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異世界への旅立ちは突然に

「頼むよ。今月まじでピンチでさ。1万でいいから貸してくれない?」


 俺の目の前で俺に頭を下げる友人がいる。

 もうこれも見慣れた光景だ。


「お前、それ先月も、先々月もそう言って、まだ返してもらってないからな」

「えっ? 違うよ」

「違くないよ。先々月も貸しただろ」

 

 こいつには何度も貸しているせいで正確な記憶はないが、少なくとも先々月から貸している。


「いやそうじゃなくって3ヶ月前からだから。そこはちゃんとしてもらわないと」

「借りてるお前が偉そうに言うな。そういうなら早く返せよ」


 俺はそういいながら財布から1万円札をとりだし友達に渡した。こいつが本当に友達かと言われれば疑問が残るが、腐れ縁のようなもので,かれこれ10年くらいの付き合いになる。


「ありがとな! 勝負に買ったら倍にして返すから」

「お前っ! ギャンブルにつぎ込むなら返せよ。俺だった余裕あるわけじゃないんだから」

「冗談だよ。じゃあな」

「おう」


 こいつに金を貸すと俺の所持金もかなりピンチとなるが、小さな頃から人に何か頼まれるとどうしても断りにくい。今月の給料日まで残り20日間。今月も、納豆様ともやし様にお腹を満たしてもらうしかないようだ。


 俺の名前は楠木テル。

 今年で30歳になり、仕事は田舎で何でも屋のようなものをやっている。

 彼女はもちろんいない。

 

 田舎は若い人がいなくなってしまい、何をするにも人手不足だった。

 人手?は力だった。毎日は必要ないけどたまに人手が欲しいと言われた時に手伝いにいくような感じだ。

 大金は稼げないが、それでも需要はかなりある。

 ギスギスした人間関係がない分非常に楽で人から必要とされているのは仕事としてやりがいがある。


 仕事内容は、その日によって違う。

 たまに働いても現物支給なんて時もあるが、それはそれで付き合いとして仕方がない。


 でも、そのおかげで生きていく上での色々なスキルが中途半端についた。

 本職ではないので完璧ではないが田舎はなんでも自分たちで修理したり、作ってしまうので意外と面白かったりする。


 収入はそんなに多くはないが、自分一人で生活していくには気楽なものだ。

 その日俺は、友人にお金を貸したあと、雨の中を実家へむかって車を走らせていた。


 俺の住んでいる地域はかなり田舎にあり車がないと生活することができない。

 場所によってはコンビニまで数十分車で走らないとないなんて場所もある。


 本当に金欠になってくると、車も売ってしまいたい衝動にかられるが、都会のように電車やバスなどの交通機関が整備されていないため。車がなくなったら生活できなくなってしまう。

 

 本当に悩ましいところだ。


 実家の近所までくると一人の女の子が傘もささずに歩いていた。


 一瞬声をかけるかどうか迷う。

 まわりも暗くなっており車に乗った知らない男から声をかけられたら不審者扱いされかねない。

 親切心が必ず正しく受け取られるとは限らないのだ。


 ただ、実家までもう少しであり、この辺りを歩いているということはきっと近所の子なのだろう。

 少し悩むが、傘だけでも貸してもし返す気があれば実家に届けてもらえばいい。


 昔からこの地区に住んでいるので名前を名乗れば大丈夫だろう。


 俺はゆっくりと女性の横に車をつけ、


「こんばんは。この近くに住んでいる楠木だけど、大丈夫かい? 良かったらこれ傘使って。覚えていたらこの先の俺の家に届けてくれればいいから」


 できるだけ爽やかな感じで言っているつもりだが、不審者に見られたのか意外な顔をされる。

 通報されないことを切に願う。


 女の子は俺から傘を受け取ると、


「ありがとうございます。もし迷惑でなければ、ついでにこの先まで乗せていってもらってもいいですか? 私の家この先にあるお地蔵さまの奥なんです」


 確かに俺の実家よりちょっと先にお地蔵さまがある。でも、そんなところに家があったか?


 いや、でも最近の家は短時間で建つというし、俺が知らないだけかもしれない。


「いいよ。普段助手席に人乗せないから汚いけど、それでよければ乗って」


 その子の年齢は……子と呼ぶにはだいぶ大人びている。夜で後ろ姿だったため幼く見えたが、どうやら犯罪にはならない年齢のようだ。


 車に乗せ何か会話をしなければと思うが、上手く会話が続かない。

 どうせ数分のことなのでこのまま沈黙したままでいいかと彼女が指定をしたお地蔵のところまで乗せていく。


「おじさん。ありがとうございました」


「うん。お兄さんだけどね」


 外見は確かにおじさんに近くはなってきているが、まだお兄さんでいけるはずだ。

 いや言って欲しい。いやいけなくてもお兄さんって呼んでもらいたい。


 もはや願望でしかないんだけど。


「ふふっお兄さん失礼しました」

「あっこの傘持っていきな。まだ雨降ってるし」

「ありがとうございます。でもこの傘はお兄さんの方が必要になるものだから大丈夫ですよ。優しいお兄さんに素敵な出会いがあるようにおまじないかけてあげますね」


 その女性は傘を手に持つと優しく傘に唇を近づけた。

 そのしぐさが妙に色っぽいものを感じ背筋に何かゾワッとしたものが走る。

 ついたかつかないくらいの距離で唇をはなすと、小さな声でなにか呪文のようなものを唱える。


「はい。これで大丈夫です。よい旅を」

「あっありがとう」


 きっと助手席の汚れぐあいから彼女もいないのがばれてしまったのだろう。

 素敵な出会いだなんて、田舎は結婚が早いのにこんなおっさんが一人でいたから心配されてしまったようだ。


 よい旅をと言われても別に旅行に行く予定なんてまったくないが、きっと感受性豊かな不思議な子なんだな。余計なことは気にしてはいけない。

 

 田舎とはいえ、人それぞれ色々な事情があるものだ。


 こんな雨の中で傘もささずに歩いているなんてきっと訳があるに違いない。

 そこに踏み込むのはおっさ……お兄さんのできる範疇をこえている。


「それじゃあ俺はこれで」


 俺が声をかけようとするとすでに女性の姿はなくなっていた。いったいなんだったのだろう?


 不思議な魅力のある女性だったが狐にでも化かされた気分になる。いくら俺の実家が田舎だとはいえ……。


 助手席に傘をおこうとすると急に傘から眩しい光が放たれる。

 なんだこれ、まぶしくて前が見えない。

「勇者様……勇者様……」

 気が付くと俺は車の運転席からどこかの石造りの建物の中に移動していた。

 へっ? ここどこ?


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