表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
DRAGON BREAK  作者: グラニュー糖*
2/10

DRAGON BREAK 2

 初めて入った魔王城は、とても赤くてキレイだった。

 大きな大きなワインレッドのカーペット。オレみたいなのが良いのか?と思いながら、恐る恐る足を踏み入れる。遅いと心配したのか、カリビアが振り返った。


「カーペットとその手と翼、同じ色でまるで保護色だな。さすが爬虫類」

「うるさい」


 ハハハ、と笑うカリビアから目を逸らし、城の中を見る。まず爬虫類じゃなくて、お前と同じ悪魔だっての!


「……でかい柱だな……」


 体の横幅1.5倍はありそうだ。焦げ茶色の大きな柱が至るところにある。城に入って左の方は赤くなく、どちらかというとベージュっぽかった。藁で作った人のサイズの人形が並んでいるところを見るに、雨の日の魔王軍の訓練所のようなものだろうと思った。


「おーい、こっちだ!」


 カリビアは中央奥にある階段の途中で振り返り、手を振っている。オレは小走りで彼の後をついていった。


「すまない」

「お前、報告で聞いてたのと全然違うな」

「報告が誇張しすぎなんだ」

「はは、そうかもな」


 カリビアは笑う。


「お前、変わってるな」

「お前もな」


 ふ、と目を細めたカリビアの目を見る。……ん?なんか、変な魔力が……いや、気のせいだろう。


「図書館はどこにあるんだ?」

「4階だ。1階はホールと訓練所。2階や3階は客室、軍の人たちの寝室、食堂。4階は図書館や会議室、謁見の間。5階は魔王の部屋だ」

「ふぅん……」

「な、なんだよ」

「なんか……思ったより普通だなって」

「普通って?」

「だってさ、オレが思ってた魔王城って、よくわからないトラップが張り巡らされてたり、毒の沼が設置されてたり、針地獄があったりってイメージだったのに」


 右隣を歩いていたカリビアは、目を丸くした。


「ははっ!お前、どこの世界の人だよ!まぁ確かに最近変な異変とか、違う世界からやって来た奴とか何人かいるけどさ、お前もそういう奴らに似てるよ」

「お、オレはずっとここで住んでいたぞ!ただ……『魔界』のイメージと違ってて……。こんなに平和そうな場所は初めて見た」

「バルディ……」


 カリビアは足を止め、俺の目を見た。


「……よし!こっち来い」

「えっ!?」


 カリビアはオレのドラゴンソウルじゃない方の手……右手を掴み、走り出した。廊下の端で箒を持って掃除しているメイドの悪魔が驚いて箒を振り回す。


「はーしーるーなー!!」

「すまない!急いでるんだ!」

「もう!」


 オレはもつれそうな足を必死に動かし、メイドの方を見て軽く頭を下げた。

 さすが魔王軍だ。しかも副隊長。足が速すぎて、よくある後ろに砂埃が舞っているという表現が実在するんじゃないか?と目を疑った。


「ど、どこ行くんだ!?」

「オレの部屋っ!」


 見るからの居住エリアに到着し、カリビアはそのまま中に入る。中には4人の男がトランプで遊んでいた。


 一番大きい人。色白で、黒い髪をショートにしており、暗闇でも光りそうなオレンジの目をしている。

 2人目はオレと同じ水色の髪で、頭が良さそうだ。この中では一番背が低いみたいだ。もちろんオレやカリビアよりかは高いが……。

 その隣には少し長い金髪を左肩の上辺りで縛っている、お調子者っぽい人が。

 最後の赤い髪をした4人目は……あいつも『ドラゴンソウル』なのか?動物の耳が生えてるぞ。でもドラゴンソウルって無理矢理別の種族にくっつけるみたいな見た目をしてるよな……。ということは、彼は獣人なのだろうか。大きな赤いフサフサの尻尾が特徴的だ。


「ふ、副隊長!!」


 一人の声に反応し、全員が立ち上がる。カリビアは「まぁまぁ、座れよ」と笑い、その姿を扉から顔だけを出す状態で見ていた。


「すげぇ……カリビアって、本当に慕われてるんだな」

「ん?お前……お前は!?」


 一番大きい軍人がオレに気づき、格闘家のようなポーズを取った。黒い稲妻が彼の手の周りでバチバチと音を鳴らす。そんな彼の手を、カリビアは片手で制す。


「副隊長!」

「待て待て。彼の話を聞いた。彼には一時、魔王城に滞在してもらうことにした」

「「え?」」


 オレと軍人がポカーンと口を開ける。


「「えええええええ!?」」

「ああー、もう!うるせぇ!バルディ、お前用に軍の服を用意する!おい、予備のものはあるか?」

「あ、はい。えーっと、サイズを見たところ……Sサイズだな」


 トランプを片付けていた人のうちの1人……金髪が部屋を出る。残されたのはトランプ組2人と攻撃してこようとした好戦的な1人、カリビアとオレだ。カリビアは誰かのベッドに勝手に座った。カリビアは軍人と言うには細く、トランプ組と比べれば中学生と大学生、高校生だ。


「そういえばバルディ、図書館で何を調べようとしてたんだ?」

「そうだ、言おうと思ってたんだった」


 オレはカリビアの前に移動する。

 部屋の中はベッドが大半を占めており、ドアからまっすぐ進んだところには机が2つ並んで、その上の方には掛け時計があった。トランプを置いていたのはこの机を移動したものだったようだ。


