表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
庶民勇者は廃棄されました  作者: ぎあまん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

95/265

95 太陽神の坊 5

ただいまアルファポリスの「第11回ファンタジー小説大賞」にエントリーしています。


よろしければ投票をお願いします。(2018/09)



「やぁ、これはどうも」


 という言葉とともに男たちは芸のない普通の登場をしてきた。


「もったいぶったんだから、もうちょっと面白い登場の仕方をしろよ。あるいはちょっと人とは違う格好をするとか」


 格好も革鎧を主体とした斥候スタイルの護衛どもに、幹部なのか交渉人なのか知らないが先頭に立つのは黒っぽい商人風。

 なんというか奇抜さがない。


「はっは……これは失礼」


 おれの言い様に商人風の男は不機嫌さを一瞬だけ覗かせ、すぐに笑顔で誤魔化した。

 どうも、ただの強がりと受け止められたようだ。


「しかし、私たちはあなたが思うような人間ではありません。交渉を生業としていましてね。彼らはただの護衛です」

「へぇ? で? こんな牢屋にいる男になんの交渉を持ちかけに来たんだ?」

「実は本日の午後、とある要人のご子息が行方不明になられましてね。どうも誘拐のようなのです」

「ほほう」

「ご子息がおられた部屋には犯人からの伝言が残されていまして、それが『交渉の余地はある』というものでした」

「へぇ……」

「なにか、ご存じですか?」

「知るわけがない。おれはずっとここにいたんだぜ」


 とわざとらしくガダルに同意を求めると、奴は脂汗の浮かんだ顔で固まった。

 どっちの答えを言ってもろくな未来が待っていないと思ったのだろう。


「なんなら牢番の連中に聞いてみるといい」

「ええ。聞いています。ですが、別にそれをするのはあなたでなくてもかまいませんよね?」

「はっはっはっ。こんな若造冒険者にどんなコネがあるっていうんだ?」

「……仲間が一人おられますよね? 噂では『彼ら』の仮面を被った斥候だとか」


 へぇ、知っているのか。


「『彼ら』ならばそういうことも可能でしょう。ずいぶんと腕利きをお仲間にしたようですね」

「……なんのことかわからんが。おれの仲間は私用で街を出てるし、あの仮面ならただの拾い物だ。恥ずかしがり屋で顔を隠したいんだ」


 とりあえず、おれの情報をちゃんと調べてくるぐらいに慎重だし、『彼ら』を知ってるってことは裏社会にも深く繋がっているってことだろう。

 ガダルの言っていたセルビアーノ商会とやらは、こいつがびびるぐらいには大きくて力のある組織のようだ。


「それで、ご子息はどこですかね?」

「知らんよ」

「そういう態度は困ります。私はなにもしませんが、私の依頼人はかなりご立腹ですから」

「ふうん。それはそれは……」

「……ご一緒に治安調査に行かれたお二人のこと、ご存じですか?」

「いや。知ってるのか?」

「私がなにか知っているわけがありません。ところで、冒険者ギルドの受付にきれいなアルビノの美女がいらっしゃいますよね? 一緒にこの街に流れて来たそうで。なんでも太陽神の聖女であったのに吸血鬼に攫われて噛まれてしまったとか。恐ろしくもかわいそうな話です。しかし、あれだけ美しければそんな不幸がそれっきりで終わるとは限らない」

