表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

放送当初は色々言われていたけど、シズさんが可愛いから転スラ大勝利!! 〜〜目指せ、次の書籍化作家は君だ!〜〜

 ニナ=ロウ界。


 そこは異なる多くの種族の者達が、あらゆる次元を併合し星々を開拓しながら生存領域を広げる神秘の世界。


 これは、そんなニナ=ロウ界に存在する一つの惑星『ザナドース』を舞台にした少年達の物語である――!!









 ~~ハツチュー村~~


 のどかな景色が辺り一面に広がるハツチュー村。


 そこから少し外れた場所にある丘の上で一人の少年が葉っぱを咥えて寝転がりながら、自身の眼前に広がる青空を見つめていた。


 彼の名前は、ケリー。


 特に主要な産業はないモノの人々が平穏に暮らすハツチュー村で、平々凡々な人生を歩むごく普通の少年であった。


 そんなケリーだったが、口に葉っぱを咥えて青空を眺めながら年不相応に物憂げな表情を浮かべている。


 ……一体、どうしたというのだろうか?


 彼は誰に言うでもなく、一人静かに呟く。


「あぁ、本当に暇だな~……村に山賊とか、テンプレなろう主人公がやって来てくんねぇかな~……」


 山賊とテンプレなろう主人公。


 両者は現在、この世界で最も熱い!!と話題を独占している伝説的存在である――!!





 きっかけは、一人の異邦人によるモノだった。


 彼は”チキュー”という世界にある”二ホン”という国から訪れた転移者だったのだが、彼がこの世界に持ち込んだ『小説家になろう』という文化が爆発的な人気を呼び、瞬く間に世界レベルに伝播していったのだ――!!


 この爆発的なブームの影響によるものなのか、現在の『小説家になろう』内で大人気のジャンルである山賊小説や異世界テンプレ作品などがこの世界の人々の間で持て囃された結果、地球からやってきた異世界人という存在は、他の世界以上に熱烈に迎え入れられるようになり、彼ら以上に人気を独占する”山賊”という存在は『全世界の人々がなりたい職業:第一位』という不動の地位を築き上げるまでに至ったのである。


 『小説家になろう』の人気を重視するようになった各国の首脳陣の反応は様々であった。


 それまでの宗教を廃し、なろう文化を国教とする国。


 異世界転移者・転生者を積極的に登用し国の文明水準を引き上げ、『凄い実力を持っているけど、ひっそりと田舎でスローライフを送りたい……』とか『自分の好きな事が出来ればそれで良いんで、面倒な事はあんまりしたくない!』といった異世界人に不足しがちな野心や熱意を埋める形で、金や己の欲望のためなら無限大ともいえるバイタリティを発揮する山賊達を用いて国力の増強に励む国。


 そして、国の上層部の面々が純粋になろう文化が好きになったために、”二ホン”と交信できるように通信魔法技術の開発に全力を注いだ結果、リアルタイムで『小説家になろう』や深夜アニメを楽しめるようになった国。


 ケリー達の暮らす村は最後の国に該当しており、その恩恵によってハツチュー村の人々は田舎の村でありながら、半端な他国の貴族や商人などよりもなろう情勢に詳しい知識を有するまでになっていた。


「……本当に退屈すぎてつまんないよな~。この際山賊じゃなくても良いから、テンプレなろう主人公が村に来て劇的に村を発展させてくれないかな~。……そしたら、村の文明水準は飛躍的に上昇するし、俺達も『主人公様、スゲー!!』って持て囃す役として、人生という物語の舞台に一瞬でも上がれるかもしれないしな~……」


 などとケリーが益体もない事を考えていた――そのときである!!


「お~い、ケリー!……た、大変な事になったぞ!!」


 丘の向こうから、同じハツチュー村の幼馴染である少年:トムが息を切らせながらやってきた。


 ケリーは、自身の背中に”おとこ”という文字を背負いながら、口に咥えた葉っぱを豪快に地面に吐き捨て、悠然と立ち上がりながらトムへと向き合う――!!


