DRAGON BREAK 6
「バルディ」
「カリビア……」
図書館で本を読んでいたらカリビアがやってきた。オレは別に軍人でもないので立つことも敬礼も本を片付けたりもしなかった。
「シャレットの様子を見に行ったんだってな」
「…………目は?」
「まだだ。息はしているから大丈夫だと思うが……。まぁ、心配だよな」
「……ここ、魔王城だし軍人さんもたくさんいるし、剣も多いと思うから……」
「……帰るのか?」
「これだけは、どうにもならないと思う……」
オレは涙目でカリビアを見る。
本当はここにいたい。いたいのに……。『ドラゴンソウル』は不幸を運ぶ。その不幸のせいでシャレットは……シャレットは!
「オレは……調べて調べて、わかったとしても、何にも解決しない自分が憎い!」
グドーの情報とオレの情報を合わせて、なぜ『ドラゴンソウル』の報告件数が少ないのかがわかった。
オレの情報は、『ドラゴンソウル』を持っている人の周囲に不幸が降りかかり、大変なことになるということだ。
もしも、この『ドラゴンソウル』の不幸が一人に向けて発散されてしまったら……と思うと、恐怖でならない。
不特定多数。それで命が削れていくのだから…………ドラゴンソウルは悪だと言われているのが現状だ。
そしてグドーの『ドラゴンソウルの持ち主の誕生』。ここは魔界だ。魔法を撃たれて死んだ『ダンジョンボス』も多いだろう。逆にオレみたいに剣で死んだのはごく僅かだ。魔法で倒されたダンジョンボスのぶんだけ『ドラゴンソウルの持ち主』は振るい落とされ、生きることができている『ドラゴンソウルの持ち主』はごく僅かとなってしまった。
オレが公の場に出てきた珍しい例だからここに留まらせたいのはわかる。わかるけど…………!
「……バルディ……」
「最後に……」
「?」
「魔王の娘の見解を聞きたい」
カリビアは少し困った顔をした。
そりゃあ仕えている人の娘というビッグネームに、危険人物を会わせるわけにはいかないということもあるだろう。だが、あの4人のことだ。魔王の娘であるライルに会わせるように何とかしてほしいということはこの人にも伝えているだろう。
「…………。わかった。知らなかった場合は納得してくれるな?彼女はまだ幼いんだ」
「わかってる。オレだってそこまで期待してないし」
「おいおい……」
オレは立ち上がり、本を片付けに行く。
……ここにいるのも最後か……。少し寂しいな。シャレットが目覚めるまでとはいかなくなった。ごめん……逃げるような真似をして。たくさん良くしてくれたのに。これ以上迷惑をかけるわけにはいかないんだ。ここに不幸を呼び込むわけにはいかないんだ。
「……こっちだ」
カリビアの後ろをついていく。向かったのは子供部屋ではなく、なんと魔王の部屋だった。
「こ、ここここ、こんなとこ!?マジで言ってるのか!?」
「悪魔でも家族は家族だ。親の元に行くのは当たり前の話だ。まず、話すには親の許しが必要だろう?」
「それは……そうだけど……」
カリビアが大きな大きな観音開きの扉をノックする。ゆっくり開いた扉の間から、ヒュオオオオ……!と音を立てて風が吹き付ける。
ううう、緊張する……!
「魔王様」
「カリビア・プルトか…………」
重く、低い声がする。
部屋が暗すぎるのか、魔王の姿は見えない。
入口から見たのとは全く違う部屋の大きさだ。図書館と同じような仕組みなのだろう。
「何の用だ」
「ドラゴンソウルについて、ご報告があります」
「ほう……。して、隣は?」
見えない魔王の大きな大きなプレッシャーがのしかかる。
「ひっ……あ、ああっ、あの……バルディって……いいます……!その、ドラゴンソウルについて、あなたの娘さんの見解をお聞きしたく……馳せ参じました!!!」
「ならん!!!!!」
で、ですよねー!!
