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1.3 AIと、5歳児の反逆

夜になると、悠真の部屋はもうひとつの顔を見せる。


高性能な子ども用端末――表向きは学習アプリと英会話ゲームが搭載された教育ツールだが、

悠真のそれは、内部に“とある設定”が施されていた。


前世の記憶を頼りに、幼い頃からこっそり構築してきた個人学習アルゴリズム。

屋敷のネットワークに繋がないよう、使用人用端末の回線を経由する形で外部の知識にアクセスしている。


画面に表示されるのは、どこか無機質な白い入力欄と、シンプルな音声アシストAI。

その応答は、子ども用にしては妙に融通が利き、しかも会話がやたら深い。


「今日はね、ちょっと本気出すよ。子どもだからって、舐められたくないからね」



「了解しました、Reborn-01。では、昨日の続きから。

 “現代社会における教育格差と民間支援モデルについて”ですね?」


「うん、それ。あと、新しく“こども向け匿名支援プロジェクト”も立ち上げようと思ってて……予算シミュレーションお願い」


「収益モデルは? 支援範囲は? サーバーは外部を使いますか?」


「うん、それ。あと、新しく“こども向け匿名支援プロジェクト”も立ち上げようと思ってて……予算シミュレーションお願い」


「収益モデルは? 支援範囲は? サーバーは外部を使いますか?」


悠真は、小さな指で画面をスワイプしながら、情報を入力していく。

5歳児の見た目で、実質40歳の知見と覚悟。

――完全に反則だ。


(前世じゃ、母さんもあの子も救えなかった。でも今なら、間に合うかもしれない)



プロジェクト名は、「Re:Voice」。


“再び声を届ける”を意味するこの計画は、まずは教育支援から始まる。

動画、クイズ、言葉遊びを通じて、文字が読めない子にも届くよう工夫された仕組み。


支援対象は、名前を明かせない子どもたち。

年齢も場所も知らない。でも、そこに“泣いていたあの子”の姿が重なっていた。



「悠真様、そろそろお休みの時間です」


ふいに、使用人の声がドア越しに聞こえてくる。

慌てて端末を閉じ、布団に滑り込む。


「はい、今寝ます〜〜」


「おやすみなさい、Reborn-01。今日もひとつ、世界を変えましたね」


AIの声が、ほんの少し優しく聞こえた気がした。



翌朝、スケジュール帳に見慣れない予定が追加されていた。


「本日午後、初等外交礼法訓練にて、同世代の他家ご令嬢と模擬面談の予定がございます」


(模擬面談……って、要は“お見合い予備訓練”ってやつだよね!?)


この屋敷では、5歳にして将来の政略結婚に向けた“マナー教育”がすでに始まっていた。

悠真は顔を引きつらせながらも、表面上は平然と返す。


「わかりました。楽しみにしてます」



午後、迎えられたのは美しい黒髪の少女だった。


整った顔立ちに、涼やかな眼差し。

しっかりとした挨拶、礼儀正しい立ち居振る舞い。

まさに、絵に描いたような“完璧な令嬢”。


「初めまして、悠真様。水瀬みなせと申します」


「は、はじめまして。よろしくお願いします……!」


(うわ……見た目も声も、めちゃくちゃタイプなんだけど!?)


内心パニック。

中身40歳、女性経験ゼロ。

この美少女に真正面から微笑まれて、冷静でいられるはずもない。


(ヤバい、目を見て話すだけで謎の罪悪感が……)


「悠真様、顔が赤いようですが……?」


「いえっ!なんでもないです!熱とかじゃなくて、これは、その、代謝です!!」


なんだよ代謝って。


自分のセリフに心の中で全力ツッコミを入れながら、悠真は思った。


(俺、たぶんこの先何回もやらかす気がする……)



けれど、その少女の言葉がふいに刺さる。


「……悠真様って、少しだけ、他の子とは違う気がします」


「え?」


「うまく言えませんけど、なんだか、すごく“大人”みたいで」


悠真は、目をそらした。


“バレてる”わけではない。でも、確かに何かが、普通ではない自分を見抜かれている気がした。



そして、その夜。

再び神棚の前で手を合わせながら、悠真は小さく笑った。


「……お稲荷さん。今日ちょっと、人生の試練が来たよ。女の子、無理かも……」


狐の置物は、いつも通り無言だったが、どこか含み笑いしているように見えた。



AI、神棚、美少女、そしておじさんの魂。

檻の中で、確かに“世界を変える種”は動き出していた

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