「へっ!その知らせを待っていたぜ、相棒!!……そんで?一体全体どうしたって言うんだ?」


「オ、オゥ……普段ならツッコむところかもしれないが、まさにその通りかもしれない!……ケリー、驚かずに聞いてくれ……!!」


「もったいぶるなよ。……で、何があったのさ?」


 ゴクリ……と唾を呑み込むケリー。


 釣られるようにトムも緊張した面持ちながら、意を決したかのように彼は衝撃的な事実を口にする――!!





「じ、実は……この村に”天蓋守護騎士団テンプレ・ナイツ”がやってきたんだ……!!」









「えっ!?”天蓋守護騎士団テンプレ・ナイツ”だって!?……ヤ、ヤ、ヤッタ~~~~~~ッ!!」


 その名前を聞いた瞬間、これまでの表情がまるで嘘であるかのように、少年らしい喜色を顔面一杯に浮かべて歓喜の声を上げるケリー。


 正直に言えば、”天蓋守護騎士団テンプレ・ナイツ”という存在など聞いた事もないし、どんなモノなのかも分からないが、名前の響きからするとテンプレなろう主人公なチキュー人と何らかの関係がある、と考えるのが自然であるだろう。


 こうしちゃいられない、と逸る気持ちを抑えきれない様子で、ケリーが勢いよく駆け出す!!


「ま、待ってくれよ!ケリ~~~!!」


「急げ、急げ!モタモタしていると、置いてっちゃうぞ!!」


 そんなやり取りをしながら、2人の少年は期待に胸を弾ませながら村へと引き返していく……!!









「……何がテンプレナイツだよ……トムのバカッ!」


「……うぅ、ゴメン……喜びのあまり、僕も聞き間違えたんだよ……」


「何をゴチャゴチャ言っている!!静かにしろ、貴様等!」


 村に戻って早々、ケリーとトムは村の大人達同様にこの村を訪れた者達によって組み伏せられていた。


 黒き甲冑に身を包んだその集団の名は、人呼んで”天蓋(アンチ・)討滅騎士団(テンプレナイツ)”。


 ケリー達が好むようなテンプレ作品を、この世界から駆逐しようと目論む武装勢力の総称である――!!


 そんな騎士達を率いていた若き黒騎士の青年が、ハツチュー村の面々に対して声を荒げる。





「貴様等のような惰弱な”天蓋を覆う意思テンプレ”に毒された者達によって、この世界は異世界から来た侵略者共の蹂躙を許すこととなったのだ!!……まさにその罪、万死に値する!!」


 彼こそが、”天蓋(アンチ・)討滅騎士団(テンプレナイツ)”において、『買わずのフヴァイン』という異名を誇る名うての実力者その人であった。


 フヴァインの尋常ならざる闘気を前に、村人達が恐れおののく――!!


「ヒエェ~~~~!!おっかねー!」


「怖い目に遭いたくないし、ここは大人しくしておこうか……?」


「あのフヴァインって人もイケメンだし、そうしまちょ!そうしまちょ♡」


 皆が戦々恐々とする中、フヴァインが更に信じられない言葉を口にする――!!


「おい、お前達。……この村の家にある醜悪なテンプレ作品や異界の低俗な文化を拡散する”テレビジョン”なる者を根こそぎ押収せよ!!」


『ハッ!承知いたしました、フヴァイン様!!』


 その命令を聞いて、盛大に村人達が発狂し出す――!!


「そ、そんな!あんまりだべ!!テンプレなろう作品っていう唯一の生き甲斐が奪われちまったら、オラ達はこの先の人生何を楽しみに生きていけば良いんだべか!?」


「そ、それだけじゃねぇ!!この村からリアルタイムでなろう界隈の状況を知る事が出来る優位性がなくなっちまったら、よその国の貴族達に対してオラ達が密かに持っていた優越感が失われた結果、何の産業も目玉もないこの村には惨めな劣等感しか残らなくなるべ!!」


「ゲ、ゲヘヘッ……!!黒騎士様、『村一番の器量良し』と言われているウチの娘を差し出しますから、何卒、何卒!オラのところのなろう作品やテレビ様だけは、見逃してくんろ!」


「あんれ~~~!!お、おっとう~!!」


 そんなハツチュー村の大人達の醜態を目の当たりしながら侮蔑した視線を向けていたフヴァインだったが、耐え切れないと言わんばかりに鋭く一喝する――!!