大きすぎる声に、髪の毛とかマントが後ろに向かってバサバサってなったよ!
「は、はばば……みみが……きーん……って……」
「落ち着け、バルディ。……魔王様、なぜですか?危ないのは承知ですが、何かあれば、私が処置します」
「そ、そうです!オレは……オレは、何を犠牲にしてもいい!友達のためなら……オレは!」
「………………」
魔王は口を閉ざした。
それから、何も言わなくなってしまった。
「……シャレット……」
涙で滲む視界にシャレットの顔が浮かぶ。
あれだけいろんなことをしてくれたのに、収穫が無かったら、ただ頭を痛めただけじゃないか……。
「行くぞ」
「…………うん……」
「ライルのもとへ」
「うん………………え!?」
何を言い出すんだ、こいつは?今さっきダメって言われたばっかじゃないか!
「あの人、いつも初めて見る人を試すんだよ。オレがいてよかったな」
「…………なんか、変な人だな……」
「はは、そうだな」
そう言ってオレたちは扉から出る。
「……オレたち魔王軍のメンバーはな、全員一度魔王と戦ったんだ」
ライルがいるという子供部屋に向かう途中、前を歩くカリビアが突然口を開いた。
「よく殺されなかったな」
「殺さないように気をつけただろうし、オレたちも死なないように抵抗した。でも負けて、ここに来たんだ」
「勝ったらどうなったんだろう?」
「そりゃここにいないだろ。まぁ互いに認めて手を貸してやろうとか、何か目的があって来たのかもしれないけどな。だからオレたちは雇用関係とかではなく、魔王を戦友やライバルとして見ている」
「へー」
グドーやシャレットはどうだったのだろうか?二人は別の世界から来たらしいけど……。世界間抗争とかに発展したりはしなかったのだろうか。
「そういえば魔王って、あんな大きなサイズで外出てたのか?」
「いや、普通のサイズだ。グドーよりかは背が高いがな。オレも初めて本当の大きさを見たとき、ビックリしたさ!」
「どんな戦い方だったんだ?」
「驚くことに、剣一本だった。オレもそうだったんだけど……まぁ、他の奴らに聞いたところ、ミラーバトルってとこだったみたいだ」
ミラーバトル。自分が魔法であれば、相手も魔法。自分が剣であれば、槍であれば、相手も剣、槍というものだ。
「だが……アイザーだけは違っていてな。あいつの村が戦場になってたから魔王が手伝ったんだ。それを見て、アイザーは魔王を認めた」
「そのアイザーはどこに?」
「グドーたちと同じ部屋だ。あいつは一人を好むから、騒がしいグドーたちをオレの部屋に追いやっているんだよ」
「だからあそこにいたんだ……」
「………………さ、着いたぞ」
グドーたちに連れてこられたあの子供部屋に到着する。今回は鍵がかかっているようだった。となれば、ここに人がいるということだ。
「…………ライル嬢」
カリビアがノックをする。その後すぐに部屋の中から慌ただしい足音が聞こえてきた。
「いまあけます!」
カチャッ、と小気味よい音が聞こえ、扉が開く。そこにはポニーテールの茶髪に黄色いワンピースの女の子が立っていた。
「あ……カリビアさん!」
彼女はワンピースの端を持ち、丁寧にお辞儀をした。まさにお姫様という感じだ。
「そのおかたは……」
「はじめまして。バルディといいます」
「バルディ……。よろしくおねがいします!」
眩しい。笑顔があまりにも眩しい。あの魔王の娘と言われたら絶対に信じられないくらいの女の子だ。いや、そう言っちゃ失礼だが、本当にそう思う。
「あ、たちばなしもなんですから、なかへどうぞ!」
たどたどしい喋り方だが、作法がオレより上なのが刺さる。まぁお姫様が相手だもんな……。うん……。
「ちらかっていますが、そこですわっていてください」
ライルは淡々とティーカップや瓶を置いていく。
もちろんおままごとセットなのだが。
「あ、あの……」
「ああ……」
オレとカリビアは正座して待っている。
緊張感で、子供部屋のはずが屋敷のとある部屋にいる錯覚に陥る。いや、屋敷というか城なのだが!
