閑話 朝食食べて超ショック
四月までは寒い日もありましたが徐々に暖かくなってきました。そんな暖かな日にも少しくらいの冷たい突風は必要でしょう。(タイトルのことです)
ミュンヒ王国は資源大国である。
例えば広大な国土の中に数多くの鉱脈があり、農具に用いる鉄に困ったことはない。
鉄製の農具や武具などは地球での溶鉱炉や転炉みたいな頑丈な設備を作れないから、たたらで少しずつ生産されている。
「おはようございます!お母様!」
ローズが食堂にやってきた。
ローズはもともと早起きする質なのか、毎朝お目目ぱっちりで朝食を食べに来る。
「おはよう、ローズ。
今日も早」
「おはようございますぅー、ローズ様ぁーー!
今日もお可愛らしいです。
あぁ、世話係のアンナが羨ましいわ。
寝起きのローズ様、さぞ魅力的でしょうに!」
私のローズへの挨拶が侍女たちの嬌声によって遮られ、私は少しムッとした。
今朝はまだ挨拶以上の会話ができていないのだから、親子水入らずで会話を楽しみたいのに。
「ねぇローズ様ぁ~、今日もアレアレ、一緒に楽しみましょうね~」
アレと言われ、ローズが顔を赤らめたのを私は見逃さなかった。
なぜか恍惚とした侍女の数はざっと10人。
アレのときのことでも思い出しているのか、ローズに向ける視線が熱を帯びている気がする。
彼女らは私のローズに何をしているというのか!
ローズの膝枕?ローズからのよしよし?「いつもありがとう」って言われたり?
前にそれとなく聞いた時にはっきり「秘密」とローズに言われたから無理に聞いたりはしないけれど、その時間は間違いなく極上の時間なのだろう。
しかし本来娘をデロデロに甘やかすのは親の役目だけれど、ハウゼンも侍女も私の実家の皆もローズを甘やかす。
子供は甘えさせ過ぎると増長するから鞭も必要だ。
だから、私が教育係となって厳しく当たるしかない。
そう、次期女王を育てるのだと思って、特に身分差というものをよく教え込まないといけない。
「こら、ローズ。
王族が下働きの者たちと馴れ合うものではありません。
こっちに来なさい。
ほら、私の膝に座りなさい。
そうすれば下働きと近づけないでしょう」
「あー、ずるいです、ロサ様。
皆のローズ様ですよー」
侍女が何か言っているけど気にしない。
これはローズへの教育なのだから、厳しくしつけないといけないのだ。
「はい!
わかりました、お母様!」
外向きの笑顔じゃなくてローズらしい爛漫な笑顔を見せて近づいてきて、もう私はそれだけでじゅうぶん満たされた気がした。
……って違う、厳しそうな顔は保たなければっ!
ローズを膝に乗せながらの朝食は私に異常なほどの満腹感を与え、このスタイルの食事を当分は続けようと思うのだった。
最後に食堂に現れたのはハウゼンだった。
ちなみに息子のネロは各地の視察という名目で本物の魔物と戦う鍛練をしているからこの王城にはいない。
ネロはまだ幼くてもその実力は折り紙つきで、今回の視察も「武技を極めたい」というネロたってのお願いだった。
「ロサ、ローズ、今日も早いな。
さて、早速で悪いのだが、スラグ帝国から使者が来ていてロサに面会を求めている。
予定では昼からだったのだが到着が思ったよりも早かったようで、どうだ、今から使者に会うか?」
「ふん、待たせておきなさい。
私は今、至福のひとときを過ごしているんだから」
「ははっ!
見ればわかるさ。
……お前、スラグ帝国の使者に『面会は予定通りの時間に始める』と伝えておくようにと最高外交官に伝えておけ」
ハウゼンは近くの文官に命令した後、自らは食堂から出ていった。
当たり前だ、ここは侍女たちのための食堂なのだから。
出される料理も庶民料理ばかりで本来王族が食べるものではないからだ。
『最高外交官』という単語が出たときローズが膝の上で身をこわばらせたように感じたけれど、意識を向けたときにはローズはいつも通りに見えた。
朝食を食べ終えると私とローズはそれぞれの仕事に取りかかった。
私は戦争中に溜まっていた雑務、ローズは外交と礼儀作法の勉強だ。
ほんの少しだけロサを幼児退行させました。
以下、よしなしごと。
自分には年の離れた小さな従兄弟がいるのですが、背負う抱くじゃれるよりも、何故か膝にのせるのが一番至福を感じるんですよねー。
従兄弟がこっち向きに座ってもあっち向きでも、座っているだけで満たされます。
彼の普段の言動は呆れものですが、こういうときは大人しくなるのがまたイイ。