「えぇい、黙らんか!!……貴様ら、いつまで自分達が生きる世界の発展や娯楽を"地球人"の手に委ねるつもりなのだ!?……この世界からなろう文化がなくなるというのなら、ここに生きる我々自身の手で!地球人以上に優れた技術や娯楽を生み出していこうという気概を持つべきではないか!!」


 フヴァインが崇高な理想を語り聞かせるが、聴衆の目は疑念に満ちていた。


 それというのも無理はない。


 急激に勢力を伸ばす山賊達や地球人、並びに過激化する”天蓋(アンチ・)討滅騎士団(テンプレナイツ)”の動きに対して危機感を覚えたザナドース各国の首脳陣と、なろう文化発祥の地である日本の政府双方の判断のもと、現在の『"天蓋を覆う意思(テンプレ)"を取り巻く潮流を変える』という目的のために、これまでのテンプレとは違う”寝取られ”や”追放”といった作品を執筆するように水面下で働きかけていた。


 その甲斐あってか、穏健ながらもこれまでのテンプレ作品に飽きた者、アンチ・テンプレの動きを危険視する者、山賊が蔓延る世の中を良しとしない者、新しい流行の最先端を目指す者、ただ単純に異世界タグに埋もれたくない者……様々な信念や野心を秘めた有志のなろう作家達が集い、”寝取られ”や”追放”といった作品の執筆に日夜挑んではいるのだが、依然としてなろうの頂点に君臨する山賊ジャンルやかつてほどの勢いを失くしたはずの異世界テンプレの人気を打ち崩すまでには至っていない、というのが現状である。


 また、”天蓋(アンチ・)討滅騎士団(テンプレナイツ)”は山賊のような全世界で人気が爆発している分野に対する批判は及び腰なくせに、異世界チートハーレム無双でもない”寝取られ”や”追放”分野の作品にまでケチをつけてくるため、作者も読者も皆が新しい挑戦に踏み出すのを躊躇ためらうようになってしまっていたのだ。


 そういった事情からみな天蓋アンチ・討滅騎士団(テンプレナイツ)に思うところがあったのだが、ロクな戦闘経験もない村人が武装した黒騎士達に刃向かっても斬られるのみ。


 このままむざむざと、愛するなろう作品が焼き棄てらるのを眺めるだけなのか……と皆が諦めていた――そのときである!!





「そこまでにしておくんだな、”天蓋を討滅する誓い(アンチ・テンプレ)”の悪党ども!!……その外見以上に真っ黒なテメェらの腹の内、この俺が色んな科学的見地からマルっとお見通しだぜ!!」









 突然の乱入者に対して、激したようにフヴァインが叫ぶ――!!


「貴様、何奴(なにやつ)!?」


冷奴(ひややっこ)、ってな。……俺の名前はレイジ キサラギ。お前らが嫌ってやまない"テンプレなろう主人公"って奴さ……!!」









 レイジ キサラギ。


 彼こそが、数多の発明品をザナドースにもたらした功績で一躍名を馳せた地球からの転移勇者である――!!


 この世界の魔術師特有のローブを纏っているが、全身から滲み出る圧倒的な知性が、場にいた全ての者へと伝わる。


 レイジの名前を聞いた瞬間、村人も黒騎士の区別なく全員が一様に驚愕した表情を浮かべる――!!


「エ、エェッ!?レ、レイジ キサラギって、あのレイジかよ!?」


「"東の大賢者"と呼ばれるレイン・リードや"狂戦斧"ゴッドスをはじめとする頼れる仲間達、回復治療に長けた射精管理のお姉さん、魔術学園で知り合った勝ち気な優等生才女といったよりどりみどりのハーレムメンバーに囲まれた英雄が、まさか、こんな辺鄙な村に来てくれるなんて……!!めちゃすこ……♡」


