公務員試験⑤
エテンさん視点です。
エテンさんは負けず嫌いです。
全ての教科の解説を聞き終えたあと、儂はおもむろに、王妃様に尋ねた。
「一つ聞きたいのじゃが、試験時間はどれくらいじゃ?」
「そうですね、五十分もあれば終わらせられるのではないでしょうか」
それを聞き、「お恐れながら!」と儂は声を張り上げた。
儂ですら未だに理解できていない考え方や公式がたくさん出てくるこれらの問題を、一般人がたった五十分の間に理解できるとは思えない。
「恐れながら、王妃様。
王妃様はどのような人材をお求めなのですか?」
すると王妃様は三つの要素を上げた。
「実は私、貴族だけでなく庶民も入学できる学校を作ろうと思うの。だからそこで教師になってくれる人がほしいのよ。
まず専門的な知識を持っていて、一般常識も備えている。加えて生徒全員を分け隔てなく教え、導ける人がほしいわ」
儂は進言した。
「そうであるなら、五十分はいささか難易度が高すぎる。
どの問題もいままで誰も知らなかった考え方じゃ。
もっと難易度を低くできぬだろうか?」
儂はある確信を持っていた。
王妃様は難易度を変えない。
というより、簡単にする方法を知らないのだろう。
「ごめんなさい、これ以上どう簡単にしたらいいのかしら。
十分簡単にしたつもりなんだけれど……」
やはり。
そこで儂は用意の一言を放った。
「そこでじゃ、王妃様。
商談があるのじゃが、公務員試験の受験対策問題集を出版したい。
そしてそれを王家主導でやってほしいのじゃ」
儂自身がその問題集で勉強したいのだ。
王妃様は困った顔をした。
「内容にもよりますが、あなたはそれでいいのですか?
儲けの多くは国庫に入りますよ?」
儂は鷹揚に頷き、再び用意の一言を言った。
「それでいい。
王家主導で、作ってほしいのじゃ。
この問題集が発売されれば国庫は潤い、国民の論理的思考能力も飛躍的に伸びると考えられるが、どうだろう?」
なんせいままで誰も知らなかった知識が、明確な証明をもって現れてきたのだ。
数学者なら誰だって狂喜せずに入られないだろう。
(とはいえ数学者を名乗る人は儂しかおらず、学校の開設によって多くの若き人材が数学に魅了させることを願っている)
「確かに一石二鳥だわ。
では私は学校開設の宣伝に力をいれるから、エテンさんが問題集を作成してくれる?」
青天の霹靂とはこの事。
儂は自分が問題を作れるほど考え方を習得していないと思い、急いで首を横に降った。
「いやいや、王妃様が作ってくだされ。
儂は遠慮させていただく」
なんとなく、「今の儂では問題すら作れない」と言い難く、遠慮する振りをして役目から逃れようとした。
「もちろん給料は出すわよ。
百万ミンくらいでどうかしら?
是非、あなたに作ってほしいわ」
「しかし……儂は自分の研究をしたい」
とはいえ、儂が今もっとも研究したいのは三平方の定理や複素数、ベクトルについてだ。
どれも今日初めて知った内容だから、すぐにでも検討したい。
「えぇ、もちろんいいわよ。
でもあなたの研究内容は、今日からこの入試問題になるのでしょう?」
バレてる!?
「研究の成果を問題集としてまとめてくれればいいの。
この問題に大きな不備は無いようだから、問題はこれと全く同じにする。
そうすれば問題集も作りやすいでしょう?」
結局、仕方ない、と引き受けてしまった。
試験は二月に実施される予定らしいから、問題集はその半年前、つまりできるだけすぐに作成を始めなければならない。
儂は早速家に帰り、問題作成に精を出したのだった。
数週間後、発表された問題集の難易度が高く、公務員試験を受けようと思っていた人の多くがが戦慄したのはまた別の話。
そして数学者エテンに弟子入りを申し込む人が急増したのも、これまた別の話。
最近、化学の無機が面白くなってきました。
正直、無機が世界の中心なのではないかと思ったりもします。
たぶん一昨日、花火をしましたが、色が変わる花火がありました。
黄色から緑へと色が変わっていきました。
すごいなと思う前に
「炎色反応だ!
黄色はナトリウムで、緑は銅かバリウムかな」
などと妄想し、一人で楽しみました。