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第57話 絶望的な決断

私は息を呑み、スコープ越しにドラケンの様子を追う。




「彦作、大丈夫か!?」




「彦作!」




レイナが叫ぶ。その声は、普段の冷静さを失った焦りと不安が滲んでいた。




ドラケンは炎と煙を引きながら不安定な飛行を続けている。




敵の支援車両が巨体を揺らしながら向きを変え、ゆっくりと前進を始めた。その砲口がヴァルハラ隊に向けられると同時に、圧倒的な火力が吐き出される。




砲撃の衝撃で地面が揺れ、周囲の森は次々に崩壊していく。砕けた木々が炎に包まれ、濃い黒煙が視界を奪った。




「まずいっ……!」




私は思わず息を呑んだ。何か指示を出さなければならないのに、状況はあまりにも厳しく、適切な言葉が見つからない。




敵の砲撃は正確無比で、ヴァルハラ隊は岩陰や木々の影に身を隠しながら応戦していたが、装甲の厚さを前にほとんど打撃を与えられない。




「耐えろ!まだ持ちこたえられる!」




レイナの声が無線越しに響いたが、その語気には焦りが滲んでいる。




次々と爆発音が響き渡る中、敵の支援車両はさらに距離を詰めてきた。その巨体が押し寄せる様は、まるで絶望そのものが具現化したかのようだった。




絶望的な状況を前に、彦作は「全滅する……!」と感じた。だがその瞬間、操縦桿を握る手に力を込める。






「しかたねぇ……やるか。」






彦作は静かに呟くと、ドラケンは鋭く旋回し、迷うことなく最大出力で敵に向かった。その姿は、すでに覚悟を決めた者のものだった。




彦作にはわかっていた。いや、見えていた。通常攻撃では撃破できないと。




「あれは?……まさか……特攻?」




私は言葉を失った。目の前で繰り広げられる光景が現実だとは信じられない。




「だめだ、やめろ!」




レイナが絶叫するように叫んだ。その声には、普段の冷静さが完全に失われていた。




しかし、彦作は微かに笑みを浮かべ、静かに呟いた。




「俺は仲間を守る。約束だからな。」




ドラケンの機銃が火を噴き、6脚支援車両の一点に集中砲火を浴びせる。




「お前の未来が見えるぜ――ー!!!」




その正確な攻撃が装甲を貫き、装甲が裂けると減速することなく、裂け目をめがけて突撃していった。






「イモケンピ!」






私はイモケンピを見て震える声で叫んだ。




イモケンピは私の視線を静かに受け止め、穏やかな笑みを浮かべる。




「わかっている。あいつはいいやつだからな。」




その言葉を残すと、彼の姿は私の前からフッと消えた。






その瞬間、ドラケンが敵の支援車両へと突進していった。巨大な爆発が空を染め、轟音が戦場を揺るがす。爆炎は凄まじい勢いで立ち上り、全てを飲み込むようだった。




私は爆炎を見つめ、胸が締め付けられるような感覚に襲われた。目を逸らすことができない――彼がいない現実を受け入れる勇気がないからだ。




だが、その炎の中から、ふわりと揺れるパラシュートが現れた。そこにはゆっくりと地面へ降りてくる彦作の姿があった。




「生きてる……?」




私は目を疑った。まるで夢を見ているかのようだった。




「よかった……!」




レイナが声を詰まらせながら呟く。その目には涙が溢れていた。




彦作に脱出する気などなかった。イモケンピが彦作に囁いたのだ。




「生きろ。」と。




彦作はパラシュートに揺られながら地面へ降り立つ途中、ぼんやりと地上を見ていた。


「生きてる……?」自分がなぜ生きているのか、全く理解できないようだった。




それは、自分の未来をイモケンピに歪められた瞬間だった。




私は胸を撫で下ろし、天を仰ぐ。安堵と感謝、そして奇跡のような状況に、ただ心を震わせるしかなかった。




戦いは終わりを迎えた。敵部隊は全滅し、こちらの損害は戦闘機1機のみ。全員が無事であることが確認された。激しい戦闘の余韻が残る中、私たちは静かにその事実を受け止めていた。




レイナは地形と霧の力を使い、部隊を守り抜いた。その代償として、彼女は目に見えて消耗し、肩で荒い息をついている。それでも彼女の目には安堵が浮かんでいた。




私はイモケンピに向き直り、問いかけた。




「イモケンピ、彦作に取り憑いて脱出させたの?」




「ああ、そうだ。」




イモケンピは相変わらず平然とした表情で答える。その態度が妙に頼もしくもあり、不思議でもあった。




「でも、私の手の届く人にしか取り憑けないんじゃなかった?」




私は以前の彼の言葉を思い出して尋ねる。




「ああ、お前の手が届いていたからな。」イモケンピは軽く頷いた。




「ん?」私は思わず聞き返す。




「私の手が届いていた?」




「そうだ。お前の魂から出ている手があの男に届いていた。」




私はその言葉に驚き、そして静かに納得した。イモケンピの言葉には確信があり、その理由が妙に腑に落ちる気がした。




「ほーう……」私は驚きと納得が入り混じった声を漏らす。




イモケンピは特に何も言わず、ただその場に立っている。戦場の静寂が心地よい余韻となり、私たちはしばしその場に佇んでいた。

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