「クッ……!どのような神奏加護(チート)を持っているかは知らぬが、あのレイジ キサラギが現れるとは……我らの命運も、最早これまでか……!!」


 レイジを前にして諦めかけた部下達に対して、ただ一人堂々とした様子のフヴァインが厳しい叱咤の声を上げる。


「貴様等、何を怯んでいる!?どれだけの能力を持っているかは知らんが、敵は所詮、落ち目の”異世界テンプレなろう主人公”ただ一人。……全員一丸となってかかれば、レイジ キサラギなど容易く捻りつぶせるわッ!!」


「ッ!?……ハッ、了解いたしました!!」


 フヴァインの檄によって、士気を取り戻した30名の黒騎士達が武器を構えながら、ジリジリ……とレイジの方へと詰め寄ってくる。


「……レイジ キサラギよ。異世界なろうテンプレ文化は昨今書籍化してもすぐに打ち切りになる事態が相次ぎ、何とか映像化してもなろう文化を知らない者達から『幼稚な現実逃避』と馬鹿にされる始末。……既に異世界なろうテンプレの命運は尽き、この世界どころかかつての”地球”とかいう故郷においてすら、貴様等のような者の居場所などありはしない。……諦めろ……!」


「然り。貴様の行く末は、最早冥府をおいて他になし!……何、直に”寝取られ”や”追放”といった者達も後を追わせてやるとしよう……!!」


 ゆえに、――諦めろ。


 そんな一言を皮切りに、レイジを包囲するように接近してくる黒騎士達から『諦めろ!!』の大合唱が響き渡る。


 ”天蓋を覆う意思テンプレ”を憎む強い敵意と、なろうのテンプレ界隈を取り巻く現状を言い当てた無視する事の出来ない非情な発言を前に、テンプレなろう文化をこよなく愛するハツチュー村の面々ですら暗い表情を浮かべていた。


 だが、当の本人であるレイジは黒騎士達の悪意を前にしても、明るい表情を浮かべながら悠然とした足取りで前へと一歩を踏み出す。


 そんなレイジの行動に対して、想定外と言わんばかりに黒騎士側の方が思わずたじろいでいた。


 いつしかレイジの威容を前にして、この場には静寂が満ちていた。


 皆が皆固唾をのんで事態を見守る中、レイジがおもむろに口を開く――!!





「ふっ、まさかテンプレなろう文化が”落ち目”とはな……。憎しみで視点を曇らせ判断を誤るあたり、語るに落ちたな。天蓋アンチ・討滅騎士団(テンプレナイツ)!――今のテメェらじゃ、”真実”に辿りつく事なんざ、一生出来やしねぇよ!!」









「な、何だとッ!?貴様、それは一体どういう意味だ!!」


「我等の判断が誤っている、だと……?子供ですら分かる現状の戦力差すら判断出来ぬのは、貴様の方であろうが!この痴れ者めッ……!!」


 天蓋アンチ・討滅騎士団(テンプレナイツ)が嘲笑をレイジへとぶつける。


 だが、その声は一様に擦れ震えていた。


 対するレイジはどこまでも、飄々とした様子で何の気なしに”真実”を口にする――!!





「へっ、そりゃそうだろう。……なんせ、実際の売上といった数字やら反響は知らないが、アニメの”転スラ”のシズさんが可愛かったのは紛れもない事実なんだからな……!!」









「ッ!?」


「ウ、ウワァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!」


 レイジの発言を受けて、一同の間に衝撃が走る――!!


 それまで曇った顔つきをしながら下へと俯いていたハツチュー村の面々が雷に打たれたかのようにハッ、と顔を上げ、対する天蓋アンチ・討滅騎士団(テンプレナイツ)の黒騎士達はレイジの発言があまりにも衝撃的すぎて、半数以上が後方へと盛大に吹き飛んでいた。


 何とか凌ぎ切った残りの黒騎士達は、冷静にレイジの発言を分析し始める。


「クッ……!!天蓋アンチ・討滅騎士団(テンプレナイツ)であるゆえに、原作は全く読んだことがなかったが……確かに、クールそうな外見の割に茶目っ気があって感情豊かなシズさんにギャップ萌えを感じたのは、紛れもない事実!!……や、やはり、この世界はテンプレなろう文化に埋め尽くされるより他に道はないのか……?」


