化けてあやしはじめる。

「ほ~ら、おちびちゃん、ばぁ!」

 ああっ、父さんったら、ダンディな顔をして変顔が全力っ……!

 ってちがうちがう。


「ああああああああ!」


 父の変顔を見なかったことにして、俺は泣き続ける。

 どうか届いてくれ、俺のSOS!!

 ああ、こうている間にもドラゴン兄さんが……!


 視点を動かして兄さんを見に行く。



 ――ドラゴン兄さんは、鎖でつなげられた大木をぶら下げたまま飛行していた。




 ……うっっわ、すっっっっげぇ。

 え、抜いたの?? この大木を?? このえげつない根っこのやつを?

 引き抜くだけでなく、絡んだ土ごと持ち上げて飛べるの???

 え、やっぱりドラゴンすごくね???


 なんだよ、やっぱり助けなんていらなかったのか。

 あれか、舐めプってやつかい、兄さん。

 おどろかせるなよ、兄さん。


 少しすると、彼は洞窟のある断崖絶壁にたどり着き、そのまま人型となった。

 人型になると、光の首輪はするりと抜けた。

 そして大木だけが断崖絶壁を転がり落ちていった。



 彼が洞窟に入ると、父さんと母さんは目を丸くした。

「シルヴァ……! あんた、どうしたんだい」

 そりゃそうだ。彼の髪は振り乱れ、おまけにひどい顔色で、汗びっしょりだ。

 彼はきっと最強フェンリル夫婦に助けを求める第一声を発するだろう、と思ったが、その予想は大きく外れた。


「私の番はっ!?」

「え!?」


 彼は父さんの腕の中にいる俺を覗き込む。

 俺は「だぁ?」と言う。


「………………はー………生きている」


 ドラゴン兄さんはその場に膝をついて胸を抑える。

 いったいなんだ?? 俺よりあんただろ、ピンチなのは。

 彼の服はところどころ焼け焦げている。


「いったい、なんだっていうんだい」

 母さんが問うと、兄さんは上ずった声で答えた。

「なんだか、嫌な感じがして……。この子が、この子が呼んでいるような気がしたんです。それで、無我夢中で……」

「いつもとはちがう感じで泣いてはいたけどね。いまはもうケロっとしてるよ。ほら、顔を見てやってよ」


 彼の腕の中に渡される。

 俺はプロの赤さんだから、疲れた彼に対してとるべき最適解の行動をとれる。


 にぱっと笑って、両手をにぎにぎだ。

 ――ドラゴン兄さんは一瞬で笑顔になった。

 いいぜ。いっぱい癒されてくれ。


「……この子に呼ばれている気がしました。それで、いつもよりずっと強い力で逃げ出せました。助かったのは、この子のおかげです」

 フェンリル父さんが鋭く問う。

「逃げ出した? 誰かにやられたのか?」

「……人間に」

「大丈夫か。手当はいるか」

「いえ。銃は距離があったので、鱗の下まで届いていません。ですが、人間が近くまで来ています。奴ら、追ってくるかも……」


 そうだよ、人間!

 フェンリル夫婦で追い払っちゃってよ!

 あいつら、ドラゴン兄さんを素材にしようとしてるんだ!


 ……と、いうことを伝えたいのだが、口からは「だあだあ」と出ただけだった。

 う~ん、無力。俺ってやっぱり無力。


 しばらく沈黙が続いてから、フェンリル父さんは渋い声で言った。


「……巣の場所を移そう」


 あれあれあれ。

 戦わない感じ???


 もしかしてもしかして!

 いやいやいや。

 い、一応、一応、聞いてみるか。

 『【天眼】さん、【天眼】さん、フェンリルってこの世界でどんなポジションですかね??』


 視点が動く。

 そしてまたあのハンターが映し出され、次に彼の荷物の中にある手配書・フェンリルバージョンが映し出される。


 毛皮 12000

 爪 18000

 牙 10000


 うわああああ!

 わかってた、なんとなく察していたけれども!!

 やっぱりフェンリルもドラゴンも、狙われている側か!


 いやでも! そんな馬鹿な!

 だってデカくて人間の言葉を理解して化ける生き物だぞ!?

 そんなん神の化身に近いだろう!?

 その爪と牙はなんのためにあるんだよっ……。


 いや、視点を変えよう。

 人間が強いんだ。

 鉄砲。火薬。科学。うーん……ドラゴンを日本でいうところの熊くらいだとしたら……?

 丸腰の人間は逃げ出して、武器を持ったハンターたちは挑んでくる。

 うーん。納得かも……?


 俺がうんうんと考えている間に、父さんと母さんはてきぱきと引っ越し準備をはじめてしまった。

 ああ、やっと衣食住が揃ったと思ったのに、もう住を失うことになるのか……。

 ぐっばい天国。ぐっばい安寧の地。


 やっぱりやっぱり、俺の異世界転生、ハードモードだ!!!



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