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黒い羊
雨が降っている。
古い洋館の寝室。深夜にそっと体を起こす、若い妻。
隣では夫が眠っている。
すこし年上の平凡な男の、穏やかな寝顔を見下ろす。なんらいつもと違わない夜。
けれど妻は怯えている。脈打つ心臓の音が、押さえきれない身体の震えが、夫を起こしてしまうのではないかと。
恐怖に押しつぶされそうになりながら、震える両手で握りしめたナイフを、夫の胸に突き立てる。
瞬間、妻の心を占めたのは、絶望。
夫の目がくわと見開かれ、その体がぶわりと起き上がり、そして妻の腹を突き破って、黒い羊が躍り出る。
全てを破壊しながら、男と羊が駆け抜ける。
男は羊を制御出来てはいない。ただ「妻」の・・・羊の「母」の肉片で、その進行方向をほんの少し誘導できるだけ。
肉片はもうすぐ尽きる。
世界はすでに終わっている。




