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第5話 俺の異世界転生はイージーモード???

 寝て起きたら視界の端から警告文が消え、スキルが使えるようになっていた。

 よかったぁ~。これでクールタイム1年とかとんでもないクソゲー設定だったらどうしようかと思っていた。


 スキル【天眼】を発動させると、薄暗い洞窟とフェンリル母さんと狼キッズ改めフェンリルキッズ、そしてフェンリル父さんが見えた。みんなで体を寄せあって眠っている。そのなかに俺は埋もれるように横たっている。ここは天国か??

 手を伸ばしてフェンリルキッズのしっぽを掴んでみる。ふっわふわである。ふわっふわ。たまらん。

 匂いも獣臭は少なくて、香ばしいいい香りがする。うん。間違いない。ここは天国だ。


 じっくりと彼らを見る。

 フェンリルという種族らしい彼らは、白いくて長い毛並みに、ぴんと立った耳、大きな口に、牙がある。太い前足には爪もあるのだろう。


 ……なんていうか、強そうだ。


 おまけに人間に化ける能力もあるし、会話できる知能もある。

 伝説とかそういうたぐいのものだったとしてもおどろかない。

 そんな生き物をベッドにしている俺。

 やっぱり俺の異世界転生、イージーモードかもしれないぞ?


 と、まあ調子に乗るのはあとにするとして。

 さて、フェンリル家族を確認したら次はドラゴン兄さんを、と視点を動かしたところで気が付いた。

 あれ、ドラゴン兄さん、洞窟内にいなくね?

 どこに行ったんだ?


 そのとき、視点がぎゅんっと動いた。

 あー、そうだった、そうだった。この機能のことを忘れていた。スキルは見たいものを見せてくれるのだ。


 猛スピードで動いていた視点がぴたりと止まる。

 そして視界いっぱいにドラゴンが映る。


 うお、ドラゴン! いつ見てもファンタジー!

 ぴかぴかの鱗に、かっちょいい羽に、ぎらぎらの爪。

 ロマンが詰まった造形美!


 くぅ~。これこれ。なんだかんだと慌ただしくて、ぜんぜんじっくり見れていなかった。

 俺はスキルを使ってこれでもかというくらいにドラゴン兄さんを見てまわった。

 気分はグラビアカメラマンだ。

 いいよぉ、すてきだよぉ、こっち向いてぇ~! きゃー!


 う~ん! 強そう!

 フェンリルも強そうだったが、ドラゴンも強そうだ。

 きっと火を噴いて国を一晩で消滅させることができるに違いない。

 よっ、夢あふれるファンタジーの生き物! 俺の異世界転生をイージーモードにしてくれてありがとう!


 彼は崖にへばりつくようにして休んでいる。

 鱗は鏡のようになり、周囲の景色を映して溶け込む。

 彼は眠っているようだ。瞼がしっかり閉じている。


 なぁるほど、瞼があるってことは、ドラゴンはトカゲに近いのか。

 うんうん。新発見。くぅ~。もっとドラゴンについて知りたいぜ。

 ちなみに瞼がなくて、瞬膜と呼ばれる薄い膜で下から上に閉じるような瞬きをしていたらヤモリ、瞬膜もなく瞬きもしないのがヘビである。


 太陽を見るとまだ夜明け前。

 フェンリルもドラゴンも、昼行性と考えていいのかもしれない。


 爬虫類好きとしてはいろいろと生態を知りたいところである。

 俺は前世では亀やトカゲやモニターを飼っていた。

 車に惹かれたあの日もペットのカメ子とイグ男を健康診断のために動物病院に連れていく途中だった。


 ……ああ、亀のカメ子とイグアナのイグ男は無事だろうか。

 爬虫類特有の鱗の輝きを見ていたら、どんどん彼らが恋しくなってきた。

 カメ子、イグ男、どうか無事でいてくれっ。


 無事、という言葉が脳裏によぎったとき、やっとドラゴン兄さんが怪我をしていたことを思い出す。

 怪我、と念じれば、ドラゴン兄さんが怪我している右後脚がアップで写される。

 うーん、痛そうだ。

 これは切り傷だろうか。鱗の下までやってしまっている。


 というか、なんでドラゴンが怪我をしているんだろう??

 そして、どうして怪我をしている兄さんが洞窟を離れてこんなところに?

 

 次々と疑問を浮かべると、視界がぐらぐらと揺れた。

 まるでどの疑問から答えるべきか悩んでいるかのようだ。


 次はきちんと意識してスキルを使う。

 『どうしてドラゴン兄さんが洞窟にいないんだ?』

 とひとつの疑問を思い浮かべると、視点がゆっくりとドラゴン兄さんの周囲をぐるりと一周し、それから洞窟が映し出された。


?????

 俺が困惑していると、今度はドラゴン兄さんのつま先から頭まで視点が縦に動き、今度は洞窟の下かた天井まで視点が縦に動いた。


 ????