「そして、地球から異世界に流れ着いてからの扱いや心情が描かれる回想は、涙なくしては見られない……!!この先、一体どうなるんやろね?」


 黒騎士の一人が、思春期特有の難しい年頃の弟と一緒に座敷のテレビで美少女アニメを見ていたときの姉のような口調で周囲の味方へと問いかける。


「……別に、そんなん知らんし……」と、素直ではない不愛想な弟を彷彿とさせる口調で、味方の黒騎士がその問いに答えていたが、そんな彼らの態度に業を煮やしたフヴァインが激しく檄の声を飛ばす―!!


「貴様等、そんな事で怖気づいてどうする!?……さっさと、一網打尽いちもうだじん殲滅陣せんめつじんを用いて奴を仕留めろッ!!」


 そう命令を行うモノの、誰一人として動かない――いや、動けなかった。


 黒騎士達は皆レイジが放った一言から、自分達と彼との間に存在する彼我の戦力差を感じ取っていたからだ。


 天蓋アンチ・討滅騎士団(テンプレナイツ)の大半が戦意を喪失する中、レイジが包囲の中を悠然と歩きながら、この集団の指揮官であるフヴァインへと近づいていく。


「さて、残るはお前さんただ一人だが……俺は山賊とやらじゃないんだ。逃げるのなら命までは取らないが、どうするね?」


 絶対的な戦力差があったにも関わらず、それをたった一言で覆し、ついには敵の指揮官であるフヴァインのもとへと到達してみせた転移勇者:レイジ キサラギ。


 そんな彼の後姿を見ながら、ケリーはただひたすらに驚嘆していた。


(ス、スゲー!!……確かに俺も最近は異世界勇者よりも山賊の方がヤバイ、って認識だったけど……まさか、異世界なろうテンプレ主人公がこんなに強いだなんて、夢にも思わなかったぜ!!)


 対するフヴァインは、焦りの表情を浮かべながらも懐から何かを取り出そうとしていた……。


「クッ……どうやら、これを使用するときが来たようだな!!」


 フヴァインが手にしていたのは、禍々しい光沢を放つ結晶らしきモノだった。


 見る者の魂ごと取り込むような妖しげな輝きを放ちながら、それでいてこの世界に生きる全ての生命を滅ぼし尽くす意思のようなモノを、ケリーはその結晶から感じ取っていた。


(何だ……?レイジは圧倒的な"神奏加護(チート)"を保有しているはずだから、今さらアイツが何をしたところで負けるはずがないのに……)


 それでも、フヴァインにあの結晶を使用させてはいけない、とケリーの中で加速度的に生存本能が危機を告げる。


 訳が分からぬままに、考えるよりも先にケリーが叫ぼうとした――次の瞬間!!


「ッ!?……も、申し訳ありません!陛下!!……し、しかし私は天蓋アンチ・討滅騎士団(テンプレナイツ)を担う者として……ハッ、ハッ!!承知いたしました……!!」


 突如、虚空に向かって会話らしきモノを始めるフヴァイン。


 気でも触れたのか、と村人達が事態を見守るなか、やり取りを終えたらしいフヴァインが忌々しそうな目付きで、レイジと村人達を睨みつける。


「フンッ!撤退命令が出たため、今回はこれで引き上げてやる。……だが、これで終わったと思うなよ!ハツチュー村の者共!……そして、レイジ キサラギ!!」


 そんな捨て台詞を吐きながら、部下を引き連れてフヴァインが村を後にしていく。


 呆気に取られていたハツチュー村の住人達だったが、事態をようやく理解すると、演技などではない心からの歓声を持ってレイジを称え始める――!!


