4.二匹、眩ます
「うわあ」
太郎といち子が桶を覗くと、そこで村娘はのびていた。
あられもない姿で、白濁した液やなんやらにまみれており、さすがに哀れに思った二匹は、さえが気がつかぬ間に川でその身を濯いでやった。
「化けて替わってやっても、良かったのかもしれんなあ」
「そだな。あんまし役に立たんかったしな、この娘」
本人が聞いてないのを良いことに、好き勝手言い合う二匹。
ともあれ村を覆う暗雲は晴れ、朝日が東の山の端に顔を出している。
木々の露や田の水が白い光を受ける、きららかな夜明けとなった。
「さぁて、喰うか」
さえは畦のその辺に横たえ、太郎が懐より珠を取り出す。
此度は蝦蟇の臍から出てきた。
半ばで刀身の折れてしまった短刀を器用に使い、二つに割って、それぞれ口に放り込む。
「ん、ん」
「お、お」
身の内で一挙に膨れ上がる妖気に、悶える二匹。畦でうずくまっているうち、雨のやんだことに気づいた村人たちが表に出てきた。
すぐに誰かが畦道にいる者らに気づく。
鼻血を流す二匹もまた、集まりつつある人々に気づき、顔を見合わせ――にやりとした。
二匹は血まみれの手を取り合って畦に立つ。
長雨に当たり、すっかり濡れ鼠の二匹だが、朝日を背にしておれば、村人たちにはその姿がよく見えぬ。
死んだはずの娘を足元に横たえ、朝と夜の狭間に佇む影二つ。
何やら神々しいものに、思えた者さえあった。
二匹は、すぅ、と胸を膨らます。
途端、その身も一緒に膨らんだ。
朝日が昇り、白光が大地に伸びてゆくように、二匹の姿は龍となって天へ伸び上がる。
青き龍と赤き龍が、絡み合うように夜明けの空を舞う。
たまらず、村人どもは泥だまりに膝をついて拝み出す。
それに満足したかのように、やがて龍は西の山の端へ消えていった。
人々は日が昇りきるまで、西の空を見上げ誰も声すら発さなかった。
よってその背後を、狐狸の二匹がこっそり走り、米やら菜やらの蓄えを失敬していったことには、気づきもしないのであった。