ある寒い冬の朝…
昨夜遅くから降り出した雪は、朝になっても冷気を保ったまま、路面に低く白い床を作り上げていた。
時折、誰のものだろうか…水気を含んだ黒っぽい足跡が、白の単色芸術を壊すように続いている。
足立区のはずれ、天明のあたりにも例外なく雪は降り積もった。北日本の方からすれば笑われてしまう程度の積雪なのだが、首都圏ではたとえ5cmでも交通網は麻痺してしまうのだ。
夜渡航輔は、凍えるほどの寒さの中で目覚めた。
昨日の昼にはかなり暖かかったはずなのに、この気温の落差は一体何だ…?天気予報を甘く見て、半袖短パンなんかで寝てしまった昨夜の自分を罵りたくなってくる。
眠い目をこすりながらエアコンのリモコンを探すと、暖房を入れる。効いてくるまで10分くらいはかかるだろうか、さしあたり長袖長ズボンを着用して急場を凌ぐことにする。
窓を開けると、一面の銀世界…とはいかず、安アパートの前の通りには、すでにいくつもの足跡で踏み固められ、アスファルトの露出した獣道ならぬ人道が形成されていた。
航輔はそれを2階からそれをつまらなそうに見下ろし、カーテンを閉めるとダイニングへと向かった。
カバーの縁が欠けた航輔のスマホには、寝ている間に何通かのLINE通知が届いていた。だるそうにスマホを手にする。
2025年2月24日 05:21
まなみ 東京は雪だよね?こーすけ、足元気をつけて
2025年2月24日 05:24
まなみ 名古屋は雨、つまらないなぁ…☔
まなみ 出張終わったらすぐ帰るからね、大好き❤
航輔の仏頂面がわずかに和らぐ。
黒崎愛美とは、大学で知り合って以来もう4年の付き合いになる。当時大学でサークルにも入らずぶらぶら一人でいた航輔を、愛美がゼミに誘ったのがきっかけだった。
愛美曰く『結構同じ講義の受講多かったんだけど、全然気づいてなかったでしょ』とのこと。
ゼミに誘われたのは3年の春だったが、どうやら愛美は1年の途中から航輔の存在には気づいていたらしい。
気付けば共にいる時間が徐々に増えていき…いつしか同棲するようになっていた。まぁ時たま聞くような、学生の同棲生活である。
ゼミ生として関係を育み、恋人として関係を育み…就職先こそ分かれたものの、同棲生活は続いていた。