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出勤、そして

「おぉ、さむ」

手早くシャワーを浴び、ボサボサ頭を撫でつける。

外が氷点下近くまで下がっているからだろう、シャワーがお湯に変わるまで、普段は30秒足らずのところが40秒近くかかった。心に軽いストレスを抱える。

ストレスを抱えた分、お湯を浴びる瞬間は格別だった。ほぅっとため息をつきながら整えていく。

ひげ剃りはT字と決めている。ONの時にはスッキリとスタートを切りたい航輔にとって、電動剃刀での剃り残しは、耐え難い心のストレスとなるものだった。

剃り残しなくまとめるのが、航輔の日課である。


愛美は、今日の夜には名古屋から戻ってくるらしい。

週を跨いで出張なんて、それはご苦労なことだ。

何でも会社の新興プロジェクトチームに抜擢されて、全国を飛び回る羽目になっているとか何とか。

やり甲斐はあるんだけどなぁ…と照れくさそうに愛美は話していた。期待の新卒2年目じゃないか、とことんまでやればいい。そんな風に励ましたっけ…?ぼんやりと航輔が回想する。


一方の航輔はといえば、どうも人間関係を作るのがヘタなのか、もうすぐ丸2年経とうかという今の会社に、未だに慣れていない。心の壁を何となく感じるまま、仲間も友人もできず、今日まで過ごしている。

同僚以上の関係は必要ない、そんな風に割り切って、毎日を生きている。そんなことだから当然、社内でも目立った動きはできておらず、うだつの上がらない歯車の一人として、会社にしがみついていた。


風呂から上がると、ちっとも暖まらないリビングで寒さに震えながら下着を履き、スーツ姿に変身する。

変身といえば、愛美にまだ返信していなかった。

机の上のスマホを手に取り、手早く入力する。


2025年2月24日 07:11

航輔 おはよう愛美、今日何時に帰る?

   遅くなるなら、弁当でも買っとくよ。

   お土産、よろしく


何とも味気ない返信である。もう少しイマドキのSNS事情を勉強しろと言われかねないおっさんレベルの文面に、航輔自身が自嘲し、苦笑してしまう。


ともかく、出勤前にやるべきことはやったかな。

今日は月曜日、一説には最強の敵認定されてる曜日らしいが…そんな子供じみた遊びはどうでもいい。

今日も1日、やるべきことをこなすだけだ。


家の施錠を確認すると、外階段を下りる。

築30年以上という木造の2階建て安アパートは、航輔が1段降りる度にギシッと音を立てた。

外見はボロいんだが…内装はリフォーム済でそれなりに小綺麗にまとまっているのが、航輔と愛美の一致した評価ポイントだったりする。

ポツポツとある足跡は、俺より早くここを通った住人がいるってことか。雪の月曜朝からご苦労なことだ。

さて、バスの時間は07:17か。少し急げば雪道でも間に合いそうだ…。


アパートを出ると、先達が作成した人道を踏み外さないよう歩く。人道は交差点付近で激しく荒れ、その大部分は左に曲がった先の大通りのある方向へと続いていた。

雪は帰る頃には溶けてなくなることを予想し、ビジネスシューズでそろりそろりと歩いている。この時間の路面凍結さえ凌いでバスに乗ってしまえば、あとはまず大丈夫のはずだ。

雪の細道は日陰も多く、ほうぼうで雪がシャーベット状に踏み固められ、凍結している。航輔はため息をつきながら、それでも緊張感のある出勤途上が続く。


ようやく大通りがみえてきた。バス停も見えている。

時間は…07:17?どうやら路面凍結(アイスバーン)は思ったよりも時間を奪ってくれていたらしい。この雪でバスも遅延していることを祈りつつ、最後のスパートに入る。

大通りに出た瞬間に、アイスバーンが普通の濡れた車道に切り替わる。靴底の摩擦係数がいきなり上がり、アイスバーンで滑るように進んでいた航輔は前につんのめる。

「うわっと、あぶね」

何とかバランスを保った航輔は、両手を回しながら身体を起こした。びしょびしょの地面に手をつかなかったことを感謝しつつ、左に振り向いた。


その瞬間……

航輔の意識は暗転した。


キキィーーッ

ドガーン ガラガラガラーン………

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