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第10話 スキル持ちとは!?

 ある日の昼下がり、俺たち一家が暮らす家に訪問者があった。

 ぴんぽーん、なんていうドアチャイムはこっちの世界にはなくて、ドアを力いっぱい叩くのがそれの代わりだ。


 ドンドンドン!!


 ……とはいえ、今日の来客のノックは激しすぎないか??

 は? なんなんだ。がさ入れかよ。

 キッズたちはびっくりしてしっぽを丸めて部屋の隅っこにあつまっている。

 うん、隠れていろよ。これはよくない客だ、きっと。


 と、キッズたちを背中に庇うつもりが……なぜか俺はだんごになったキッズたちの中心に押し込まれる。

 キッズたちよ……俺のことを末っ子だと思ってないか?? たぶん俺が長男だぜ??


 1階で母さんが玄関を開けたようだった。

「誰だい?」

「ああ、こりゃどうも。我々はとある貴族様からの依頼で来たのですがね」

「貴族様だって? いったい何の用だい」

「いえいえ、ちょっとばかりお聞きしたいことがあるだけなのですが」


 来客は男のようだが……ん? なんか、この声。聞き覚えがあるような、ないような……うーん?


「なんでも、ここのお家には同い年の子どもが5人もいるとか? 戸籍を申請されましたよね」

「……それが、なんか問題でもあるってのかい」

「まさかまさか。子どもは国の宝ですから。子だくさんはいいことですとも。しかししかし、なんでも、徴税人もその子たちを見かけたことがないとかで」

「医者に外の空気に触れさせるなって言われてるんだよ。生まれつき病弱でね。うちに5人の子がいることを疑っているのかい? こっちはちゃんと人頭税を払ってるってのに」

「おっしゃりたいことはわかりますとも。そうです。子どもには税がかかりますからね。子どもの数を少なく申告する親はいても多く申告する親はおりません」

「そうさ」

「そういえば、その子ども5人の中に拾い子を含んでいるとか?」

「……だったらなんだい」

「いえいえ。まあ、当然でしょう。人間は同時に5人も産めないものですから、それがふつうですとも。……ちょっとですね、ここいらで子どもが連れ去られる事件がありましてね。ああ、もちろんあなたがその子を連れ去ったという話ではありませんよ。なにせ、連れ去ったのはドラゴンでしてね。しかし、その子は運よくドラゴンから逃げおおせたようで。我々はその子を探しているのです。もしかして、あなたが拾った子がその子ではないか、と。確認させてください」


 ……この男、もしかしてあのときの人攫いだったり、する???

 いや、絶対そうだろ! ドラゴンに連れ去られた子どもってどう考えても俺だし、俺がドラゴンに連れ去られたのを知ってるのはあの人攫いだ!


「ヒヒッ……」


 はい確定―! この下卑た笑い方! あのヒゲ男じゃん!

 って、そうか! 俺はなんで聞き耳を立てているんだ。スキル【天眼】で見ればいいんだった。

 最近使ってなかったから忘れてた! スキル【天眼】スイッチオン!


「うちの子はみんなうちの子だよ。変な言いがかりはよしとくれ」

「そうおっしゃらず。親が探しているのです。迷い子が親と再会するのはよろこばしいことでしょう」


 足音が家の中に入り込んでくる。

 急いでそちらに視点を動かすと、そこには……ああー!! あのひげ面の男!! まちがいなく、俺を買い取った人攫いの男!!

 母さんは男の腕を掴んで引き留める。


「ちょいと……!

「子どもは2階ですかな?」

「困るよ、医者に誰にも会わすなと言われてんだ」

「顔を見るだけですから」


 母さんの制止を振り切り、男はずかずかと入り込んでくる。

 やばい、あいつがここに来る……!

 ここにはフェンリルキッズがいる。見られたらやばい。絶対やばい。

 どどどど、どうする!?

 なんとなくやばそうな空気を感じとったキッズたちが低い体勢で唸り声をあげる。

 俺はあわててその口を抑えた。

 だめだって! 唸り声をあげたらそれこそ何がいるんだって話になってしまうだろ……!


