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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

孤独なるもの

作者: 由仁神楽

 もうどれくらい繰り返したのだろう。

 何回同じ思いをすれば良いのだろう。

 何度壊れゆく様を見届けるのだろう。


 ……わからない。


 変えるも変えないもできない私。

 なんのために存在するのだろう。

 なにをしていけば良いのだろう。

 考えても考えても答えは出ない。


 わからないから視えるものを再び整理していく。


 何度試しても一人では間に合わなかった。

 だから私の分身体を創ってみた。

 けれど私の言うことは全く聞かなかった。

 だから試しで二人に割いてみた。


 一人は光り輝き。

 一人は闇を纏う。


 光り輝くものは、自分と同じ光るものを集めていった。

 闇を纏うものは、残り朽ち果てるものを集めていった。


 私が光り輝くものを手伝うと不純なものが混じると怒られた。

 私が闇を纏うものを手伝うと綺麗なものが混じると怒られた。


 二人は相変わらず言うことを聞かない。

 けれども凄い勢いで整理は進んでいく。

 だから私はただ視ているだけに留めた。


 ずっと、ずっと、二人は集め続けた。


 いつの間にか集め続けたものから意志を持ち二人を手伝うものが現れ増えていった。

 手伝うものの大半は二人の指示どおりに動いていくが、

 手伝うものの中には二人の考えに反対するものもいた。


 二人はそんな反対するものを遠ざけていった。

 遠ざけられるものも次第に数が増えていった。


 私はそんなもの達を自分と重ねた。

 コッソリそのもの達を集め始めた。

 けれでも見つかり二人に怒られた。


 光り輝くものは言う。

 そんなものは同胞ではないと。

 闇を纏うものは言う。

 そんなものは必要ではないと。


 でもね私にとっては同胞なんだ。

 だから私にとっては必要なんだ。


 光と闇が安らげる場所になればと、

 私はこのもの達に居場所を創った。

 沢山の変化があり視ているのは楽しかった。

 だからいろんな場所に何個も創っていった。


 全く同じものは存在しないけど、

 微細な共通点は何かしらあった。


 そのうちの一つは『動くもの』

 居場所を中心として存在する。

 いつの間にか居場所から出てきて。

 やがて必ず居場所へと戻っていく。


 ある居場所は大きい動くものだけがたくさん見られ、

 ある居場所は小さい動くものだけがたくさん見られ、

 ある居場所はそれらがバランスを保ちつつ存在した。


 居場所の中には動かないのに動く不思議なものもあった。

 居場所に喰らいつき居場所自体から力を奪い存在続けた。

 珍しかったけど、それも他の動くもの同様、

 やがて朽ち果て居場所の糧になっていった。


 対を成すのは『動かないもの』

 動くものが形を整え作ったもの。

 居場所から作り出したり、

 動くものすら材料とした。


 動かないものは動くものには便利だが、

 居場所自体には悪いものがほとんどだ。

 動かないもので溢れた居場所の先には、

 殆どの場合動くものはいずれなくなる。

 どれだけ待っても動くものは現れない。


 動くものが現れなくなった居場所の数はどんどんと増えていった。

 ある居場所は動くものも動かないものも見つからなくなっていた。

 ある居場所は居場所それ自体がボロボロになって朽ち果てていた。

 そんな居場所が多くなったせいか、二人に見つかりまた怒られた。


 二人は私が作った居場所を監視し始めた。

 時には動くものへ施し、指示を出したり、

 時には動くものを罰し、居場所へと戻す。

 そんな二人はものすごく楽しそうだった。


 でも……


 二人の上機嫌に反し相克し合うかのように、

 動くものの中には泣き叫ぶものもいたんだ。


 その声は私の身を焦がしていった。

 私はその痛みに耐えられなかった。


 気が付けば私は動くものにしか興味を持たなくなっていた。


 動くものが喜んでいると温かくなった。

 動くものが怒っていると苦しくなった。

 動くものが泣いていると冷たくなった。

 動くものが笑っていると嬉しくなった。


 どんなに嫌なことを減らしても、

 どんどん嫌なことは増えていく。

 どんなに良いことを増やしても、

 どんどん良いことは減っていく。


 頑張ってもその場しのぎでしかなかったんだ。

 頑張っても結局僕には何もできなかったんだ。


 自分で作った居場所でさえ、変えることは出来なかったんだ。


 私は自分が嫌になった。

 嫌になったから逃げた。


 居場所から目を背け耳をふさぐ。

 二人から距離を置き姿を暗ます。


 どれくらいたったのだろうか。


 そう遠くない居場所から胸を締め付けるような痛みが届いた。

 今までにはない初めての体験。

 次第に苦しくなり無視することは出来なくなった。


 その居場所に近づけば近づくほど痛みは強くなる。

 その居場所に意識を集中するほど身体は寒気だつ。

 その居場所では動くもの達の救いを求める声で溢れていた。


 声の中心では闇を纏うものを手伝うものがいるが、

 それに相対して光り輝くものを手伝うものもいる。

 同様な対立図がまばらに見えるが、大半は壊れた動くものだった。

 そして不思議なことに壊れた動くものは居場所の糧とならず、

 一つの意思に従って光り輝くものを手伝うもの達を襲い始めた。


 気がつけば私は泣き叫んでいた。

 何するでもなくただ眺めながら。

 気がつけば光と闇が間近にいた。

 心寂しそうに私を見つめながら。


 光り輝くものは言う。

 このもの達は純粋じゃないから争うのだと。

 闇を纏うものは言う。

 このもの達は輝きを知ったから争うのだと。

 足元では動くものが強く訴える。

 大切な仲間を助ける力が欲しいと。

 大切な仲間を守れる力が欲しいと。

 大切な仲間を救える力が欲しいと。


 動くものの声を聴くと同時に身体は動いた。


 そうだったのだ。

 私も助けたかったのだ。

 遠ざけられたものたちを。

 私も守りたかったのだ。

 このものたちの居場所を。

 私も救いたかったのだ。

 私たちの滅びる運命から。


 光と闇の制止を振り切り、強く訴えたものたちの声に応える。

 もっとも光り輝くものには知識を形にする力を与えた。

 もっとも闇を纏うものには全てを受容れる器を与えた。

 光と闇が混ざりしものには思念を知らせる法を与えた。


 与え終わった後、私の身体はこの居場所の糧となっていくのが分かった。

 後ろに付き従う光り輝くものと闇を纏うものは声を荒げる。

 闇を纏うものは霧散する私の身体をとり繕う。

 光り輝くものは私の仮初から多様に生み出す。

 多様に生み出されたもの達は確かに私だった。

 だけど生み出された()()()は動くものだった。


 憤りをあらわにする光り輝くものに微笑む。

 苦痛を耐え忍ぶ闇を纏うものに頷きを返す。

 光と闇にいつまでも見守っていると告げた。


 吹っ切れたかのように、私が動くものに与えたものを光と闇が補完する。

 その光景を薄れゆく意識の中で私は眺める。

 初めて光と闇が私に対して真摯に対応した。

 そのことがとても、私には嬉しかった。

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