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とある魔法師見習いとロサ

今回の語り部はアルマイトです。


ロサは子供の頃から町へ遊びに行っているので、ロサの姿かたちや癖など、大体のことは国民にバラています。

イメージとしては、イギリスでしょうか。

『開かれた英国王室』というモットーのもと、国民により近い場所で寄り添おうとする姿勢です。

私、アルマイトが初めて王女様を見たのは、私が魔法師になるための試験を受けた日だった。


「緊張してるの?」


掌に人という字を書いては呑み込み、書いては呑み込む私に、十歳くらいの女の子が心配そうに声をかけてきた。


「可愛い……じゃなくて!

子供がここに入ってきちゃ駄目でしょ。

お母さんは?」


艶やかな黒髪が可愛く、顔が私の好みど真ん中のその女の子がポツリと答えた。


「お母さんは、王宮にいるよ」


「そうなの、お母さんの職場がここだから一緒についてきたのかな?

お母さん、王宮のどこにいるかわかる?」


私は迷子になっているならお母さんのところまで送ってあげよう、と思って聞いた。

私自身、試験に急いで行かなければならないが、なんだかこの女の子とずっと一緒にいたい気持ちになってしまって、ついつい「送ってあげる」などと言ってしまった。


「たぶん国王様のいるところ」


あら、身分の高い人の娘?

高位貴族の子供なのかも。


「国王様、この時間だし執務室にいると思うな。

お母さんも心配してるだろうし、お姉さんと一緒に行こ?」


女の子はうーん、と首を傾げた後、口を開いた。


「お姉さんはここで何してるの?」


わざわざ話題を変えるなんて、もしかしてお母さんのところに行きたくないのかな?と思ったが、「可愛い子に興味を持たれてる!」という気持ちには勝てなかった。


「お姉さんはね、今から試験を受けに行くのよ。

この試験に受かったら、魔法師として働くことになるのよ」


「わぁ!すごいね。

ねぇ、ちょっとだけ、魔法見せて」


「いやいや駄目だよ。王宮では王家の人と許可された人以外、魔法を使っちゃ駄目なんだよ。

だから、私はまだここでは使えないわ」


王家の他にも、料理する人や洗濯する人や魔法師が鍛練するときならば魔法の使用が許可されているが、一般人が王宮で魔法を使えば国家反逆罪になる。


私の開発した技を見せてあげられたらよかったんだけど。


魔法師になるための試験科目の一つに、「新作魔法の開発」というものがある。

既存の魔法を披露するのではなく、自分が一から作り出した魔法を試験官に披露するのだ。

仮に他の科目で成績が悪くても、斬新で有用な魔法を開発すれば、研究者として魔法師団に入団することが可能だ。


ちなみに私が開発したのは爆音器だ。

何もないところから爆音を生じさせることができる。

魔物たちのヘイトを稼ぐために使えば有用だ。


(アルマイトが開発した魔法は、水素に点火する、というものです。

水素はポンッという音を立てて燃えますが、大量の水素に点火すればだいぶ大きな音が出ます。

その音によって魔物たちの注意を一点に引き付けることができます)


「お姉さんは、魔法使えないんだ。

じゃあ私が火の色を変える魔法を見せてあげるね」


え、この子、人の話聞いてた?魔法駄目だよ?

というか、火の色を変える魔法って何?

聞いたこともない。

魔法禁止と注意する間もなく女の子は、最初はリチウムよ、と言って人差し指を立て、その先に火をともした。


「炎色反応を起こしやすいのはアルカリ金属元素とアルカリ土類金属元素よ。

他にも、銅は青緑色の炎色反応を示すわ」


謎の言葉を発してから、女の子はまず、火を赤色に変えた。


「リチウム。次はナトリウム」


瞬時に黄色に変化した。


「周期の順番でいくなら、次はカリウムで、その次はルビジウム」


黄色から赤紫色、そして赤色に色が移る。

その綺麗なグラデーションに私は言葉を失っていた。

今この瞬間に関しては、魔法を使ってはいけないと注意することが愚策であると、今目の前で起きていることを見逃してはいけないと本能が告げていた。


「これで終わり。

綺麗だったでしょ?

……っと、ほら、お姉さん、もうすぐ時間じゃない?」


そうだった。

まだこの感激の余韻に浸りたいというのに、魔法師入団試験がもうすぐ始まる。


「ほんとだ、もう時間だね。

さっきは綺麗な……って、あれ?いない?」


時計を確認する間に、女の子の姿は跡形もなく消えてしまっていた。

大丈夫かな、道に迷わないかな、と心配になり、一つお願い事をして私は試験会場へと急いだ。




「ごめん、遅れた!

試験はまだ始まってないよね?」


一緒に試験を受ける女友達に訊ねた。


「もぉー、遅いよ。

今は試験官の紹介をしてるとこ。

ところでどこで道草食ってたの?

まぁーた可愛いものを眺めてたんじゃないの?」


「ふふふ、友よ、驚くなかれ。

なんと私、過去一可愛い女の子を愛でてきちゃいました~!」


「はぁ、そんなことだろうと思ったわ」


「その女の子ね、珍しいことに黒色の髪の毛をしてたの!

それに目もキラキラしてるし、私に魔法も見せてくれるし、とっても可愛らしかったわ!」


「えっ!?…………黒髪で王宮で魔法を使える人物……

ねぇ、それってもしかして……」


彼女はそこで言葉を切り、声のトーンを一段下げて私に告げた。


「それってたぶん、ロサ王女様よ」


「………またまたぁー、そんなわけないでしょ!」


私は一度は笑い飛ばした。

しかし、あの女の子が王女様じゃないか、という指摘に半分納得もしていた。

どう見てもあの女の子の魔法は常人のそれではなかった。


「……まぁ誰かわかんないし、私たち移動するみたいだから他の人たちについていかなくちゃ」


受験生が順番に会場へ入場しているのを見て、私は友だちに声をかけた。


しかし、妙に騒がしい。

前方で受験生たちがキャーキャー騒いでいる。

受験をする雰囲気じゃないぞ、と思っていると、私たちが入場する順番がきた。

二人で一緒に会場に入った。



そこで私が見たのは、先ほどの女の子だった。


嬌声をあげる人々はみな、彼女を向いていた。

私の近くにいる一人が甲高い声で叫んだ。


「ロサ様ー!こっち見てー!」


ロサ様と呼ばれた彼女はきょとんとした顔でこちらに顔を向けた。

そして目尻を下げ、微笑を浮かべて彼女は手を振った。


「ロサ、様…?」


私は呆然としてさっき出会った女の子の名前を呼ぶと、ロサ様は私の目を捉えて、にししっといたずらっ子のように笑ったのだった。



後日、合格通知が我が家に届いた。

聞くところによれば、このときの試験の合格率は例年と比べて異様に高かったそうだ。

みんなが、ある一つの願いのために、自分の限界を突破したからだろう。

とはいえ、試験で本気の120%を出しても元がそこまで優秀じゃない私たちは、未だに第三魔法師団から昇格できないのだけれど。

それでも私たちは。


いつか、王女様のために戦えるように。

いつか、ロサ様に褒めてほしくて。


今日も腕を磨いている。

いつもよりだいぶ長くなってしまい、すみません。


今回は、なぜロサが第三魔法師団に懐かれているのか、という問いの答えを書きました。


言わば、アイドルのライヴみたいなものです。


ライヴ会場で、あまりチェックしていなかったアイドルが自分の方を見て、にっこり笑ってファンサしてくれた。

→そのアイドルの追っかけになる。


みたいな感じです。

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