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漫画を描いた話の続きと、売り子をした話

 

 ダイソーの中綴じホッチキスは、壊れていて使えなかった。針が中で詰まっていて、それをピンセットで引っ張って取り出そうと試みたものの、途中で折れてしまい自体は悪化した。時刻は深夜の2時である。


 私はこの困難に立ち向かうべく、「普通のホチキスで中綴じをする方法」をググった。段ボールを下敷きにして、普通のホッチキスを押し付けてどうたら……と言うものだ。しかしこれは上手くいかなかった。


「どうすんのこれ?」


 友人に会うのは、15時過ぎの予定だ。しかし私にはその前に予定があった。なんと、昼に宝塚を鑑賞するのだ。とりあえず私は寝ることにした。



 仮眠をした私は、全てをこなすべく、厚化粧をして銀座へ向かった。観劇はハレの日だ。おしゃれをしなくては始まらない。そのついでに、ロフトでホッチキスを買った。


 私は念には念を入れ、レジで店員に確認した。


「このホッチキス、中に針入ってますかね?」

「はい」


 店員ははっきりと、そして商品を見ずに答えた。私はその返答に満足した。確認しないで言うのだから、彼女はこのホッチキスの事を熟知しているのだろう。針はたった2本あればよい。無理に家で使わない在庫を抱える必要もないので針は買わなくてよい、と思った。


 開演まで20分ほどしかないので、私はロフトのビニール袋を鞄に突っ込んで、日比谷劇場に向かった。すでに汗だくである。そうしてやっと、心おだやかに『エリザベート』を観劇することができた。しかしまあ、歌とビジュアルは素晴らしかったが、どうにもストーリーが気に食わなかった。


 そんなこんなで、私はバラバラの同人誌を抱えたまま、有楽町からお台場へ向かった。


 空いてそうなトイレの個室に入り、ささっと留め……て……。


 私は愕然とした。中綴じホッチキス君2号には、針が入っていなかったのだ。


「なん……だと……」


 全身の力が抜けた。待ち合わせにはまだ時間があるが、このダイバーシティなるショッピングモールで今度はホッチキスの針を探さねばならない。私は5階から1階まで降り、コンビニで針を購入した。


「やっと……完成した……」


 本当の本当の本当に、手こずらせてくれたものである。こうして、私の初めての同人誌は完成した。その後無事に友人と合流し、帰り際に「お互いの同人誌を交換する」事ができた。あんまりにも恥ずかしかったので、「決して中身の感想など言ってくれるな」と伝えた。


 全くもって内容は雑魚の極みであるが、友人は「やりとげた事」をとても喜んでくれた。こうして、私の同人活動は終わった。2018年の秋のことだ。


 私はその後もだらだら絵を描き続けたけれど、2019年の春には絵画教室を辞めた。そして、夏から小説を書き始めた。なぜそうなったのか、自分でもわからない。おそらく、その一冊で「燃え尽きて」しまったのだと思う。


 そして今。私は思う。


「小説、絵より書くのぜーんぜん、楽じゃん!お金もかかんないし、どこでもできるし!」と。


 やはり、小説は最高である。鎧とかドラゴンとかドレスを「描く」事に比べたら、「書く」事のなんとお手軽なことか。ちなみに絵を書く人からすると「描いた方が早い」そうだ。


 私は「どう考えても逆だろ?」と思ったので、やはり漫画を描く人と私は別の人種なのだと思う。そんなこんなで、私は「自分、絵より小説の方が100%向いてるわ〜」と確信するに至った。


 どんなクソ小説を世に放とうとも、例の同人誌よりはすばらしい出来であるし、なろうには締め切りがないので上記の様なプチパニック状態に陥る事もない。平和でよい世界である。



 さて。やっと本題の「売り子をした話」だ。


「なろう」に投稿をはじめてから、私は彼女のサークルで売り子をする事になった。ジャンルは創作と、二次創作。なんと、同じ月に2回である。1ヶ月の間に、漫画を2冊だか3冊発行する。年に2回しかないコミケですら、新刊を落とす奴がいるのに、そんな事をして大丈夫なのか。彼女は言った。


