はじまり
孤児院建設はロサの始めての仕事だったりします。
ロサは14才で妻に、22才で王妃になっていて、現在26才で4才の息子と2才の娘がいるという設定です。
孤児院への訪問はこれで通算3回目です。
(一回目は完成した孤児院を見にきた時、二回目は子供たちの様子を見にきた時)
受け皿の数を増やすために孤児院を増設した。
スタッフの給料も上げた。
報告によれば多くの孤児院で窮状がある一定解消されているらしいが、まだできることはある。
当然、安心するにはまだ早い。
「次は学校を建設したいですねー。私の息子も通わせたいし」
考え事と独り言を言いながら院長室へ行くと、部屋の扉が半開きだった。
「モノー院長ー、早朝にすみません、入りますよー」
「えっ、ロサ様!?少しっ、少しだけお待ちください!」
少し焦ったような声が聞こえ、バタバタガサガサポンポンという音がした後、
「ど、どうぞ、お入りください」
と言って内側からモノーさんが扉を開けてくれた。
「開けていただき、ありがとうございます」
「……優しぃ…………いえ、私がしたくてしたことですので。こちらこそわざわざ来ていただいてありがとうございます」
私のことをキラキラと目を輝かせて尊敬してくれている女性がモノー院長だ。
「子供たちは昨日の清掃の疲れもあったのでしょう、鬼ごっこの後はすぐ寝てしまいました」
「そうなんですね。王妃様自ら足をお運びいただいて寝かしつけてもらえるなんて、あの子たちは幸せ者です」
「ふふっ。それは違いますよ。私は月に一回ほどの頻度でしか来ていません。みんなが幸せに育ったのは間違いなくモノー院長のおかげです」
私がそう言って彼女の頭をよしよしと撫でると、彼女は嬉しそうに答えてくれた。
「……アァ,浄化される…………お褒めの言葉ありがとうございます」
彼女は少し照れ臭そうに笑うと、キリッと私の目を見て言った。
「それでも、ですよ、ロサ王妃様。子供たちがあんな風に笑うようになったのは、つい最近のことなんですよ」
「あら、意外だわ」
「そうでしょうか?ロサ王妃様には心当たりがございませんか?最近私たちのためになされたことがあるでしょう」
そう言うと、なぜか彼女はドヤ顔で私の顔を覗き込んだ。
「ええと……あなたたちの給料を上げたことかしら?」
「もうっ!それもありますがそれだけじゃないでしょう!」
え、なんで怒ってるのでしょう?
「……これだから根っからの善人は…………あなた様は私たちの給料増額に加えて、孤児院長の増設、子供のための雇用を生み出してくれたじゃないですか!子供たちも私も、最近は毎日が充実しているのです!分かりましたか!?」
「え、えぇ、分かったわ。子供が笑うようになったなら何よりだわ」
「本当に分かってるのかしら、この人」とぶつぶつ言いながら、彼女は壁に掛かった時計を見上げた。
「あら大変!王妃様、もう五時五十分ですよ!早く帰らないとハウゼン王がヤキモチ焼いてしまいます!」
途端に顔を青ざめ、焦ったように早口になった彼女は、グイグイと私の背中を押して部屋から追い出すと、
「お話ししていただきありがとうございました!気をつけて、急いでお帰りくださいね」
と言ってシッシッと手を振った。
そんなに迷惑そうにしなくても……と思ったが、ハウゼンに外出のことがバレると後々面倒なので大人しく転移で王城へ帰った。
転移は一瞬だから、あんな焦ることもないのに。
一方、その頃モノー院長は、
「はあ、ハウゼン王は国民に嫉妬なさるくらいなら、いっそのことロサ様が王城を抜け出すのを禁じればよろしいのに………
はぁ、ロサ様が毎日この時間に抜け出すのは王都民なら誰でも知っていることで、ハウゼン王がそれを知りながらも止めず、嫉妬なさるのもまた、有名なことです。王様、ヘタレです」
とハウゼン王のヘタレを責めたのだった。
この世界では誰でも魔法を使えます。
掃除は風魔法、洗濯は水魔法、耕作は土魔法など、生活の大体全てを魔法が代替できます。(限度はあるので、国民は普通に働いています)
魔法を極めた人は冒険者か魔法師になります。
どちらも魔物退治をするという点で仕事内容は変わりませんが、国の管轄かどうかが異なります。
冒険者→腕は立つが、働きの良さは金次第な魔物退治の助っ人。
魔法師→国内、辺境で発生した魔物を退治し給料をもらう公務員。