 俺が呆けていると、「だーかーらー」とでも言いたげにまた同じように視点が、今度はゆっくりと動く。


 あー……もしかして、高さ的に入らない、みたいな感じか???

 俺がそう思ったとき、視点の動きがとまった。――どうやら正解っぽい。

 ……スキルって意外と人間味があるんだな。ひとつ勉強になった。


 では次『なんでドラゴンが怪我をするような事態になっているんだ?』

 再び視点が俺の意志と関係なくぎゅん、と動く。

 そして映し出されたのは――。


 あ! あの2人組だ! あの、山の近くでドラゴンを探してたっぽい2人!

 やっぱり前回同様に、ドラゴンが描かれた手配書のような紙を片手に山に分け入っている。

 視点は彼らが担いでいる銃をアップで写している。銃、といってもマシンガンとかそういうのではなく、たぶん火縄銃とかそういうレベルの銃のように見える。


 ということはつまり、ドラゴン兄さんはこの銃にやられて怪我をしたっていうこと?

 このふたりは何者なんだ? ドラゴンハンターってやつか?

 とにもかくにも、許せーん!!

 いまとなってはドラゴン兄さんは俺の恩人! いや、恩ドラゴン!


 とはいえ、ドラゴン兄さんは空も飛べるし、こんなちんけなハンターにやられるとも思えない。

 なんたって、伝説の生き物だぜ??

 仕留めるなんてぜぇええったいに無理無理。



 俺は意気揚々と視点をまた洞窟に戻す。

 フェンリルキッズたちが目を覚ましはじめ、彼らはふんふんと鼻を鳴らしている。

 すぐにフェンリル母さんと父さんが彼らをぺろぺろと舐めてやる。

 キッズたちのしっぽはプロペラのようにぶんぶんである。


 あ~。いいっ。

 ま~じで癒される。

 どうしてこんなに生き物の親子の光景は心を癒してくれるのだろう。


 俺も「だあ」と起きたアピールをすると、母さんがぺろぺろと舐めてくれる。

 そしてそんなほんわかフェンリル家族に俺まで入れてもらえているという奇跡。

 現代日本が失ったものがここにはある。


 そうして朝の幸せタイムを満喫したあと、フェンリル父さんはおもむろに起き上がった。そして一回大きく体を伸ばしたあと、ぽん、という効果音とともに人間に化けた。


 わぁ~お、ダンディ~。


 彼は白い長髪を高いところでひとつにまとめ、瞳の色は金色だ。精悍で、葉巻とかを咥えてそうなイメージの男だ。かっちょいい。これは強い(確信)。

 そんなダンディな男におむつを替えてもらう。

 ……いやぁ、お手数をおかけしてすんません。しかしこっちは赤ん坊なのだ。甘えさせてもらおう。


 父さんはてきぱきとおむつを替えると、そのまま俺をまた母さんの腹の上に戻してくれる。

 おむつも着替えもフェンリル父さんとドラゴン兄さんが用意してくれたものだ。

 う~ん、ダンディでイクメン。一点の隙もない。


 洞窟の奥には天井から垂れてきた水が溜まっている場所があり、それは飲むことができた。

 体を洗うのは、洞窟を出ると断崖絶壁を流れる小さな滝があり、その水を使う。

 俺は人間に化けたフェンリル父さんに洗われてきれいさっぱりすると、再び洞窟に戻された。


 戻ったら、キッズたちがきゅうきゅうとせつなげに鳴らしていた。

 くりくりの目が、なにかを訴えている。

 食事の時間だ。

 俺も彼らに混ざって、腹いっぱい飲んだ。するとちょっとうとうとしてきたので、キッズたちのしっぽで遊んで眠気をごまかした。


 そして朝日が昇れば、人間に化けたドラゴン兄さんがやって来た。

 彼ときたら、俺がちょぉおっと笑うだけで大げさに喜ぶもんだから、ついついサービスしてしまうぜ。

 そして彼は俺を抱いたままずっと離さなかったため、途中でフェンリル母さんに叱られた。

 彼はしょげていた。

 爬虫類って表情の変化が少ないと思っていたが、人間に化けるとかなりしっかり表情が変わるようだ。

 新発見。


 そうして起きたままスキルをつけっぱなしにすること半日少々。

 またスキルが使えなくなった。

 なるほど、スキル【天眼】はマックス半日、といったところだろうか。

 そして回復は1日、と。

 明日は小出しにして回復しながら使えるのかどうか確かめよう。


 ああ、それにしても、あたたかい寝床と、おいしい食事、清潔な体。おまけにいい家族もいて。

 うん。どうなることかと思ったが、住めば都という先人の教えはほんとうだ。

 最高だぜマイホーム。最高だぜフェンリル一家。最高だぜドラゴン兄さん。

 異世界暮らしも悪くないぜ。


 



 

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