ハウゼンの嫉妬①
今回は、毎朝妻が寝室から去るのをただ見送るだけのハウゼンが主人公です。
隣で起き上がる気配がして、俺は目を覚ました。
今四時なんだな、とぼんやり思った。
ロサはいつもこの時間に起きる。
そのまま動かずに寝たふりを続けると、ロサが
「今日で結婚八周年ですね。長いようであっという間でした。これからもよろしくお願いします」
と言ってくれた。
結婚も婚約も俺か俺の父上が一方的に決めたことだから、ロサがこれからも俺の側に居ると言ってくれたのはとても嬉しい。
俺はずっと前からロサが好きだった。
もともと俺の父上とミュンスター公爵家当主とは悪友同士であり、それぞれの妻がほとんど同時に妊娠したことから、
「これも何かの縁、子供たちが異性同士ならば婚約を、同性同士ならば深い交流を持たせよう、ガハハ」
とトントン拍子に婚約が決定したのだ。
俺の方がロサの一週間前に産まれ、父上も公爵家当主も、子供が女の子であることを願っていたらしい。
結果産まれてきたのがロサだ。
王城のみんなで喜んで、大々的に婚約発表がなされたのは言うまでもない。
ロサは産まれてからずっとモテモテだ。(あたかも見てきたように話しているが、俺は産まれた後、起きている間の出来事なら全て記憶している。……たいして自慢することでもないが)
ほぼ同時に産まれて俺とロサは常に一緒だったから、彼女の愛され具合はよく知っている。
エピソード① 食事中(@俺の部屋)
「はい、あーん」(←ロサ専属侍女)
「あーーむっ!」(←幼女ロサ)
「「「ほわぁー………かわえぇー……」」」(←ロサの専属侍女+俺の専属侍女+俺)
「お野菜も食べましょうね、はい、あーん」(←ロサ専属侍女)
「あーーむっ!」(←素直でかわいいロサ)
「「「「………かゎぃぃ…………」」」」(←侍女全員+俺)
もちろんロサは自分で食べられる。
ただ俺や侍女たちが食べさせたいだけだ。
エピソード② 散歩中(@王城の廊下)
「ねぇ、ハウゼン様。一緒に散歩に行きましょう?」(←クルッと振り返り満面の笑顔のロサ)
「………まぁ別に、いいけど……」(←心の中でニヤニヤが止まらない俺)
トコトコてくてく王城の廊下を歩くロサに、宮仕えの人たちは掃除をしているフリして彼女をチラチラ盗み見してくる。
「わぁー、かわいいヤツデね」(←葉っぱの大きな植物ヤツデを発見したロサ)
「なんだその植物。葉がでかいな」(←心の中でいやお前の方がかわいいと反論する俺)
「あっ、そうだ!良いこと思い付いた」(←キランッと目を輝かせたロサ)
とてて、と走りその植物に近寄ると、彼女はおもむろにヤツデの葉を枝から千切り始めた、
「お、おい!何するつもりだ!」
慌てて止めると、彼女はにっしっしっと笑って俺の耳に顔を寄せた。
「ハウゼン様、あそこで掃除をしている刺青をいれた筋肉質のかっこいいお兄さんがいるじゃないですか」
「んなっ!!(もしや、ロサの好きなタイプはマッチョなのか?!お、俺のこの二の腕は細くてお気に召さないのか?!)……あぁ、確かにいるな。ロサ。お前、まさか…………」(←ロサの吐息が耳にかかって悦を感じていたが、ロサの言葉に「もしや…」を想像し絶望する俺)
「ええ!実はそうなんです」
「え」
「ハウゼン様、さすがです!ハウゼン様がお気づきの通り、彼の咳には痰がからんでいましたよね。実はこのヤツデの葉っぱには去痰の効能があるんです。だから彼にこの葉っぱを使った薬用茶を淹れようと思って」
「…………え?」
この国の王家には特殊な力があります。
逆に特殊な力を持つ人が王になります。
ハウゼンの場合は絶対記憶力ですが、ロサが赤ちゃんの時に精神的には既に10才で記憶力もそこそこあったので、自分の記憶力は大したことないのだと思い込んでいます。
また、ハウゼンはロサが常に周りに気配りをしているが自分はできていないことなど、自分とロサとを比べてしまい、自己肯定感は低めです。