98 太陽神の坊 8
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ラナンシェに報告のために戻らなければならず、おれは一度スペンザに戻った。
その際、ニドリナだけでなくシビリスも置いていく。
次の相手は死霊なのだとしたら……場合によって神官の奇跡が必要になるかもしれない。万に一つぐらいの可能性だが、なんとなくこいつにも働かせようという気になった。
アーゲンティルと顔合わせさせると、シビリスは震え上がったが老人はほうと呟くのみだった。
そんな二人を無視して執事に休む部屋を求めるニドリナも肝が据わっている。
おれは【飛行】でスペンザに戻った。
到着するとすぐにラナンシェに現状を報告し、呆れられる。
商会の会長がアーゲンティルであることは、なんとなく想像していたらしい。幼い頃は行商人である父の手伝いをしていたというラナンシェはそれなりに噂を聞いていたという。
大神官からの返答はまだなく、それ以外の動きもないということで、おれはラナンシェのところで風呂を借りてから外に出た。
続いて向かったのは冒険者ギルドだ。
受付を見るとテテフィは普通に仕事をしている。
よし、なにも起きていないな。
会長であるアーゲンティルとの和解はなったようなものだが、その命令が浸透するまでには時間がかかるだろう。
となるとまだまだ油断はできない。
ならば良しと思っていると、テテフィに見つかった。
軽く手を振ってそのまま去ろうとしていると、なんと受付を飛びだしておれの所にやって来た。
「あれはどういうことなの!?」
胸ぐらを掴まんばかりの勢いで迫られ、驚いた。
ばれているじゃないか。
なにをしていたイルヴァン。
「説明してもらいますからね。逃げないでよ!」
そこまで釘を刺されたらどうしようもない。
おれは終業時間までギルドの喫茶室でダラダラと過ごした。
終業時間が終わると、テテフィはおれの手を取ってまっすぐに冒険者の宿のおれの部屋へと入っていった。
おや、おれは自分の部屋番号をテテフィに教えていただろうか?
そんな素朴な疑問にも答えてくれそうにないぐらい、テテフィは怒っているようだった。
「こらっ、出てきなさい」
そう言ってテテフィが自分の影を蹴る。
やはり、ばれている。
「てへっ」
彼女の影から影獣が口を開き、イルヴァンがなにかを誤魔化すようにかわいい仕種で登場した。
「すいませんマスター。ばれてしまいました」
「……影獣の気配に気付くとか、やるなぁ」
とおれは感心した目でテテフィを見る。こいつに気配に気付いたのなんて、いまのとこラーナぐらいなんだが。
「違います! この吸血鬼が自分から出てきたんです!」
……うん、そんなことだろうなと思ってはいた。
「だって、知っている人だからいいかなって」
「よくないから、影獣ごと行かせたんだろうが」
「この人、お腹空いたから血を寄こせとか言うんですよ!」
「お前なぁ」
「いいじゃないですか、もう一回吸ってるんですから」
「だめに決まってるでしょ!」
「ちゃんと気持ちよくしてあげますから」
「なに言ってるんですか!」
「ちなみにわたし、自分で吸血症を治せるんですよ」
「そういう問題でもない!」
なんだか関係を迫るダメ男のようだと思ったところで、我が身を省みて少し言動には気をつけようと心に誓う。
「そんなことより、一体、なにがどうなっているの? いきなり捕まって牢屋に入れられたかと思ったら吸血鬼を押しつけてきたりして……」
「ああ、それは……」
しかたがないので全部を説明することにした。
奴隷売買の件で腹を立て、さらに太陽神の大神官が登場してきて絶望した表情になり、そしてセルビアーノ商会の話からファランツ王国の公爵に辿り着いたら顔を青くなった。
「なにをしてるんですか……」
「いやぁ……世の中って怖いよな」
何気なく釣りをしたらとんでもない大物が釣れたみたいな?