 俺の焦りが彼らに通じたのかどうか。ぽん、という音がした。


「ぶ」

「ば」

「う」

「ん」


 そしてあどけない声がして、つられるように隣を見たら――。

 かわいいぷにぷにほっぺの赤ん坊が5人。

 ……どなたですか。


 俺の右手が、そのうちひとりの口を抑えている。

 ……もしかして、フェンリルキッズ?


「み、ぴ、ろ、さ……?」

「ぶ」

「ぶ」

「び」

「ん」


 舌ったらずに尋ねると、舌ったらずな肯定が返って来た。


 ええええええ!?

 化けてるうううう!?

 化けられるようになったの!? いま!?

 すっげぇ!!


 がちゃりと音を立てて男が2階の俺たちのいる部屋に入って来た。

 キッズたちは「おっすおっす」とでもいいたげに出迎える。

 母さんは男の肩越しにぽかんとこちらを見ている。

 わかる。びっくりだよな。ほんと、男子三日会わざれば刮目して見よ、だな。たぶんちがうけど。


 男はまじまじと子どもたちひとりひとりの顔を見ていく。

 俺は背を向けたまま、あわよくばこのままこの場を逃れたいと願う。


「ほう、ええっと、ひとり、ふたり、さんにん、よにん……その子の顔を見せてもらっても?」


 あ、ああ! フェンリルキッズたちの身バレの危機は去ったが、今度は俺の身バレ危機だ……!

 えと、どうする。俺も化けられたらいいんだけど、俺にはそんな力がない!

 ヘイ【天眼】、この状況をなんとかできるものってあるか?

 ……だめだ。視点が動き出さない。つまり、ないということか。


 かくなるうえは……!


「ひー」


 ――俺は思いっきりしゃくれた状態で振り向いた。

 しゃくれまくりのしゃくれ顎。俺にできる精いっぱいの変身だ。

 ほら見ろよ、人攫い。お前の探してる子はこんなにしゃくれてたか!?


「……」


 ふふ。迷ってる、迷ってる。

 いいぞ。俺は髪の色と目が同じだけの別の子だ! この顎が証拠だ!


 男が手を伸ばしてくる。

「この子を抱かせてもらっても? 迷い子はこの子と同じで黒い髪に赤い目をしていたのですが……顎が……?」

「もういいだろう! リゲルは私が産んだ子だよ」

「そうでしたか……。その迷い子なのですがね。いわゆる”スキル持ち”の特別な子でして」


 んん? なんだって?? スキル持ち?? その話、くわしく!!


「貴族様が探しておりまして。もし、虚偽の申告で隠し立てをしたら、罰がありますよ」

「嘘なんかついちゃいないよ。帰っとくれ!!」


 ああ、母さん! 追い返すのもいいけど、ちょっとだけ話を聞きたい……!

 男は俺をじっと見て、そのあと母さんに追い出されるようにして――帰って行った。


 っぶねぇええええ!!!

 顎すげええええ!

 え? いけたってこと、だよな?

 うわー……あいつ、あっほだなぁ……。

 そんなんで人攫いやっていけんの? いや、俺がすごいのか? 俺の顎が優れているのか?

 顎、戻るか? あ、戻った。気合い入れてしゃくれたからもう戻らないかと焦った。


 って、そんなことより!


「ミイ、ピイ、ロイ、サイ!」

 母さんが順番に抱きしめていく。

「あんたたち、やるじゃないか!」


 ほんと、そうだよ! すげえよ!

 俺だけでなく、お前たちも成長してたんだな!


 寝ぼすけミイはぽってりとしたまぶた。

 食いしん坊ピイはぷっくぷくのほっぺ。

 面倒見のいいロイはきりっとあがった眉。

 元気が有り余っているサイは大きなくりくりの目。


 茶色い髪に明るい緑の目はお揃いだが、みんなそれぞれ顔立ちに個性が出ている。


 うんうん、みんな、じょうずに化けてる!


「がっ」

「あっ」

「ぶっ」

「べっ」


 キッズたちが互いに頭をぶつけてしまって小さく悲鳴をあげる。

 なるほど。人間に化けたことでうまく体が動かないようだ。

 みんな、はいはいから練習が必要だな。

 よーし! 俺が教えてやるよ! 今夜から特訓だ!


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