想像通り
男はB級ホラー映画を見るのが何よりの楽しみだった。
映画館に足を運び新作を見るのではなく、週末に気の済むまでビデオを借り
部屋に日光を取り込む事なく、ベッドの上で日が沈み月が登るまでとにかく安っぽいホラー映画を見るのがたまらなく好きなのだ。
それを何年も繰り返していると男の体は衰え、友人や同僚の誘いよりも映画を優先するので男はいつしか孤立していた。
その日も映画を選んでいると、目に留まる作品があった。
いかにもB級ホラー映画ですというような本当にダサいロゴ、内容が一切伝わらないがとにかく恐怖を煽るキャッチコピー、こちらを殺意を込めた目で恨めしそうに指差す女
どこを切り取っても満点で、全てが完璧に安っぽかった。
その日、男は1作品だけしか借りなかった。
男は急いで帰宅し、古いブラウン管の前に張り付いた。
主役の英国男優が無気力にベッドに横になっていた。
彼は3日程前、6年付き合っている彼女の愛の重さに耐えきれなくなり電話で別れを告げた。もちろん長年を共にしたので直接話すことも考えたが、何をされるかわからないのでこの案は真っ先に消えた。これも長年共にしたからわかることだ。
電話で別れを告げた時、彼女は激昂し何を言っているかわからなかったしもちろん説得できるはずもないので一方的に電話を切り彼女の連作先を消した。
安堵の表情を浮かべると、映画は再びベッドの上の彼のシーンに戻る
女の激昂、彼の身の危険を感じたような目線に挙動はとてもリアルですぐに心を鷲掴みにされた。セットや衣装こそリアル過ぎて逆に地味だが、演技に関しては大物映画俳優と比べても遜色なかった
男はこういう世に出て評価されていないが、素晴らしい作品を見つけ出した時
この趣味の醍醐味とも言える優越感が味わえるのであった。
ベッドの彼が眠ろうとしたその時突然インターホンが鳴る
その後の展開は想像の通りで、鳴らしたのは3日前に別れを告げ身の危険を感じるほど激昂していた彼女
彼はメッタ刺しにされ血の滴るナイフがアップで映りエンドロールが流れる。
男はいかにもの展開に満足していた。
エンドロールの後黒い画面のまま、白い文字でメッセージが流れてきた
「ふうん、これは監督のメッセージとみた。こういう作品は監督が愛らしい人でとにかく感謝を伝えたがるんだよな」
・私の怒りはこんなものではない、街に出て無差別に人を襲うことも考えたがそれではすぐに捕まってしまう。
そこで考えた。周りから孤立し、週末家にこもって映画を見ているようなやつを襲うことにした
この一部始終をいかにもB級ホラー映画のパッケージにし、引き寄せられたものを無差別に襲う
男は恐怖のあまり震えていた。
インターホンが鳴る。
この先は想像通りである