「どうぞ!」
屈託のない笑顔で中身が空のティーカップを差し出す。オレはカリビアの顔を一度見て飲んだふりをした。そして先に顔を上げたのはカリビアだった。
「け……結構なお手前で」
違う違う!!
「ありがとうございます!」
いいのか!?
「それにしても……いい笑顔だね。太陽……いや、満開の花?かな?」
ここはとにかく褒めて、情報を聞き出しやすくしなくては。
「えへへ。バルディさん、おとうさまのようにおおきくなりたいので、おおきくみえるようにはなしてるんです!どうですか、どうですか!?」
近い近い。
「み、見えるよ!」
「わぁい!」
__________
「…………ドラゴンソウル……ですか?」
一息つき、本題に入った。
軍の誰かに頼んで飲み物と食べ物を持ってきてもらい、そのまま話の場としたのだ。
オレたちはクッションの上に座り、ライルは女の子の形をしたヌイグルミを持っている。
「はい。そのことについてお聞きしたく。ライル嬢」
「ほんでよんだことがあります。たおされたモンスターさんのたましいが、あたらしく『はっせい』するひとたちのたましいとどうきょするんですよね」
この子は『生まれる』ではなく、『発生』すると言うのか。学問的には問題無いが、その……噛み合わないなぁ。もしかして、人選間違えた?グドーかミゲルのほうが良かった?
「そうです。どうやってそれを抑えるか……。あるいは消すか。何かいい案があればと思いまして」
カリビアの言葉に、オレは静かに息を止める。
魔王城イチの博識者であると誰もが認めるライルの言葉を、オレとカリビアは待った。
「…………ごめんなさい。ドラゴンソウルは、どうしようともとめられないみたいです……」
……やっぱりそうか。
誰もが持つ『生きたい』という感情。欲望。『生きたい』という気持ちがあるからこそ、消すことは不可能なのだ。
誰かもわからない人に『死ね』と言われて死ぬか?
この体はお前のものじゃない、だから『死ぬ』と言われて死ぬか?
いや。いいや。ありえない。一番ありえない。
つまり。つまり、だ。『中の病原菌が邪魔なので宿主に死んでいただきたい。でも病原菌が暴れ狂うから痛いと思うけど、周りの人たちのために我慢してね!』と言っているようなものだ。
そりゃあ殺されそうになっている病原菌も、宿主も必死になって抵抗するさ。
死にたくないからドラゴンソウルを排除するのに、一蓮托生となっているのだから、それを無理矢理引き剥がすのは不可能なのだ。やったとしても、必ずと言っていいほど後遺症は残るだろう。それを、長寿と言われる『悪魔』が持つとなれば…………。生き地獄とは、まさにこの事だ。
オレは絶望する。
わかっていたけど。何か案があるかなって思っていたんだ。でも無かった。
他人事ならどれほど良かっただろう。
「……そうですか」
オレは短く答えた。
そうするしかできなかった。
胸が苦しい。
吐き捨てたい事実。まとわりつく現実。捨てることができない絶望。
それらは全てオレにのしかかり、悔しいの一言にしか口から出すことができない。
「ドラゴンソウルは『のろい』のひとつ。たとえドラゴンソウルをつくったひとをたおしても、いちどちからをこめられて、ときはなたれた『のろい』はそのひとのてからはなれたまま、えいえんにつづくのだとおもいます」
永遠に続く苦しみ。あの『マグラ・オルテナ』とかいう人が、何のためにドラゴンソウルを生み出したのかはわからないが、後世の人たちを巻き込まないでほしい。
『永遠に続く』ことを望まれた呪い。ただ、一人に向けての復讐のために作られた呪い。
それが誰だかわからない。でも、予想はついている。おそらく…………ううん、やめておこう。
「……すいません。こんなくうきにするつもりじゃなかったのですが……」
「いえ。逆にこれでスッキリしました。ありがとうございます」
オレは立ち上がり、少しだけ笑った。
「もういいのですか?」
「はい。ずっとオレから離れないのであれば……押し潰されないよう、鍛えるのがこれからのオレのやるべきことだと思います」
そう言ってオレはカリビアの方を向いた。
「カリビア」
「…………」
カリビアは目を細めた。何を言いたいのかを読み取ったのだろう。
「オレを、魔王軍に入れてくれ!!」
「…………キツイぞ?」
「それでもだ!」
しばらくしてカリビアは観念したかのように微笑んだ。
「よろしく頼む。お前のような強力な人は大歓迎だ」
カリビアは手を差し出した。
握手……ってわけか。今更だろう?
