公務員試験①
公務員には教員はもちろん、魔法師も含まれる予定です。
理由は、人材が足りなくなることはあれど需要は決してなくならない職業だからです。
安定した生活を望むなら、教員と魔法師はとっておきかもしれません。
『あーー、あーー、聞こえてる?
今あなたたちの心に直接話しかけているのだけれど』
ビクッ!と侍女たちみんなの肩が跳ね上がり、驚きと焦りが入り交じった顔を浮かべた。
しかし、すぐにホッとした表情になった。
実は、私のテレパシーはどうやら感情も伝えてしまうらしく、テレパシーを送った相手に私が怒っているのか嬉しがっているのか筒抜けらしい。
今、私は怒るつもりは全く無いし、逆に仕事をしてくれた侍女たちに感謝しているから、
『いきなり王妃様に話しかけられたけれど、どうやら怒ってないみたい』
と、安心したのだろう。
『あなたたちにお願いがあるのだけれど、ネロにはあなたたちが身の回りのことをなんでもしてくれることを当たり前だと思ってほしくないの。
だからあまり過保護になりすぎないで欲しいし、ネロが偉そうに命令したり、理不尽なことを言ったら私に報告してちょうだいね。
よろしくね?』
仕事に熱心に取り組むのは素晴らしいけれど、なんでもしてあげるのはネロにとって悪影響だ。
『本を読みたい』と言ってすぐ本を手に入れられる環境は一見素晴らしいことに見えて、実際は人間の性格をねじ曲げる。
そう思って伝えると、侍女たちは納得したようにコクコクと頷いていた。
……母親の仕事を取られたように感じ、少しヤキモチをやいたのは秘密だ。
朝、四時。
ネロは今、私のお腹の上で寝ている。
昨夜、ネロは布団に入って、私の足の間に座ってもたれてくると、本を読む間もなくすぐに寝てしまった。
ここは私の部屋だから、昨日のようにハウゼン様がいるわけではないからリラックスできる。
夫婦で寝るのはハウゼン様が誘ったときだけだから、あの日は特別だった。
というか、夫婦別室は私が提案した、緊張するから。
私は息子の後頭部を眺めながら、『もう少しネロの寝顔を眺めよう』と、今日の朝のお出掛けを取り止めることに決めたのだった。
「ロサ、起きてるだろう、入っていいか?」
コンコン、と小さくノックの音がしたあと、ハウゼン様の声が聞こえた。
「どうぞ」
短く答えるとすぐにハウゼン様が部屋の中に入ってきた。
「……神々しいな」
ハウゼン様がボソッと呟いたのが聞こえた。
私はお腹の上の息子を撫でながら、そうでしょうとも、うちの息子は天使です、と答えた。
「昨夜、一緒に寝ようと誘ってくれたんです。
いつも私たちとは別室で寝てもらっているから寂しかったんでしょうか。ベッドに入ったらすぐ寝てしまいました」
ハウゼン様は一瞬ムッと眉を寄せたがすぐに表情を取り繕って言った。
「それは羨ましいことだな。今夜は俺も一緒に寝てもいいか?」
「別にいいですよ。
それではローズも呼んで、久しぶりに四人で寝ましょう」
ハウゼン様はだいぶ間を空けて頷いた。
その後、私は学校づくりにあたって、教員が足りないことをハウゼン様に伝え、公務員試験を私が作りたいという主旨の話をした。
ハウゼン様は私のやることに大体は反対しないし、今回も快く承諾してくれた。
そう、ハウゼン様は私のやることに大体は反対しない。
しかし過去に説教してきたことは何回かある。
私の転移の魔法でハウゼン様と西部の山岳地帯に散歩に行ったときだ。
転移先に偶然熊の魔物がいて、もう一度転移すれば良かったのに、私は腕試しにその魔物を討伐したのだ。
別に苦戦はしなかったが、討伐したあと、
「いくら腕に自信があると言っても無用な闘いをするな!
次期王妃としての自覚をもて!
お前が死んで悲しむ人は俺を含め、たくさんいる。冒さないでいい危険を冒さないでくれ」
と言われたのだ。
私は納得したから、その後からは周囲の人たちに頼るようにしている。
とはいえ、公務員試験づくりは前例がないし、発案者である私が責任をもって作成しようと思う。
ロサたちが子供と一緒に寝ない理由は、自分たち自身が夜遅くまで起きているからです。
子供だけで寝かせるなら侍女たちと寝てもらった方が楽しいでしょう、というおかしな気遣いからです。
ロサたちは日付が変わるときに寝るから、子供の就寝時刻の四時間は後です。