いや、おれは釣りってあんまりしたことないからわからないんだが。
「……もう、お願いだからあまり危ないことしないで」
「いや、冒険者って危ないことするのが仕事だろ?」
「あなたが冒険者の依頼でしてるのって、素材採取がほとんどよね?」
「そういえば、そうだな」
素材採取に危険がないわけではないが、すくなくとも暗殺者とか裏社会の人間に目を付けられたりはしない。
冒険者の依頼よりも危ないことが舞い込むってのは、確かにおかしなことかもしれない。
「……とはいえ、そんなことをルナークに言うのは無理な注文なのかもしれないわね」
「いやぁ……そう決め付けられると凹みそうになるんだが」
「それなら、いますぐ武器を捨てられる?」
「それは無理だ」
ラーナとの実力差を見せつけられたいま、それを埋めることがいまのおれの目標だ。
あまりにあっさりとおれが言うものだからテテフィは怒ったように眦を上げたものの、すぐに下げた。
「そうだろうと思った」
「お?」
怒られるかと少し身構えていたのに、肩透かしを食らってしまった。
「やられたらやり返すのもあなたらしいのかもしれないけど、忘れないで。あなたはちゃんと誰かを救える人だから。わたしをたすけてくれたみたいに」
「お、おお……」
「それなら、やり返すばっかりはダメよ」
「いや、ちゃんと人助けもしてるぞ? 今回だって奴隷にされそうだった冒険者を助けたし、これからその爺さんの依頼で孫娘を助けないといけないし」
「それならよかった」
にこりと微笑むテテフィはやはり美人だ。
その笑顔に引き込まれて、手を伸ばしたくなるのだが……ぐっとこらえる。
「なに?」
「いや、なんとなくタイミングを逃してるなと……」
今回もイルヴァンの目があるので手を出しづらい。
「二人一緒にします?」
それでも首を傾げていたテテフィだが、おれの気分を察したイルヴァンの提案で気付いてしまう。
顔を真っ赤にして怒ったテテフィが出ていくのを慌てて追いかけ、家まで送ることになるのだった。
もちろんちゃんと、イルヴァンには続けて護衛を命じている。
さて、テテフィを怒らせてしまったので一人寂しく夕食を済ませると、セルビアーノ会長の所に戻るべく空を行く。
……のだが、その前に残っていた伯爵の財産は全部もらっておく。
まぁ問題ないだろう。
なったらなったでそのときのことだと開き直り、全部いただいていった。
そんなことをしていたのでファランツ王国の公爵邸に戻ってきたのは朝になってしまった。
なんとか朝食の時間には間に合ったようで、おれはすぐに食堂に案内された。
「やぁ、戻ってきたな。それでいつ孫をたすけてくれるかね?」
気分が急いているのか、アーゲンティルは最初に会ったときに見せた余裕がない気がした。
「とりあえず、見ないことにはなにができるかもわからない」
空を飛んでいたせいで体が冷えている。温かいスープで体を癒しつつニドリナを見ると、彼女は顔を横に振った。隣のシビリスは変わらずいまにも死にそうな顔をしている。
「会わせてもらっていない」
おれがいない間にニドリナがある程度の情報収集をしてくれることを期待していたのだが、どうも孫娘には会わせてもらえなかったようだ。
「会いたければ命をかけてもらうしかない」
どういうことかとアーゲンティルを見ると、老人は渋い顔でそう答えた。
どうも孫娘の眠る部屋そのものが呪いの領域となってしまって、近づくことすらできなくなっているという。
なんだそりゃ? と思ったが、そういう面白い現象は体験してみる価値があるかもしれない。
そんなわけで朝食が終わると、及び腰のシビリスを引っ張って孫娘の部屋へとやって来た。
案内はアーゲンティルだが、彼はドアを開ける前におれたちに前を譲った。
「では、頼む」
そう言ったアーゲンティルに見守られ、おれはドアを開けた。
「ひっ!」
シビリスが悲鳴を上げる。
そこにあったのは無数の顔だった。
血の涙を流しながらぎょろりをおれたちを見る。
全てが違う顔なのだが、どこか共通点があるような気がした。
「なんだろうなこれ? 何かの一族か?」
「確かにそれっぽいな」
「なんでお前らそんなに冷静なんだよ!」
おれとニドリナがじっくりと顔の壁を観察しているとシビリスが涙目で叫ぶ。
なんでって言われても……な。
「……件の男は、その呪いを完成させるための自領の村を一つ滅ぼしたという話だ」
「なるほど……古い村ならどの家もそれなりに血が混じってたりするからな」
老人の説明で顔が似ている理由がはっきりした。
うちの村も古くからいる連中はそんな感じだった。やはり身近で婚姻を繰り返しているとどことなく似てくるのだろう。
「なるほどなぁ……」
と頷きつつ、不意打ち気味にシビリスの首根っこを掴んで顔の壁に突っ込んだ。
悲鳴を上げたシビリスは抵抗もなく壁の奥へと消えていったのだった。
「どうか、この部屋から孫娘をたすけだしてくれ」
老人の願いはシビリスの悲鳴でよく聞こえなかった。
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