「しっかり鍛えてくれよな。じゃないと、暴走しちまうかもしれないからな」
「はは、それは責任重大だな!」
カリビアが許してくれたところで、ライルは一口、お菓子を食べて紅茶を飲んだ。
「ふふ。ふふふ!おもしろいひとたち!」
ころころと笑うライル。
面白い人たち……って、オレたち2人ともかよ!
「ねぇ、バルディのそのうで……みせてくれる?」
「いいよ」
見て何かわかったらそれはそれで収穫だ。このままドラゴンソウルについても調べてくれれば助かるのだが。
「……あかくて、ゴツゴツしてて。これがドラゴンのウロコなんだ……。それに、はね!すごい!とべる?」
「飛べるよ。でもさ、あんなに強い魔王なら、ドラゴンの1匹や2匹、倒して持って帰ってきてそうなのに。サンプルとかは無いのか?」
「ないよ。ドラゴンなんて、たぶんおとうさまがまだはっせいしてないころのはなしじゃないかな……?」
「うう、いつの話だよ……」
300年、400年以上上っぽいのに……。
「……さぁ、行こうか。手続きをしないといけないからね」
「もういくの?またきてね!」
最初とは打って変わって仲良くなったライルが手を振ってニコニコと笑う。うんうん、このくらいの年の子はこうでなくちゃ!
__________
「…………カリビア。戦いの他にさ……」
「ん?」
手続きという名の顔合わせに向かっている途中。オレはカリビアにもう一つの願いを言うため、引き止めた。
「オレに作法とか、召使いとかがやってる……その、お手伝いさん?みたいな仕事を教えてほしい」
「なんでまたそんな」
「だって……」
あの4人のことを考える。
オレだって馬鹿じゃない。ちゃんと周りを見て行動している。
まずはミゲル。彼が一番わかりやすいかな。だって、どう見たって良いとこの子じゃないか。誰がどう見ても優等生だから。
次にシャレット。彼は……うーん、行動は不良そのものだけど、食べてるときはものすごく静かで、マナーがきちんとなされている。良い兄貴って感じで、頼れる。
良い兄貴といえばグドーも。あの人はシャレットと似たような感じだが、図書館でのことは忘れない。本を全く読まなさそうな(実際読んでいないらしい)シャレットとは大違いで、グドーは図書館の地図を使いこなしていた。つまり何度も来ているということ。そして、なんと言ってもあのカリスマ性……。隠しているように見えるが、バレバレだ。あれは信頼されているから、そして見られているからこその行動。彼から得られるものは多そうだ。
最後はアスター。彼は大先輩となるだろう。彼ほどオレと似たような人はいないと思う。彼はここに来てから丸くなったのだとしたら、オレも……!なんて。彼を上回る常識人になってやる!
「だって、軍人より世間知らずなのが腹立たしいから!」
「……ぷ。あはははは!!!」
「な、何がおかしいんだよっ!」
突然笑い出したカリビア。せっかく心のうちを話してやったのに!!