「オレはオレの力について調べようと思ってる。『ドラゴンソウル』についての理解が深まれば、力の制御とかもできるかもしれない。そうなれば、魔王軍の仕事を減らすことができる」


 カリビアの目が見開かれる。オレの口から魔王軍を労るような言葉が出るとは思っていなかったのだろう。


「バルディ……。ははっ、バルディ!」

「う、うわあっ!?」


 腰に手を回され、カリビアが背中からベッドにダイブするのに巻き込まれた。二段ベッドなので顔に当たりそうになって急いで顔をカリビアの方へと動かした。スレスレだった。


「あ、危ないだろ!」

「大丈夫。これ、鉄に見えるけど、オレの手作りベッドだから!マジックアイテムでできてるから、怪我はしない。強い衝撃を受けるとき、柔らかくなるんだ」

「そ、そうなのか……」

「そう!あはは、バルディ、ここまでオレたちのことを考えてくれてたなんて。オレは嬉しいよ」


 カリビアは嬉しそうに目を細める。二段ベッドの影で暗くなり、時が止まったように感じた。


(Yes, it is. His time stands still. His life has come to an end. But the one forced the hands of that clock to move. He is not really him now. Where is his heart now?)


「副隊長!持ってきまし……何してんですか?」

「いつものだよ」

「ああ、そうみたいだな」

「いつもの?」


 暗さか疲れかで眠ってしまったカリビアの手から抜け出し、立ち上がった。金髪から服を受け取り、残された他のメンバーはカリビアをベッドにちゃんと寝かせた。


「副隊長、なんかたまに人肌が恋しくなるのか、スキンシップが激しくってな。その度に悲しそうな顔をする。……まぁ軍に入る奴らなんてそう腹に何か抱えた奴らばっかだからな」

「……オレ、今まで魔王軍の仕事を増やしてきたけど……なんか後悔してる。カリビアのこと、誤解してたかもしれない。何かしてやれないのかな?」

「…………。ここにいるだけでも良いと思うがな。少なくとも、今日はここにいた方がいい。副隊長に連れてこられたんだろ?」

「うん」

「急にいなくなったら副隊長、悲しむからな」

「うん……」


 この甘えん坊副隊長はスヤスヤと眠っている。オレは戻って彼の頭を撫でたあと、部屋を出ようとした。


 カリビアの茶色い髪についていた青いリボンが目に入る。動いたときにズレて外れたのだろうか。


「これは……」

「それはマジックアイテムだよ。ほら、さっきも言ってたじゃないか。『このベッドはマジックアイテムでできている』って」


 トランプで遊んでいた赤髪が笑った。


「普通のリボンじゃダメなのか?」

「俺たちと副隊長の体の大きさは全然違う。同じメニューをこなすのはキツいだろう。そんな時のために、無理矢理体を動かす機能を含んだマジックアイテムを作ったそうだ。当然俺たちは止めたさ。でも、どうしてもって言って、やめてくれなかったんだ……」

「じゃ、じゃあ、もしリボンをつけた状態で魔法か何かで眠らせたら……」

「夢遊病みたいになるかもな」

「え……」


 常に起きていないといけないほどのハードスケジュールを、他と比べて小さな体でこなすことができるのだろうか。いや、できないだろう。何か手伝えること……手伝えること……。


「お手伝い…………。あっ!!」

「ん?」

「メイドはどうだ!」

「ブッ!!」


 オレの言葉に吹き出す軍人たち。


「な、なんだよ!おかしいかよ!」

「いや、なんでメイドなんだよ」

「さっき廊下で見たから」

「あぁ、そう……。なら、召使いなんてどうだ?ほら、ここ城だし」


 格闘軍人が足元をちょいちょいと指差す。


「……。オレなんかが……いいのかな……?」

「もちろん。正直、目を光らせていないといけない人物だから、目が届く場所にいてもらう方がいいだろ」

「い、一理あるのが腹立つな」

「なんだと!?」


 顔を赤くして怒る黒髪を、金髪が止めた。


「まぁまぁ。てかお前、よくそんなもの知ってるな。まさかお前……そういう趣味が……」

「ねーよ!!」


 ギャアギャア騒ぐ2人を、オレとトランプを片付けていた2人の軍人が背中を押して部屋から追い出す。もちろん、眠るのがレアなカリビアが寝ているからだ。


「やっと外に出せた……。さすが軍人、デカすぎだろ」

「……深く眠れるように魔法をかけてくる」

「わかった」


 オレと同じ、水色の髪をした軍人がカリビアに魔法をかけに行く。周りは物理っぽいけど、この人は魔法で戦うのかな?だから他と比べて体を鍛えている度合いが軽いのか。


「……迷惑、かけたな」


 落ち着いたのか、黒髪が話しかけてきた。背が高いので上を向く首が痛い。


「いつも迷惑をかけていたのはオレの方だ」

「だが今日はこっちが迷惑をかけた。調べるのにも日数がかかるだろう。飯の時間まで魔王城を案内してやるよ」

「ほ、本当かっ?!」

「あぁ。いいだろ?ミゲル、シャレット、アスター!」


 部屋のメンバーの名前を呼ぶ黒髪。3人は首を縦に振ったり、親指を立てたり、大きな尻尾を揺らしたりして返事をした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