春の精と冬の精
毎年、春が近くなると恒例の勝負が行われます。
いつまでも立ち去ろうとしない冬の精と、はやく野原を色とりどりにしたくてしょうがない春の精が、季節の移り変わりを賭けてトランプで決着をつけるのです。
悪い魔法使いのように真っ黒な帽子と衣装をまとった冬の精のおばあさんは、なんとかして若くてピチピチした春の精の表情を読み取ろうとします。
ですが勝てるわけがありませんでした。
なぜならおばあさんの背後では、花を咲かせたくてうずうずしている草花たちが、ブロックサインでおばあさんの手札を春の精に伝えているのですから。
春の精はすました顔で手札を広げました。
もちろん冬の精の負けです。
草花たちはいっせいに歓声を上げ、春の精をとりかこんで喜びを分かち合いました。
「春なんか来なければいいのに」
おばあさんは捨て台詞を残して、すごすごと去って行きました。
何百万年もイカサマでだまされ続けているなんて、ちょっとマヌケですね。
ひとり、おばあさんを見送っていた小さなユキヤナギの花がとつぜん駆け出し、おばあさんの帽子のつばにちょこんと乗って、ひっそりとついていきました。
(おわり)