「いやいや、すまんすまん。お前が目標にしているのはあの4人だろう。あいつらはちょっと特殊でな……。ここでは言えないが、あいつらには何か大きな秘密があるのだと踏んでいる。……ま、いつものようにのらりくらりとしてもらってる方がありがたいんだけどな」
大きな秘密……。グドーが言ってた『別の世界』のことだろう。でも、『別の世界』だからといって排斥することはない。
だって、友達だから。
「……バルディ?」
「なんでもない。行こう!」
オレはカリビアの手を掴む。もちろん、行き先は決まってる!
「ちょ、どこに行くんだよ!?」
「ナイショ!」
走って、走って、走って。
なんてデカいんだ、この城は。いや、城だからデカいのか。まぁいい、階は変わらない。それだけでもありがたかった。
「着いたっ」
「オレの部屋かよ」
「ただいまっ!!」
バン!と開ける。
そこには……。
「アスター!ミゲル!」
「あ、戻ってきた」
「おかえりなさい、2人とも」
アスターとミゲルはまたトランプをしていたようで、机の上にはトランプが散らばっていた。椅子はしっかり4人分置かれている。いつグドーとシャレットが戻ってきてもいいように、ということだろう。
「2人とも、訓練はどうした?」
「あ……実は、『シャレットが目を覚まして安心できるように、2人はここに残っておくように。これは休暇ではなく、任務だ』ってアイザーさんに言われてしまって……」
「……アイザー……オレの部下であるミゲルにまで言ったのか」
「はい。ふふ、シャレットのことはグドーが見ているというのに」
ミゲルは嬉しそうに言った。
「……ミゲルとアスターは、グドーとシャレットのことを信頼してるんだね」
「当然だろ。グドーがいなけりゃ、今頃バラバラだ。生きてるか死んでるかもわからないくらいだっただろうな。……はい、あがり」
「わっ!?」
両手を広げてパラパラと机にトランプをばら撒くアスター。まるで、バラバラだという言葉に合わせたかのようだった。
「ちゃんと片付けてくれよ?」
「わかってますよ」
いそいそと片付ける2人。
普通に遊んでいるように見えるが、やはりシャレットが心配なのか完全に元気ではなかった。
「そういや、ちゃんと残ってくれたんだな、バルディ」
「あー……そのことなんだけど」
「?」
アスターが不思議そうな顔をして手を止める。それに気付いたミゲルも手を止めた。
「オレ……魔王軍に入る!!」
「「え」」
手に持っていたトランプがバサバサと音を立てて落ちた。
「「えええええええ!?」」
クール代表の2人とは思えない叫び声を上げたが、残りの2人も同じ反応をしただろう。なぜなら、もうすでにグドーとオレはやっているからだ。それも昨日の話。昨日今日でここまでお世話になるとは思ってなかったけど、やっぱり安心するなぁ。
「で、でも少しだけ!少しだけだよ!ドラゴンソウルに負けない強さになったら、また出ていくつもりだし……」
「少しなんて言わずに、ずっといてもいいんだぞ」
「そうだよ!」
「副隊長の言うとおりだぞ!」
アスターとミゲルはトランプなんかそっちのけで立ち上がって詰め寄ってきた。
みんな、優しい。
その優しさが、悔しい。
だって……だって、今まで邪魔者扱いされてきたから……。何も知ろうともせず、『ドラゴンソウルは危ない』ということだけで嫌われてきたから。
もしドラゴンソウルを宿していなかったら、生まれて生きて、ずっとこの優しさを手に入れられたのだろうか。ドラゴンソウルさえなければ、こんなに胸が熱くなることを何度も経験できたのだろうに。
悔しい。本当に悔しい。
「…………ドラゴンソウルを持ってる人なのに?」
「バルディだからだよ」
「オレだから?」
