DRAGON BREAK 5
たくさんの友達ができて、はしゃぎすぎた子供のようにぐっすりと眠ってしまった。
生活施設の3階のとある部屋。施設に着いて、魔王城の役人のような人がいろいろ説明してくれたが頭に入ってこなかった。
でもそれはその日が楽しくて、眠くなってしまったという証拠。
またみんなに会えると思うと、ワクワクする。
「……副隊長、いいですか」
オレが魔王城に入ってみんなの元へ行こうとした時だった。カリビアの部屋の前でミゲルとカリビアが話をしていた。
「なんだ。……理由がわかったのか?」
「はい、場所を変えましょう」
2人がどこかに行こうとしている。あとを追いかけてみよう。
「ここでいいか」
城のバルコニーに来た。オレは扉の近くにあるカーテンに隠れた。
「話してみなさい」
「はい。……昨日、何もしていないのに2人に異変が起こったのは、おそらく『ドラゴンソウルの魂のトラウマ』に関するものだと思います」
「トラウマ?」
「話を聞いている限り、剣士に殺された『ダンジョンボス』の魂が『ドラゴンソウル』の術でバルディに縛りつけられ、一体化することによってバルディも剣が苦手になった……のだと思います」
「なかなか面白い考察だ。しかし、よくこんなピンポイントな本の内容を見つけたね」
「グドーのおかげです。図書館に行ったあと、少し読ませてもらったんです」
「そうか。……シャレットの容態はどうだ?」
「まだ眠っています。朝礼の時以外はずっとグドーが看病しています」
「……そうか。なぜシャレットにも痛みが出たのかはわかっているのか?」
「それは……。全くわかりません。ですがおそらく、『ドラゴンソウル』はその魔物の力を借りて戦うことができる能力なので、魔物の特徴が出たのかもしれません。例えば、自分の異常を相手にも発現させるとか……」
「その可能性は高いな。ドラゴンソウルは昔からあった厄介で強力な災害……。まだ生まれていない子供の人生を縛りつけるなんて、なんとむごいことか……」
カリビアは手すりにもたれかかり、城の外を眺める。ミゲルは悲しそうにうなだれた。
「グドーは……ずっと『俺のせいだ』って言ってました。なんの事かはわからないですけど……それでアスターも困っていたんです」
「ミゲル、ここは何かを抱えた者が多い。変な詮索をすると痛い目を見るぞ」
「それは……それはわかってるんですが……。その……やっぱり放っておけません!」
「友達だから、か?」
「困っているからです!」
「………………。お前らしいな。この先どうするかはシャレットが目を覚ましてからにしよう。今グドーを巻き込んで話すと、自責の念に囚われかねないからな」
「わかりました」
会話が終了したのか、城内に入ろうとする。オレは盗み聞きをしていたのをバレないようにするため、すぐさま察知してその場を離れた。
グドーのせいじゃない。オレのせいだ。オレが戦ってほしいって言ったから。
オレはシャレットが眠っているらしい医務室に走って向かう。確か3階だったっけ。
シャレットに謝らなきゃ。
バン!と扉を開ける。
オレはむせながらもつれそうな足を必死に動かした。
「シャレット!!」
全力で叫ぶ。
カーテンが閉まっているのはあそこだけだ。きっと、あそこにいる!
「ごめん!」
シャッ!!と開ける。そこでビックリして後ろ……こちらを見ていたのは、グドーだった。
「……ここは医務室だぞ」
「わかってる……でも、心配で心配で……!」
「そうか。心配してくれたんだな。……さっきの叫びで起きてくれれば良かったんだが、このねぼすけはまだ寝たままだ」
声に覇気がないグドーが、シャレットのくすんだ金髪を撫でる。表情こそは穏やかだが、目が覚めないのは問題だ。
「起きて、シャレットっ」
「ダメだ、こいつはいつも何をやっても起きない。ベッドから落とすくらいやらないと起きないぞ」
「さ、さすがに病人だし、落とさないよね……。ね?」
「当たり前だろ」
ずっとローテンションのグドーはまたシャレットの方に向いた。背中を曲げ、悲しそうに見つめている。確かにこの状態じゃ、訓練どころではない。
「…………一つ、俺について教えてやろう」
ぽつりと口に出す。オレは何も言わずに、隣に椅子を用意して座った。
「俺は、別の世界から来た」
「人間界?」
「いいや。お前らにわかるように言うと……そうだな、『パラレルワールド』が近いかもな」
「……んー……」
「あは、わかんないか。俺とシャレットは別の勢力でな……。俺がこっちに来たことを知ったことで、送り込まれたのが……」
「シャレット、なの?」
「そ。俺はすぐにわかったんだけど、シャレットは気付かれてないふりしてる。ま、面白いからいいんだけどさ」
「…………いつか戦うの?」
「……俺はそうはなりたくないけどね。どうしてもってなら……いや、俺は遠慮したい」
「どっちなんだ……」
オレとグドーはまだまだ目覚める兆しを見せないシャレットを見る。
たまにシャレットが無言になったり、真剣な表情をしたり、冷たい眼差しになったりしていたけど……。まさかそんな理由があったなんて……。
「今シャレットは薬の効果で眠っている。もう少しここで見ているから、バルディは副隊長の元に行ったらどうだ?」
「うん……。シャレットの剣は?」
「部屋にある。それがどうした?」
「オレの中の魂がもしかすると剣が苦手だから暴走したのかもって……」
「……だろうな。昔から剣というものは敵を討つために存在する。もし魔法で打ち倒されたものがお前の中にいたとすれば……。この『魔力』に満ち溢れた魔界に生まれたら、その直後に暴走し、人が人ではなくなってしまったかもしれない」
「…………」
「お前は剣を見ただけでおかしくなってしまった。だが魔力は体にまとわりつく……それは、『ドラゴンソウル』にとって『攻撃されている』という判断になる。昔とは魔力濃度が違うらしいからな」
「……グドー、グドーは一体……うわっ!」
グドーはオレの頭をガシガシと撫で回す。
「考察の時間はここまでだ。時が来るか、気が向いたら教えてやるよ」
「むぅう……」
「大丈夫だ、見張らなくても。俺はシャレットを殺したりはしない。俺にとって大切な親友だからな」
「…………」
「……お願いだ、2人きりにさせてくれ……」
「……わかった……」
オレは立ち上がり、もう一度シャレットを見る。昨日の苦しそうな顔はそこにはなく、気持ち良さそうにスヤスヤと眠っているのがわかる。
よかった、痛みはどこにもなくなったんだ……。