「ス、スゲー!!まさか、神奏加護(チート)を使わずに無傷で天蓋アンチ・討滅騎士団(テンプレナイツ)の連中を退けるなんて……!レイジは本物の英雄だ!!」


「これで明日からも、仕事を早退してテンプレなろう作品を読み漁る日々を過ごせるぞ〜〜〜!!」


「グヘヘッ……!レイジ様、良ければ『村一番の器量良し』と評判のウチの娘をもらってやってくんねぇべか?」


「あんれま!おっ父は気が早いべよ!!……で、でも、ワダスもレイジさんが相手なら……♡」


「よ〜し!!今日はワシの村長権限を最大限に使って、村をあげた盛大な宴を開催するぞ!!……要チェキ♡」


『要チェキ♡』


 一丸となったハツチュー村の者達によって、村の無事とレイジの圧倒的な勝利を祝う宴が盛大に執り行われていく――。





 こうして、楽しい時間はあっという間に過ぎていった。








 あれから数日後。


 レイジの指揮のもと、僅かな日にちの間に村は爆発的な発展を遂げ、今や要塞都市が如き様相を呈していた。


 この様子ならば、例え再び天蓋アンチ・討滅騎士団(テンプレナイツ)が襲撃しにきたとしても、易々と退けられる事だろう。


 そんな村の様子を見て安心したらしいレイジは村の者達に惜しまれながら、この数日で男女の仲になったことによりすっかり垢抜けた村一番の器量良しの娘:キャシーナを連れてハツチュー村を後にしようとしていた。


 村人達と一通り別れの挨拶を済ませ、新たなハーレム要員となったキャシーナと腕を組んでいるレイジに、ケリーがおずおずと話しかける。


「……なぁ、本当にもうこの村を出発するのか?」


 もう少しゆっくりしてけば、良いんじゃないか。


 言外にそんな意味を込めたケリーの発言だったが、レイジは首を横に振ってから、遠くを見据える。


天蓋アンチ・討滅騎士団(テンプレナイツ)には、あのフヴァイン以外にも、『模倣のパクリアス』や『道徳に佇む者:モラリアル』といった凶悪な連中が名を連ねている。……そいつらを放置したままにしておくわけにもいくまいよ」


 特に、とレイジは言葉を続ける。

 

「『罵詈荘厳なる荊:ネガキャンサー』の悪質な振る舞いは、地球から来た人間として見過ごす事は出来ない。……奴は俺達のような"余所者"だけじゃなく、その周囲の連中まで巻き込むような卑劣な手段を平気で使いやがる。……これ以上犠牲が増える前に、早急に何とかしないとな……!!」


 "罵詈荘厳なる荊:ネガキャンサー"。


 天蓋アンチ・討滅騎士団(テンプレナイツ)に属するこの黒騎士は、近年問題になっている地球からの転生者や転移者に対する誹謗中傷を拡散している元凶的人物であった。


 ネガキャンサーは、『異世界人はこの世界の資源などもロクに考慮せずに、自身の自己顕示欲のために開発を推し進めて環境を破壊する最悪の人格破綻者』や『地球から来た異世界人と結婚する獣人はみな奴隷階級であり、その子供は野卑たる侵略者が卑しい奴隷を相手に産ませた忌まわしき存在』といった風説の流布などを果敢に行い、このザナドースにおいて異世界人本人だけでなく、その周囲の人物をも迫害されるように仕向けてきた。


 地球から来訪し多くの仲間達に支えられたレイジ キサラギという人間にとって、ネガキャンサーという黒騎士の卑劣な振る舞いなど容認出来るはずもなく、ケリーとしてもそんな"テンプレなろう文化"を愛するからこそ、レイジを引き留める言葉などあるはずがなかった。


 真剣な眼差しながらも、これまでと同じように飄々とした口調でレイジがケリーに語りかける。


「それにフヴァインが口にしていた"陛下"って奴が何者なのか調べるためにも、先を急がなきゃいけねぇ。……俺はこの場所から旅立つが、今のこのハツチュー村のみんなの力があれば大丈夫だ!……ケリー、この村の未来はお前達がしっかりと守り抜くんだぜ?」


 そう口にすると、颯爽と次の目的地に向けて歩き出すレイジ。


 その去り行く背中に向けて、ケリーは必死に問いかける――!!