「そう。僕は本当は最初、『ドラゴンソウルの人だから怖いな』って感情しかなかったんだけど……。話していくうちに、僕たちと同じ人だってことがわかって、安心したんだ。ただドラゴンソウルが悪ってことではなく、それをどう使うか。使い手が良いか悪いかで決まってくるって思ったんだ」
ミゲルの言葉は少しショックだったが、当然の感想だ。オレも攻撃してくる人たちから逃げてばかりで、話し合いなんて微塵もしてこなかった。する余裕すらなかった。それは、あちらからするとオレは動く爆弾のようなもので、できるだけ遠くにしておきたいし、敵わないことを知っているからだ。
でも、魔王軍の人たちは違う。戦う力があるし、オレみたいな災いと戦うために存在しているのだから、いざとなれば殺せばいい。オレと話すのは一種の『賭け』で、後ろに武器を隠し持ちながら話すということをしなければならなかった。
ミゲルは『いざというとき』にその武器を使えるかと言われれば、NOと言う側だろう。ミゲルはそういう人だ。……優しい人だから。
「だから、僕は話せて良かったと思ってる。君に感謝しているんだ。僕も勇気を出せる人なんだってわかったから」
パッションピンクの目を細めて微笑む。でも、どこかその笑みに不安を覚えた。
このままあやふやにして良いのだろうか。この言葉に込められた意味とは何なのか。今のオレにはわからない。わかるはずがない。
「……。そういや、バルディの部屋はどこになるんだ?軍なら裏じゃないし……」
「今の予定ではオレとミゲルと同じ部屋になる。オレの上にある隊長のベッドをバルディのにして、ミゲルの下に隊長のベッドを移動させてやろう」
カリビアがいたずらっ子っぽく笑う。隊長のって……勝手にやっていいのだろうか?そういえば隊長って見たことないな。ずっと遠征してるって聞いたけど、いつ帰ってくるんだろう。
「へぇ〜、ならいつでも会えるな!」
アスターは必死にクールに取り繕おうとしているが、嬉しさで尻尾がスクリューみたいに回転するんじゃないかと心配になるくらいブンブンと左右に振りまくっている。
あーあー、もう、尻尾の先が当たって机の上のトランプが飛んでってる!!
「アスター、尻尾尻尾」
半笑いで指摘するカリビア。アスターは尻尾と同じくらいに顔を赤くした。
「ううううう……!」
アスターはそのまま……カリビアのベッドに潜り込んだ!!そうだ、ここカリビアの部屋だった……。他のみんなが遊びすぎて彼らの部屋だと思っていた。
「あー……こりゃ、しばらく出てこないかもな」
「!!!?!!?」
突然後ろから聞こえてきた低い声に、アスター除くオレたち全員が振り返った。
「グドー!」
「おはよう……って言うべきなのか?まぁいいや。シャレットが目覚めたから伝えに来た」
グドーはあくびを噛み殺しながら話した。
「目が覚めたの!?」
「あぁ。今はお前たちに伝えに行くって言ってきたから、ベッドの上で待ってる」
「じゃあ早く行こう!」
「俺は寝る…………」
グドーはフラフラとカリビアのベッドの方に向かった。ああっ、そこにはアスターが……!!
というか、あそこはもうフリーのベッドなのか?カリビアのベッドの場所、変えた方がいいんじゃないか?
「ふぎゃ!!!」
「すまん」
「いつも尻尾を踏まないでって言ってるだろー!」
「だからごめんって……俺、寝るから……」
「ここは副隊長のベッドだぞ!?」
「お前が言うな、お前が」
隣で所有者が鋭いツッコミを入れた。
「グドーが眠れるように、また魔法かけるね」
「頼む。……アスターは行くのか?行かないのか?」
「うーん……。どうせ戻ってくるし、ここで待ってるよ。グドーの体重で動けないし……」
アスターはグドーが二段ベッドの外側を塞ぐように寝てしまったため、出られなくなったらしい。それに尻尾は踏まれたままで、動けないようだ。
「わかった。行くぞ、2人とも」
「うん」
「はい」