「新刊をわざわざ買いに来てくれた人に、『落としました』と言いたくない」


 彼女は真面目である。夏休みの宿題をブッチしていた自分とは違う。きちんとその時も新刊を用意していた。


「売り子」はまあそのままの意味である。スペースで同人誌を売る人だ。2人同時に稼働する必要はまったくないので、彼女は買い物に出かけた。


「イベントって、そんなに混んでないんだなぁ」


 100冊売るのだって、2時間だとほぼ1分に1冊ペースで売らなくてはいけない。私のイメージ以上に、同人誌と言うのは売れないものだった。他のサークルも、同じくらいの空気感だ。皆、絵が上手かったが、一般客はウィンドウショッピング的な楽しみ方をしている人は少なく、もともと決まっているものを買う人が多い様に思われた。


 2時間居て、10冊行くか行かないかぐらいだっただろうか?途中、彼女の知り合いが何人か来て、新刊を買って行った。交通費、イベント参加費、印刷代。自分の時給を0円と考えても、趣味としてはお金がかかる部類に入るだろう。


 同人誌を刷るのはお金がかかる。そのため、どうしても同じキャラクターの話を続けていると「最初の頃の作品が完売してしまうと、新規の人が来ても『途中なのでわからない』となってしまい、定着しない」と言っていた。そのため、オムニバス形式の一冊完結型にする様、心掛けているそうだ。



 次の週は、二次創作のイベントであった。過去に大人気ではあったが、今はすっかり落ち着いているジャンルである。私はここにも売り子として参加した。


 その時は、創作よりは売れるスピードは早かった。フォロワーのフォロワーの様な、「厳密には知り合いでもないし、同じ作品が好きなだけの全く違う嗜好の人」が割と頻繁に尋ねて来たので、このあたりが一次創作と二次創作の違う所だな、と思った。


 隣の隣に商業作家さんがいたが、売れ行きにそこまで差がある様には思えなかった。やはり斜陽ジャンルである。


 ところで。今まで長々書いたのは同人誌(漫画)の話である。「なろう」に入り浸っている読書家にはピンとこないかもしれないが、「同人誌(小説)は売れない」らしい。小説はページ数が多いので値段が高い。そして「パッと見の良し悪し」がわからないので、敬遠されがちだそうだ。たしかに、島を見渡すとそんな感じの空気が漂っていなくもない。


 なにせ、程度の差はあれど「字書きは絵描きになれなくて逃げた奴」みたいな風潮もあるぐらいだ。私はモロにこれなのでこの意見について反論する気は特に無いけれど。


「つまり、私が漫画を書いても、新たに小説で二次創作をしても、1冊も売れない可能性がある、と」


 私は恐ろしくなった。やはり、無料と有料の違いがあるとは言え、「なろう」は巨大なプラットフォームである。私がコミティアに自分のコピー本を無料で配布していても、もしかしなくても一冊も捌けないかもしれない。そう思うと、やはり「なろう」は優しい世界なのである。


「やっぱ、ネット小説って最高だわ〜」


 同人誌即売会はとても楽しいし、いい文化だと思うが私には覚悟が足りなさすぎるな、と思った。交通費と労力をかけ、休日をつぶしても、1人にすら読まれない事を思えば、「なろう」に投稿する事のなんとお手軽なことか。


 長くなったが、一行でまとめると「底辺底辺言っても、漫画よりは断然向いてるし、お金かからないし、そもそもサイトの力で実力以上に読まれてる」からモチベ高くて当然、って話でした。


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― 新着の感想 ―
[一言] 分かりますわ〜。 私はもっと酷い。私の画力は「壊滅的な」の足元にも及びませんから。 ヒトを描けばマッチ棒に手足が付いている。 家を描けば「立」の上側の横線をへの字にしたような。 車を描けば道…
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