「レイジ!!……俺達、またどこかで出会えるかな!?」


 そんなケリーの問いかけに対して、レイジは一度だけ振り替えると――心からの屈託のない笑顔で答える。





「あぁ、もちろん出会えるさ!……お前やこの世界の人々が”天蓋を覆う意思テンプレ”を愛する限り……!!」





 そのように快活に答えながら。


 吹き荒れた一陣の春風のように、颯爽と異世界からの来訪者はケリーの前を過ぎ去って行った――。









 〜〜それから、さらに1ヶ月後〜〜


 あの日と同じように、ケリーは村から少し離れた丘の上で葉っぱを咥えながら、物思いにふけっていた。


「あ〜……レイジのおかげで村は急速に発展して便利になったけど……今度は爆発的に暇だわな〜……」


 ケリーが退屈すぎて、欠伸を噛み殺していた――そのときである!!


「お〜い、大変だケリー!!……な、な、なんと!ウチの村に、あの大人気山賊集団:"山猫BOYS"が略奪しにきたんだってよ!」


 村の方から走り込んできたトムからの急な知らせ。


 それを聞いたケリーは、自身の背中に”(おとこ)”という文字を背負いながら、口に咥えた葉っぱを豪快に地面に吐き捨て、悠然と立ち上がりながらトムへと向き合う――!!


「何ッ!?"山猫BOYS"と言えば、伝説的山賊集団の"HEAPS(ヒープズ)"程ではないにしろ、全国レベルで有名な山賊のはず……それが、何でハツチュー村なんかに?」


「何でも、この1ヶ月近くで急速に発展したこの村に目星をつけて、早速襲撃しにきたんだって。今ちょうど村の中央広場で略奪に向けた挨拶をしてるところらしいよ?」


「ッ!?マジか!!……流石、プロの山賊は情報が早いな〜。……よし、こうしちゃいられねぇ!早速、生の"山猫BOYS"の面を拝みに行くぞ!!」


「ま、待ってくれよ、ケリ〜!」


 そんなやり取りをしながら、二人は颯爽と村の方へと引き返していく――!!









 村の中央広場で陣取るように略奪挨拶をしていたのは、山賊風の出で立ちに身を包む、猫耳を生やした美形の首領らしき青年だった。


 彼の回りには、同じような年頃とビジュアルを誇る部下らしき者達が60人ほど闘志を剥き出しで控えており、このハツチュー村の略奪に対する意気込みの強さが窺えた。


 そんな彼等を率いる青年――首領のカズヤは、マイクを手に強く語り始める――!!





「みんな、今日まで俺達に奪われるために生きてきてくれて、本当にありがとう!!……俺達もお前らの気持ちに負けないくらい、本気で根こそぎ略奪しに行くつもりだから、後悔なんかすんじゃねぇぞ……!!」


 カズヤの流し目を受けて、村の女性達が一斉に沸き立つ。


 村の男達は、『どれほどの実力なのか……お手並み拝見!』といった表情で様子見に徹するつもりのようだ。


 かくして晴天のもと、大人気山賊集団"山猫BOYS"による略奪劇の幕が開く――!!









 そこからの略奪は怒濤の展開であった。


 瞬く間に、レイジの手腕によって要塞都市と化したはずのハツチュー村の迎撃システムは、"山猫BOYS"の圧倒的な戦闘力を前に完膚なきまでに蹂躙され尽くし、本物の業火を上回るくらいに激しい"BE-POP"な演奏の数々が村人達の魂を焼き討ちし尽くす。


 そして、皆のテンションが最高潮に達したところで、村ごと巻き込んだ略奪&凌辱に見せかけた純愛劇が盛大に繰り広げられていく――!!









 レイジを送り出したとき以上の歓待を受けながら、彼とは比較にならないくらいの村の美女達を連れ去る形で、山猫BOYSが颯爽と立ち去っていく。


 彼らの荷台には女性達だけでなく、村で発明された最新設備や装備・食料などや日用品に至るまで、宣言通り根こそぎ略奪された品々がゴッソリと詰め込まれていた。


 そんな山猫BOYSを他の村人達と見送りながら、確かな充足感で満ち足りた様子のケリーとトムが、今回の略奪についての感想を語り合う。


「いや〜!まさか何の比喩でもなく、今年の冬を越すための備蓄や種籾に至るまで容赦なく奪い取っていくとは!……さすが、本場の山賊集団:"山猫BOYS"。そこいらのチンケな野盗とは比べ物にならないぜ!!」


