公務員試験③
ハウゼン視点です。
ハウゼンはエテン殿を待っている間に、ロサの作った試験問題に一通り目を通しました。
二度、最後まで読み終えた後、エテンはまた、一ページ目から読み直し始めた。
俺はロサから預かった時に一度目を通しているため、内容を知っている。
「問題の書き方はシンプルだった気がする」と思い、エテンが何度も読み直している理由が気になった。
「おいエテン、厳しく言ってもらってかまわ………」
「黙っておれ!やかましい奴だなお前は!
儂は今、問題を解いてるんだ。見てわからんか!?」
過剰なほど怒鳴られ、俺は呆れた。
チラリとエテンが開けているページを覗いてみると、そこには図形と数式が書いてあった。
大問一、AB=4, AC=3, 角B=90° の直角三角形ABCがある。
(途中式も書きなさい)
問一、△ABCの面積を求めよ。
問二、BCの長さを求めよ。
大問二、同じ数字を二度掛けて-1になった。このとき、もとの数字をiと置く。(例えば、a×a=-8のとき、a=2√2iである。またこのようなaを複素数と呼ぶ。)
問一、(1+√3i)×(1+√3i)=?
問二、複素数 1+√3i を横軸を実軸、縦軸を虚軸として複素数平面上に表せ。
大問三………
――――――――――――――
俺は問題を見終わって顔を上げた。
エテンもようやく顔を上げた。
俺は聞いた。
「数学に疎くてどの問題もわからないのだが、エテン殿、答えはどうなるのだろう?」
エテンは何故か少しだけ黙考し、答えた。
「わからない」
「…………えっ?」
「どの問題も初めて見る。儂の方が答えを教えて欲しいくらいだ」
まさか、プライドの高いエテンが負けを認めるような発言をするなんて…………
「こんなおかしな問題を作るなんて、お前の嫁は頭いかれてるんじゃないか?」
いや、ただの皮肉だった。
『自分ですら解けない問題なのだから、問題自体がおかしい』と言っているのだ。
しかし、俺の細君に対して「頭いかれてる」発言はいただけない。
客観的に見て、彼女ほど素晴らしい人間はいないというのに。
先ほどからのこいつの不敬への鬱憤もある。
「おい、エテン。お前、今、ロサを、侮辱したな?」
ドスを利かせると、エテンは恐怖を顔に張り付けて硬直してしまった。
俺はロサから預かっていた解答集を取り出し、エテンに投げつけた。
「ほら、解答を読んでもそんなことが言えるか?
お前が問題を解けないのは単純にお前がバカだからだ!」
俺はそう捨て台詞を吐いて、大股で部屋から出て、仕事をしに行った。
これであの老人も少しは態度を気を付けるようになるだろう。
ロサの試験問題は数学、国語、地理、経済、簿記、物理、化学、生物があります。
現代日本人ならば、どの教科も10分で解き終われる量と難易度です。
ロサの目論見は、1教科30分ほどで全ての教科の問題を解いてもらい、十分な論理的思考力がある人をそれぞれ適正のある部署に配属する、というものです。
自分がこの問題を受けたなら、たぶん、国語教師に任命されます。