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ご令嬢万華鏡

そして戦争は起こった

作者: 黒森 冬炎

皇太子は誤用ではありませんよ。

グレートブリテン及び北アイルランド連合王国はすでに大英帝国ではないがチャールズは皇太子である。


一文脱落発見。なおしました。

誰も指摘しないとは。

長広舌はだいたい10行飛ばしで読む推奨(笑)




 ブリリアントキャンドゥ連合王国セベラル王国マジカルアート学園フレグランス王女記念ホールは、その一言で水を打ったように静まり返った。


「あなたとの婚約は破棄させていただく」


 セベラル皇太子アイリス王子ジョン・クリフの、張りがあるテナーボイスだけが、学生には贅沢な広いホールに響く。


「デイジーは、私を皇太子としてではなく1人の人間として見てくれたんだ。あなたは、総ての人に冷たく、次期王妃に相応しくない」


 ぱちり。あなたと呼ばれたブリリアントキャンドゥ連合王国ハイパー王国の末姫シュガー王女リリー・テンプルは、ひとつ瞬きをする。そして、優雅な桜色の唇を開く。


「あなたが皇太子であるということは、1人の人間としてのあなたの、切り離すことが出来ない一部です。あなたがエドワード・クリフが第一子ジョン・クリフであるということ同様、あなたが今この学園の生徒であると同様、オギャアと産まれたその時から、この世に於いてあなたを構成する一要素に過ぎません。皇太子という記号としてのみ見ているのであれば、歴代と比べて優秀だと誉められることもなく、見目が良いと慕われることもない。優秀さも見目の良さも、皇太子という身分同様、あなたを構成する一要素です。両陛下にとってあなたは優秀な皇太子に過ぎません。護衛騎士ジョナサン・バーニング卿にとって、あなたは護衛対象に過ぎません。」


「なんだと」


「反対に、婚約者定例茶会の係りをしている侍女達は、あなたにとってお茶汲み人形に過ぎません。彼女達は五人いますが、あなたは名前をご存知ですか?キドニー伯爵令嬢メアリー・オレンジ、クリープ伯爵令嬢キャサリン・ハート、スティック子爵令嬢エリザベス・ゲッタウェイ、マンダリン子爵令嬢アンバー・キャラウェイ、ですよ?彼女達にとってのあなたもまた、お茶汲み対象に過ぎません。あなたにとって、パン屋のフィリップがパン屋の息子としか見られないように、ローラが花屋の娘でしかないように、私があなたの婚約者でしかないように」


「なにを」


「あなたは私を1人の人間として見たことがありますか?ありませんよね。私は、あなたが紅茶に砂糖を3杯入れるのを知っています。毎回注意しますしね。あなたが両陛下とのお茶会ではカッコつけて砂糖を入れないことも知っています。ケイト情報です。」


「ケイトとは誰だっ!スパイまで送り込むとは!」


「ケイトはあなたにとってお茶汲み人形に過ぎない、クリープ伯爵令嬢キャサリン・ハートですよ。彼女が好きなのは一番人気の近衛隊長リチャード・ストマク卿でもなく、あなたの護衛騎士ジョナサン・バーニング卿でもなく、婚約者定例茶会の時間帯に見回り当番で薔薇園外周を通りかかる、庭園専属巡回騎士ソード・スナイプ郷です。ウサギ好き仲間だそうですよ」


「なんの話だっ」


「あなたが1人の人間として見てもらうためには、あなたも相手を1人の人間として見なければなりません。1人の人間を構成する要素は、無数にございます。そしてまた、あなたが1人の人間であるということもまた、ひとつのあなたを構成する要素に過ぎないのです。また、いま、あなたはまさに、愚かな王族として、記号としての暴君という役割を果たしております」


「衛兵!反逆者だ」


「過ぎ去りつつ色褪せ行く現在に於いて、我々は皆、前に進むしかない」


「ついに気が触れたか」


「婚約者交代が決定事項であるならば、謹んでお受け致しましょう。どうぞあなたの閉じた世界で、皇太子として、いずれは王として、ジュエル卿息女デイジー・カルーセルの夫として、存分にその記号としての役割を堪能なさって下さいませ」


「またデイジーを侮辱したな」


「また私を罵倒なさいましたね?私はあなたの言動の正当性を理解出来ません。あなたの主張も、私の応答も、互いに投げ出された梯子のようです。理解し得ないものについては、沈黙せざるを得ません」


「衛兵、この狂人を幽閉せよ」


「外交問題になりますよ。戦争がお望みですか。よろしゅうございます。直ちに帰国し、応戦準備をいたしますわ」


 皇太子はまだなにか喚いていたが、話の通じない同士の2人には、もとより対話など発生しない。

 これより10日の後、ハイパー王国から届いた正式な抗議文に対し、セベラル王国はあろうことか莫大な賠償金を求めることで応じた。


 これが、ブリリアントキャンドゥ連合王国を2つに割った、連合王国戦争の、歴史に名高いマジカルアート学園の醜聞、賠償金不当要求事件の顛末である。


そして、戦争は起こった。


お読み下さりありがとう存じます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 皇太子は身分や立場でなく、自分という個を見てくれる相手との心ある結婚を望んだのでしょうね。でも、リリー・テンプルから見たら、皇太子の方こそ相手をちゃんと見てやってないんじゃん、という溜まっ…
[一言] 結論、どっちもどっち。 自身の閉じた世界と主観に基づいて世界を見ている皇太子も皇太子ですが、理性を通して論理によってしか世界に向かいあえないヒロインも問題児ですよね。 相手の感情すら情報と…
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