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自由人スズキのアバウトな日常(短編完結)

作者: 越前とも

「この車、今時カーナビ付いてないの?」

スズキはマイカーに乗せた知人から、いきなり冷ややかな感想を喰らった。

まあ、今は普通に付いてますよね、カーナビ。

ええ、ええ、しってる。それなりにお高いのもしってる。でも値段だけじゃなく・・・

「カーナビは怖いんだよ」

「怖い?カーナビが???」

ふと、スズキの脳裏に、思い起こすこと二十数年前、まだ大学生だった頃、カーナビで苦しんだ記憶が蘇った。



それは同じ大学の友人2人と遊びに行く日のことだった。

スズキは電車で都内某所に赴き、他の2人と駅前ロータリーで合流予定。

しばらく待っていると友人のマスダがピカピカの新車に乗ってやって来た。

何事かと思って聞くと、最近納車したばかりの父親のセダンを借りてきたという。

「スゲー、かっこいー。」と褒めまくっていると

「ちょっと運転してもいいよ。」と気前の良いことを言い始めるマスダ。

ここでもう一人の合流予定者オダから当時持っていたケータイに連絡が入る。

「遅れるから1時間くらい待って。」と勝手な申し出。

せっかくなので、スズキの運転による近場ドライブで時間をつぶすことになる。

乗車してみるとなんと当時ではまだ珍しいカーナビが搭載されている。

「これ使って、どこか行こうぜ。」とスズキ。

マスダもまだ使い方がよく分からないらしいが、何とか操作して近場に高校があることを発見。

「○○高校ならあるぞ。」とマスダ。

「えー、○○って男子校じゃん。他になんか無いの?」とスズキ。

「じゃあ、△△女子高も近くにあるみたいだからそこにするか?」とマスダ。

確かにむっさい男子高生見るくらいなら、可憐な女子高生を見たほうが目の保養になる。

そんなこんなで、行き先決定。

よく分からないながらも懸命にカーナビを設定するマスダ。

ここで一つ気づいたのだが、カーナビの案内音声が結構うるさい。まあ、音を絞れば良いだけなのですぐにできるのだが、走り始めれば風切り音などで聞こえづらくなるから、まあ丁度良いかと思いそのまま出発。


新車だけあって実に快適。カーナビも快調。

20分くらい走ると女子高前に順調に到着。

しかし、カーナビの指示通りに運転していたら校門までの一本道に入ってしまい、免許を取って間もない大学生にはうまく切り返しができない。

「しょうがない。中に入って旋回させてもらうか。」

校門の中に車を進めようとすると、放課後の名門女子高だからか校門のところに女子生徒が門番のように1人待ち構えている。

(生徒会か風紀委員か?)

そんなことを思いながら車を進めると、案の定、ちょっと離れた所からこちらに向かって「どういった御用ですかー?」と大きめの声で問いかけてくる。

当然、ヒヤカシに来ましたとは言えないので、適当に嘘をつく。

「道に迷ってしまったので、中で旋回させてもらっていいですか?」

窓から顔を出して少し車を進めつつ女子生徒の前に車を止める。

しかし、この数m動かしたのが大失敗。

反応したカーナビが突如として大音量で


『目的地に着きました。音声案内を終了します。』


嘘、わずか3秒でバレる。

教会の懺悔室でもこんな大胆告白しませんよ、アナタ。

どうやら、正直な子のようで思っていることが、完全に顔に出ている。


1.道に迷ったって言ってるけどカーナビついてるよ。しかもカーナビ、ここが目的地だって言ってるよ。

  ↓

2.男二人で嘘までついて女子高に入ろうとする・・・

  ↓

3.絶対、不審者だ!!


隣にいたマスダもこの3段論法が容易に想像できたらしく、心なし顔が青い。

目のいいマスダは校舎の出入り口からの先生らしき女性が出てくるのを発見して更に青ざめる。

ツッコミどころが多すぎてどこから問い質せばいいか困っていた女子生徒も先生の姿を見てそちらに駆け寄る。

ええ、そりゃあ、見逃しませんよ。こんなチャンスは。

スズキ、閃光のような速さでギアをバックに入れて、アクセル ベタ踏み。

それはもう、稲妻のような勢いで全速離脱。

この段階で完全に不審者確定。

「バッ、お前っ!新車!新車!新車ぁーーー!!!!何で逃げるんだよ!!」マスダ絶叫。

何でって、そりゃあ俺の中の本能が全力で逃げろと叫んでるからですよ、マスダくん。

慌てまくっているマスダを見て逆に少し落ち着いたスズキ。ちょっとだけボケてみる。

「大丈夫!今の俺にはアイルトン・セナが乗り移っている!」

「死んじまうじゃねーか!それじゃあ!!」

動転している割に中々要点を付いたツッコミを入れるヤツだ。



かなり女子高から逃げて来た所で

「お前通報とかされたらどうするんだよ。」

と心配そうにするマスダ。

スズキ、優しく彼の肩を叩きつつ、出来る限りのいい笑顔でこう告げる・・・。

「大丈夫。ナンバー控えられてても捕まるのは君のオトンだ。」


『貴・様・ッー!!!!!!!!』


「大体どうして逃げるんだよ。説明すればいいじゃねーか!」

「カーナビに嘘100%全力否定されて完全に弁解の余地ゼロだったじゃねーか!!」

「元はといえば、お前が男子校がヤダって言うからーー!!」

「おめーが女子高行くか?って言ったんじゃねーか!!!」

などなど、見苦しい事極まりない会話を延々と繰り広げる2人。

収拾が付かなくなる寸前で大人な2人は、


― 遅れてきたオダが全て悪い ―


という素晴らし過ぎる結論に至る。

と、言う訳で「悪ぃ、悪ぃ」とさして悪そうにせずに合流してきたオダに対し、2人で突如にして過去最大級にブチ切れ、円満解決。



「カーナビ、怖いね 」

若き日と変わらぬ青空を見上げ、とてもよい笑顔でそうつぶやく自由人スズキであった。


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