「本当、本当!それに、旦那さんの目の前で奥さんや娘さんとの間に新しい生命を宿す行為を始めるとか、やっぱりスケールが違うよね!……ただ、個人的に意外だったのは、山賊って集団で酒池肉輪姦劇を繰り広げるモノ、っていう先入観があったんだけど、"山猫BOYS"って大所帯の割りにみんな結構独占欲強かったんだな」


「あっ、それは俺も思った。……でも、単なる凌辱とかで終わらせないそういう山賊としての姿勢、みたいなモンが、あのカズヤとタクミの熱唱とかに上手く繋がってるんじゃねぇかな?と俺は思うぜ!」


 そんな山賊談義に花を咲かせている間に、気づけば日はとうに暮れ始めていた。


 トムは親友であるケリーに、今後の事を尋ねる。


「とは言っても、盛大に略奪されまくったから、この村も今年は流石にキツいかもな〜……。ケリーはこれからどうする?やっぱりギルドとかで働き始める?」


 そんなトムに対して、ケリーは首を横に振りながら、強い意思を秘めた眼差しで答える――!!





「いや、俺はギルドで働いたりはしない。……俺は、今回の経験を活かして、本物の"なろう作家"になってみせる――!!」





「エ、エェッ!?……なろう作家だって?本気なのか、ケリー!?」


 驚愕の声を上げるトムに対して、ケリーが自信満々で答える。


「あぁ、嘘偽りなく俺は本気だぜ!……この短期間で俺達は『レイジ キサラギ』と『山猫BOYS』っていうスゲー奴らと立て続けに出会う事が出来たんだ!!……この経験を活かさない手はねぇぜ!」


「お、落ち着きなよ、ケリー!……確かに彼らは名うての転移勇者と山賊集団だ。それは間違いない。だけど、この世界には"小説家になろう"に投稿するためのシステムがまだ確立されてないんだ……!!ケリーがどれだけ頑張ったとこらで、チキューにある"ニホン"という国でアカウントを作らない限り、"なろう作家"にはなれないんだよ〜〜〜〜ッ!!」


 例えどれほどの熱意や才能があろうとも、世界観を隔てる物理的な壁がケリーの夢の前に立ちはだかっている。


 その事実を前に悲嘆に暮れるトムだったが、当の本人であるケリーは表情を曇らせるどころか、俄然やる気が出た!と言わんばかりに希望と躍動感に満ちた顔色をしていた。


「確かに普通だったら、トムの言う通りにそこで諦めていたかもしれない。でも俺は、レイジがたった一人で黒騎士達を撃退したり、カズヤ達が最新鋭の迎撃システムを打ち破っている姿をこの目で見たんだ!……どんなに困難に思える事でも、挑み続ける限り、そこに"不可能"なんて文字はどこにもないんだ……!!」


「ッ!?……ケ、ケリー!!」


 ケリーの発言に感銘を受けたかのように、ハッ、とした表情で顔を上げるトム。


 見れば、ケリーは拳を上に掲げながら、天を見つめて力強く叫ぶ――!!





「待ってろよ、世界!!……次はこの俺が!夢の書籍化"なろう作家"になってみせる――!!」













 こうして、地球とは異なる世界の片隅で、"なろう作家"を志す新たなる綺羅星が誕生した。


 ケリーの努力と熱意が、どのような結実を果たすのか。


 その先のシナリオを描くペンは、彼自身の手に握られている――。





 〜〜fin〜〜

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 冒頭だけチラ見するつもりが、勢いに呑まれて読んでしまいました。妙な魅力があります。 テンプレ主人子は分かるのですが、山賊? 普通に略奪していきました……え?えぇ!? そして村長、お前……(…
[一言] なんか勢いに押し切られる形で、 読んでしまいました! すごかったです!
[良い点] アカ・テンさんに珍しくキレイな良い話だった…… ……うん。キレイな……キレイな? ……どうも感覚がマヒしてる気がする。 [気になる点] いつか見よう…… そう思ったきりのタイトルが増え…
2018/11/21 18:26 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