戦争は子供の顔をしていない①
今回の主人公は、とある第三魔法師団の団員です。
「よく来てくださいました、魔法師様」
領主館にたどり着いた僕たちを、僕と同じくらいかそれよりも若い、ぎこちなく微笑む女性が歓迎してくれた。
平均的な女性よりも少し背が高く、着ている騎士の鎧が似合っていた。
彼女はエマ·エチンと名乗った。
彼女は僕たちを領主館の庭へ連れてきた。
あまり手入れが施されておらず、これが辺境か、と思った。
突然、彼女は先ほどの歓迎ムードとは打って変わって厳しい顔つきになり、言った。
「来ていただいてすぐ申し訳ないですが、命を捨てる覚悟がある者以外、即刻王都にお戻りください。
私たちはやる気のない人にまで気を配る余裕は持ち合わせていません」
せっかくやって来たのに、こいつは何を言ってるんだ?と魔法師たちに動揺が走った。
僕も魔法師になった手前、戦いに命を捧げることを覚悟してきたつもりだ。
それを疑われ、即刻帰れ、などと言われるのは理解できない。
「あなた方が戦う相手は子供四人だけです。
たかが子供、と舐めてかかったら無駄死にしますよ。
ただでさえ、あなた方は第三なのですから」
さすがに最後の言葉にカチンときた魔法師が声を荒らげた。
「おい!俺たちを舐め腐るのもたいがいにしろよ!
俺らだって相応の覚悟をもってここに来てんだ。
第三魔法師団だからって下に見てんじゃねぇぞ」
おいおい、貴族様に楯突くなんて、一歩間違えれば不敬にあたるから気を付けろよ、と思った。
その言葉をホルマリン団長が擁護した。
「そうですよ、今のはさすがに私たちに失礼です。
これから戦地へ行く者たちの士気を下げないでいただきたい」
団長の低い声が敷地内によく響き、場は静寂に包まれた。
僕にはよりいっそう、この曇天が重く感じられた。
こんなときでもバッタは草から草へ移動している。
跳ばずに歩いて移動していることから、どうやら孤独相のバッタのようだ。
風に乗ってすすり泣きのような音が聞こえた。
慌てて顔を上げると、エマ様が手の甲で涙を拭っていた。
「なんでよ、なんでなのよ!
お父さんを殺されたことはある?
子供の頃から一緒に鍛練してきた友を殺されたことはある?
自分を慕ってくれていた領民が麻薬に冒されているのを見たことはある?
もう、もうこんな痛くて苦しい思いをしたくないの!
お願い、死にたくないなら帰ってよ……
お願いだからさぁ……」
先ほどのバッタがようやく隣の花壇まで移動した。
バッタは集団になると跳ぶようになるけれど、一匹だけならば体も小さく、空を跳ぶこともない。
なんだかこの領主様みたいだ、と思った。
父が死に、たった一人で領地を守らなければならない。
跳ぶこともできないし、自分の生きる小さな区画から逃げることもできない。
女性だから小柄であることも、孤独相のバッタとの共通点だ。
領主様が執事っぽい人の肩を借りて降壇していった。
変わりにホルマリン団長が壇上に立ち、僕たちを激励し始めた。
若干、涙を流している。
領主様の話に感動したのか、同情したのか。
とりあえず感化されているようだった。
「我らはエチン辺境伯様のことを誤解していたようだ!
彼女は嫌みとして我らの覚悟を問うたのではない。
今まで幾度も幾度も仲間を失ってきた、その経験があったから、我らに気を遣ってくれたのだ!
確かに!我らでは力不足な部分はあるかもしれない。
しかし『強い覚悟をもってここにいる』ということを、辺境伯様にもチルドレンにも見せつけてやろうではないか!
俺たちはロサ様から……」
ホルマリン団長が何か言っているが、僕が今一番気になっているのはここら辺の地図だ。
万が一僕より強い敵と出くわした場合に。上手く逃げられるルートを考えておかなくては、と思った。
今回の話は書くのに苦労しました。
覚悟ができていないのに一人前に戦地へ行こうとする、阿呆な団員を書いたつもりです。
どうでしょうか?
伝わったでしょうか?
エマ·エチンさんのことを気にかけず、死なないことを第一に考える。
兵士としては下の下ですね。
次はこの団員の末路を書くつもりです。
そういえば、『兵士』の様相は中世と現代で大きく違うことをご存じでしょうか?
中世では、一人の勇猛な兵士がいればその人の名前が残るくらい、戦闘はそれぞれの能力に依存していました。
一方現代では、たかが一兵卒よりも銃の方が有用になり、人は銃の引き金を引くだけの、ある意味道具になりました。
各人に格別の能力を求めることはなくなり、その軍の強さの指標は銃の数、ひいては引き金を引く人間の数で表されます。
オブラートに包まずに言うと、兵士はただの駒に成り下がったわけです。
悲しいことです。




