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第2話 ディストピアから始まる異世界逃亡録

「ねえお兄、お互いのステータスチェックしようよ!」


 咲良ちゃんが唐突に喋りだす。ステータスチェックと言われてもゲームの世界じゃないんだからそんなことが簡単にできるわけがない。近年のネット小説ではステータスは可視化されているものと相場が決まっているが現実でそんなことができるはずがない。


「ゲームの世界じゃないんだしそれはさすがに無理だと思うぞ・・・」


 ゲームと現実の違いが判らない馬鹿な妹を可愛いと思ってしまったが甘やかしすぎると教育に悪いので頭を撫でながら冷静にツッコむ。


「ステータスチェックは無理だけどあなたたちにあげた力の説明くらいならできますよー」


「「うわっ!」」


 シロガネが突然俺と咲良ちゃんの間に現れる。


「あっはは!情けない声ー」


シロガネは腹を抱えて笑っている。コイツめ・・・


「じゃ、私も暇じゃないから説明ちゃっちゃと済ませちゃいますねー。妹さんはほとんどのステータスを生まれてからずっと鍛えていたら?という仮定をもとに強化しときました。お兄さんの方は妹さんのリソースで余った魅力のポイントを全部つぎ込んどいたからモテモテな異世界生活ができちゃう感で~す」


「魅力?そうか、咲良ちゃんは魅力的過ぎてこれ以上強化の余地がなかったのか・・・」


「いや、単純に魅力ないだけですよ・・・」


 俺は気づいたら俺はシロガネの首に手をかけていた。コイツ!よくも咲良ちゃんに魅力がないなどと・・・


「あー、鬱陶しいなもー。私やることあるんでさいならー」


 俺の絞首をまるで蚊でも払いのけるように解除するとシロガネは足早にどこかへ行ってしまった。こいつ、会社に入ったら定時退社するタイプの人間だな・・・そういう奴は社畜道がわからない非国民だと俺は差別している。まあ、高校二年生の俺にも社畜道なんてものはインターネットでしか知らないのだが。


「お兄、私そんなに魅力ないのかな・・・」


 咲良ちゃんは本当に可愛い。しかし、その可愛さ故に酷い仕打ちを受けてきた。そのせいで咲良ちゃんは自分に自信を失い、外見以外を肯定できなくなってしまった。だから魅力がないという言葉は自分の存在のすべてを否定されることになるんだ。


「あんな奴の言うこと気にするな。お前は世界一可愛いぜ?」


「そっか・・・ありがとねお兄」


 俺は咲良ちゃんの頬を伝う涙を指でふき取り、ニッと悪戯っぽい笑顔を返した。




***




「私たちの能力もわかったことだしこの世界の誰かに事情を説明して居場所を用意してもらおうよ!異世界転生した人たちは皆その世界の住民に優しくしてもらえるってラノベで読んだよ!」


「そうだな。嗜好警察とやらが追いかけてきたのも多分何かの勘違いだろろうし・・・そうと決まればそこら辺の人に話しかけてみるか!」


 俺たちは適当に街を歩き、交番のような施設を探した。街を歩いているとやはり周囲からは奇異な視線が向けられた。そんな視線よりも俺はこの街のある要素が気になった。それは街の景観だ。建物はすべて同じ高さにそろえられており、心なしか幅も同じに見える。煌びやかな装飾は全くないがすべての建物は綺麗に掃除されて清潔だ。それに加えて建物の用途が入口付近に書かれていること以外はすべての建物のデザインが同じ。統一された街の風景に気味悪さすら感じる。


「おい、貴様らさては異性愛者か!?嗜好警察に通報してやる!」


 突然、背後から男の怒鳴り声が聞こえる。いったいなんだと言うんだ!?周囲もざわざわと騒がしくなり始めた。男が電話をすると数分遅れてさっき追いかけてきた奴らと同じ格好をした連中がワラワラとやってきた。


「嗜好警察だ!異性愛者は観念して署まで来い!」


「またオレなんかやっちゃいました?」


 さっきから何なんだよ!異性愛者ってなんだ?何がそんなにおかしいんだ。男が女を、女が男を好きなのは例外を除いては当然のことじゃないか。少なくともこんな侮蔑の眼差しを受けるようなことじゃないしましてや警察が動くなんて馬鹿げている。


 白服警官のうち一人が拳銃を俺たちに向けて発砲した。当てるつもりのない威嚇射撃だと俺にはわかったが咲良ちゃんはガクガクと震えている。


 コイツら、咲良ちゃんを怖がらせやがって!咲良ちゃんは臆病なんだ。俺が守ってやらないと!俺は近くにあった鉄パイプを拾い、白服の警官を殴打すべくゆっくりと前進する。大勢の警官に勝てるとは思わないが数人なら熨すことは可能だ。日々の筋トレで培われた俺の力は伊達じゃない!


