はじまりのはじまりのはじまり
ロサは人当たりが良いことで定評があります。
「そこの嬢ちゃん、いらっしゃい!今日の一番乗りだぜぇ!」
王都に出ると早速、魚屋の店長が声をかけてきた。
普段ならば魚屋や肉屋など、臭いのキツイ場所には王妃としては行けないため、朝のこの時間に様子を見に行くのだ。
(城に帰ったら侍女たちにはどこに行っていたかがすぐにばれちゃうんですけどね。)
そう二時間後のことを憂鬱に思いながら、魚屋を覗きに行った。
「ほらほら、右からアジ、ハマチ、ブリ、カツオ、タコ………どれも今日陸上げされた、新鮮な魚だぜぇ!」
「いいですね、どれも美味しそうです」
「見る目あるぜぇ、嬢ちゃん!そんなあんたには……サンマを店頭価格の半分で売っちゃうぜえ!」
……いい人ですね!と思ったのも束の間、店頭価格が一般価格の二倍に設定されているのを見て、商売上手に舌を巻いたのだった。
「あっ、お姉ちゃんだ!みんなー、お姉ちゃん来たよー!」
今日の目的地である孤児院に着くと、早速五十人ほどの子供たちに見つかってしまった。
「ねぇお姉ちゃん、今みんなで鬼が増える鬼ごっこしてたの。お姉ちゃんもやろ?」
「いいですね、やりましょうか。では誰が鬼なのですか?」
「仕切り直して今から始めるの。お姉ちゃんが最初の鬼ね。みんな逃げろー、お姉ちゃんは鬼だよー」
あっという間に小さな背中がもっと小さくなるのを見て、自分が動きやすい服を着ていたことに安堵し、私はゆっくりと駆け出したのだった。
さて。
現在およそ朝の五時だ。
子供たちが起きる時間ではないが、これには訳がある。
彼らは月に一度、王都の各地で清掃を行う。
前日は遅くまで寝て、当日は人通りの少ない夜から清掃を始めるのだ。
だから今は徹夜して町中を掃除したそのままということになる。
昨日が清掃の日だったから、恐らく子供たちは徹夜するまで頑張って、寝る間もなく私と遊んでくれているのだ。
彼らの底無しの体力には驚かされるが、鬼ごっこが一段落すれば寝かしつけよう。
ネロとローズのこともあって、子守唄は得意なのです。
「やーい、本気出さないと俺たちの誰も捕まえられないぜ!」
「何と!本気を出してもよろしいのですか?私、身体強化魔法を使えますよ?」
「なっ!……公平性を考えたら魔法の使用は禁止すべきだな、うん」
「ふふっ、驚いちゃって。ではそろそろ本気を出しましょうか」
その後五分もかからず五十人全員を捕まえたのだった。
子供たちが疲れて果てて寝てしまうと、私は院長に会いに行った。
院長の部屋は孤児院の入口付近にあるのだが、それは子供たちが院長の部屋を訪ねやすくするためだ。
子供がよく通る場所の方が子供と院長との心的距離が縮まるのではないかと思ったのだ。
そう、実はこの孤児院を建設したのは私だ。
だからここのことはよく知っているつもりだ。
そして今、私がここにいる理由。
それは、
今会いに行っている院長から、嘆願書が届いたからだ。
王城から孤児院までは徒歩二時間くらいですが、ロサは当然、魔法を使えます。
始めての魔法はもうすぐ出てきます。