私と娘の死とそのすぐ後②
さてさて、誰視点でしょうか?
「キャッ!」
とスタッフが短い悲鳴を上げた。
後続は言葉を失っていた。
足の無い大人も、その子供も、どちらも身じろぎ一つせずに横たわっていた。
後からついてきた状況を掴めていない人たちが、ようやく渡り廊下に出た。
五メートルほどの短い渡り廊下に、十数人がひしめいていた。
人が二人死んでいるということだけを理解して、死因が何かは誰一人としてわからなかった。
鮮血の溜まりが形成されつつあった。
パシャッ
不意にカメラのシャッター音がした。
十数人が一斉に一人の方を向いた。
無言で見つめられ、責められているような気を起こした彼は、しどろもどろになりながら弁明した。
「日本大使館に連絡しようと思って……」
しかしながら、その人は毎日SNSに投稿することで院内では知られていた。
おそらくSNSに『私こんなに危険なところにいるの、かわいそうでしょ』みたいな投稿をするつもりだったのだろう。
(いかにも承認欲求の塊である人間らしい)
子供の骸の眉間には金属片が突き刺さっており、これが直接の死因ならば一瞬で意識が途絶えただろうと予想された。
スタッフが死体を屋内に移動させた。
そして死体の検分を始めた。
火葬は目立つから無理で、おそらく彼女たちは土葬になる。
誰かが呟いた。
「ここまで砲弾が飛ぶようになったのか……?」
しかしすぐさま否定された。
「それにしては被害が小さすぎるな。
砲弾ではなく何か別の、もっと小さなやつ……例えば地雷とか」
「地雷は我々に気づかれずに埋められるものなのか?」
「簡単ですよ。
三百円で買って、ちょっと掘って埋めて、そして土をかけるだけですから。
速く静かに仕掛けられますよ。
だからこの世界に、未だ除去されていない地雷が五千万くらいあるんでしょ」
そんな簡単に人を殺せるなんて、どこに地雷が隠されていて、いつ自分が死ぬかがわからない、と聞いていた人は戦慄した。
(雌の奪い合いや食用以外で同種の生き物を殺す生き物は人間だけだ)
「ついでに言うと、地雷は人を殺すことではなく傷付けることを目的としています。
敵の怪我人を増やすことで、病院を機能させないことや医療物資を不足させることが敵の戦力を大きく削りますからね」
「あれ、じゃあなぜ彼女たちは死んだのだ?」
「さぁ?
わかりかねます」
渡り廊下の死体があった辺りに、粉々の金属片が多数散らばっていた。
院長は言った。
「死因は一旦置いておいて。
彼女がいないとなると人手が足りなくなるぞ」
その言葉を聞いて、人々は一斉に荷物をまとめだした。
医者と子供が目の前で死んでいるのを見て、なお働こうとは思わなかったようだ。
「こんなところにいてられるか!」
「病院が狙われるようになったら、この戦争は終わりだ、、、やってられない」
「みんなここから逃げないと、彼女たちみたいに殺されるぞ」
人々は戦争の恐ろしさに始めて気づいたかのようだった。
死が今まで兵士だけの身に降りかかる他人事だったのに対して、身近な人の死によって自分にも起こりうることとして明確に意識されたからだ。
(結局、人間は自分のこと以外は基本どうでもいいようだ)
スタッフが探った白衣から、手のひらサイズの小さな手帳が出てきた。
※以下、自分語りです。読み飛ばしてくださって構いません。
自分は将来の夢の第一候補は、教師です。
リスキリング(ReSkilling)と呼ばれる言葉があります。
『今後AIが代替すると予想される職業から転職し、ICTの技能を身に付けて情報産業に従事し、新しい人生を歩もう』という意味です。
AIが席巻してくることで将来なれる職業に何が残されているのかがよく見通せませんが、学校の先生は人でなければならないので、将来の夢は学校の先生になることです。
さらに、先生になることの二つ目の利点は話す職業であることです。
つまり、ボケる心配がない。
昨今の医療の発達で寿命は延びていますが、健康寿命が長くなければ意味がない。
ボケずに晩年を過ごせたら、これほどいい人生があるでしょうか?
一方でデメリットは、
①薄給の割に忙しい
②生徒の将来を変えてしまうという責任が重い
③部活などを担当すれば、休日がほとんどない
④平日も戸締まりの関係上、生徒全員が帰るまで帰れない(つまり二、三時間は毎日残業)
など、メリットよりも多いです。
将来、自分は何になるんだろう?
楽しみです。