「テメェら!咲良ちゃんが怖がってるだろうがァ!」


 俺は十分に接近するし鉄パイプを振るう。刹那、白服の警官たちの発砲した弾丸が俺の腹部を抉った。


「ッッッ」


「お兄!」


患部から血は出ていない。弾丸はゴム弾のようだ。だからと言って軽々と発砲するコイツらはどこか狂っているとしか言いようがない。


「咲良ちゃん逃げろ!俺はもう立てない!お前だけでも助かってくれ!」


「そんな・・・出来ないよお兄!」


 咲良ちゃんは俺に駆けよってくる。駄目だ!もう俺は立てない。俺を担いで逃げ切れると思うほと俺は咲良ちゃんの力を過信していない。


バシッ


 何かが地面に叩きつけられるような音がした。次の瞬間、それは黒煙を周囲にばらまく。


「あなた達、事情は後で聞くわ!こっちよ!」


 柔らかい手の感触を腕に感じた。


「助けて、くれるのか?」


 そんな俺の言葉に当然じゃない!と何者かが答える。余裕のない焦ったような声だったが普段はかわいらしい少女であることがわかる、そんな声だ。


「後ろの彼女さんも彼を運ぶの手伝って!」


「か、彼女!?ぐえっへっへへへへ!」


 少女は焦りながらも冷静に指示を出すとついて来いと言わんばかりに手をひらひらさせながら先へ進む。


「はあ、はあ、はあ」


 気が付くと俺たちは路地裏に来ていた。黒煙が晴れ、白服の警官たちがキョロキョロと周囲を見回しているのが見えた。


「この奥に私たちの基地があるわ。ついて来て」


 少女は早足に路地裏を奥へと進んでいく。咲良ちゃんも俺を抱えながらそれに続く。


「行き止まりじゃないか!」


 目の前には大きな壁が広がっている。基地なんてあるように見えない。


「まあ、黙ってみてなさいよ」


 少女は壁に複雑な記号を描くとギギギという金属が軋むような音がして壁から取っ手のようなものが生えてきた。


「さ、入りなさい。ここが私たちシスター連盟の基地よ」


 扉を開けると少女はこちらに手招きをする。基地の中は体育館くらいの広さで、壁際の3面に部屋が2つずつ配置されている。中央にはロの字型に机といすが並べられており、その中心にモニターが鎮座している。そんな奇妙な基地内の照明は薄暗く、秘密基地のような非日常感を演出していた。モニターの明かりに照らされてやっと少女の顔を注視することができた。髪はミルク色で肌が白い。顔は全体的に整っているという印象が強い相貌だ。


 基地内の椅子に座りながら俺は訪ねる。


「あなたたち、歓楽街を男女二人で歩くなんて馬鹿じゃないの!?」


「??なんでそれがダメなんだ?」


 あの場所が歓楽街だったことは知らなかったが男女で歩ていても不自然な場所ではない。


「あー、この人たち今日ここに転生してきたばっかりでこの世界のこととか何にもしらないんですよ」


 シロガネがまたどこからともなく現れる。


「うわっ!あなた誰!?転生!?何言ってるの!?」


 少女は何もわかっていない様子だ。まあ、妥当な反応だろう。異世界転生の存在なんて俺も実際に味わうまでは信じていなかった。


「あーもう面倒くさいな<記憶改竄>!」


 シロガネはそう唱えると周囲が光に包まれる。刹那、少女は納得したような顔をした。


「あなた達この世界の新入りなのね・・・じゃあこの世界で異性愛が禁止されていることを知らなくても無理ないわね・・・」


 新入りというのはこの世界に新しく来た人間のことを言うらしい。本来そういう制度は無いらしいのだがシロガネの力によってそういった存在を認めさせたと後に説明を受けた。


「この世界で異性愛はタブーとされていてそれを犯すとさっきみたいな連中に連行されて酷い目に逢うわ」


 なんて世界に転生してしまったものだ・・・


「そして、この世界で数少ない異性愛者が私たち、と言ってももう皆帰っちゃったけど、シスター同盟なのよ!」


 少女はドヤ顔で組織名を名乗る。


「あなた達も見た感じ異性愛者よね。この組織に入りなさいな。異性愛者がこの世界で孤独に生きていくのは結構大変よ」


「ありがたいな。じゃあ、入らせてもらうよ」


「お兄が入るなら私も・・・」


 一時はどうなることかと思ったが思わぬ救いの手が差し伸べられた。




***




『シスター同盟の目的』

1.異性愛者同士で集まり互いの身を守る

2.異性愛禁止の社会を変えるために革命を起こす

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