「……ふうん」


 直接的には三人のことを言っただけだが、すでにセリとキファは確保していて、そしてテテフィにも同じ運命にしてやるぞと脅しているわけだ。


「なかなか怖いことを言うね」

「そうでしょうか? 私はただの世間話のつもりだったのですが、それを受け止める人の感性というものは難しいものです」

「そうだな。まったく、色んな人間がいるから面倒だよな。だけどな、おれは思うんだけど、だいたいの人間は他人を二種類に分けていると思うんだよ」

「ほう。それは?」

「支配できるか、どうかだ」

「ほほう」

「それで、あんたはおれを支配できると思っているのか?」

「それは、どうでしょうね」

「答えてくれよ。素直な言葉が聞けたら、おれも素直になれるかもしれない」


 微笑みとともにおれは頼む。

 交渉人はおれの真意を測れなくて顔をしかめている。空気の読めていない護衛たちだけがにやにやと笑っている。


「……あなたの論を活用すれば、交渉とは相手を支配して有利な条件を引き出すこととなります。ですから、私はあなたを支配できる」

「……そうか」

「ええ」

「残念、はずれだ」


 その瞬間、連中の足下で影獣が口を開ける。

 本当、影獣って便利。

 交渉人とその護衛は短い悲鳴を上げて口の中に収まった。


「なっなっなっ……」


 突然のことにガダルは声も出ていない。

 あいつの位置で影獣の姿は見えただろうか? 見えたとしても問題ないか。

 おれは小声で「二人の場所とテテフィの安否を聞き出しとけ。その後は喰ってよし」とイルヴァンに伝え、牢屋の壁に背中を預けて座った。


 牢番たちが悲鳴を聞きつけてやって来て交渉人たちがいないことに戸惑っていたが、おれがシラを切っているとその内諦めてしまった。

 あいつらにとっても、交渉人たちがここに来たことはなかったことにしたいのだろう。


 ただ、おれを見る目が気味悪いものとなり、そして青い顔で震え続けるガダルを同情の目で見るようになっていったのは納得いかない。


 全員を魔法で寝かせて待っているとイルヴァンからの返事が来た。

 テテフィは無事、セリとキファはすでに捕まっていることとその場所も判明した。


 さて……ではたすけに行くか。

 念のためにイルヴァンにはテテフィの護衛に付いてもらうことにした。影獣を二つ同時に呼ぶことになるが、うまくいった。

 イルヴァンを中に収めてからは一つしか使っていなかったのでどうなるかと思ったが、うまく使い分けられるようだ。


 以前にルニルを守るためにそうしたように、イルヴァン入りの影獣をテテフィの影に同化させるために向かわせ、もう一つにはシビリスを移してこちらで持っておく。


 セリたちが捕まっているのは、とある貴族の邸宅だった。

 ここもセルビアーノ商会とやらと関係しているのか。

 二人は邸宅の地下室にいた。

 捕まっているだけで、なにかをされた様子はない。


「あ、あんた! 捕まったんじゃなかったの?」

「捕まってるよ、いまもな。だからこれからおれはまた牢屋に戻らないといけないんだよ」

「なにそれ、どういうこと?」


 理解できないという顔の二人に、おれは逃げるつもりがないことを説明した。


「逃げたって追いかけられる心配をしないといけないからな。やるだけやるさ」


 無理して信じてもらうつもりもないのでそんな風に話し、それから二人に逃げる当てはあるのか尋ねる。

 あるというのでそのまま逃がせることにした。

 とりあえず捕まっていた場所には幻を置いておく。少しは時間稼ぎになってくれるだろう。


 後はことが収まるまで無事でいてくれることを願うばかりである。

 死んだら……結果的に仇は取ることになるだろう。


 貴族の方は放っておくことにした。ビクビクとした態度からして弱みを握られて利用されているだけだろう。


 大人しく牢屋に戻ると、魔法の眠りを解除して一眠りする。

 それから紋章の改良が可能か? ということを試行錯誤していると夕方に来客があった。


 ぞろりとした動きにくそうな法衣を着た、初老ほどの太陽神の神官だ。


「タラリリカ王国太陽神神殿大神官、ジンガリア・バイウッケンだ」


 牢番を伴って現われた神官はそう名乗った。

 なるほど、これがシビリスの父親か。


「交渉の余地があるそうだが?」

「さて……なんの話やら」


 こんなところで素直に話したら、それこそ誘拐を認めたことになる。

 そんなバカな真似はしない。


 シラを切るおれにジンガリアは渋い顔をした後、牢番たちを下がらせて二人きりになった。

 いや、ガダルがいるが……いない扱いで問題ないだろ。


「息子が無事であれば君を罪に問うことはしないと約束しよう」

「罪……とは?」

「罪は罪だ。息子を攫い、脅した」

「その息子が人攫いの手伝いをしていた罪とそれを闇に葬ろうとした罪は?」

「……そんなものは存在しない」

「そうか。それならおれはなにも知らない」

「君、いい加減にしたまえよ」

「…………」


 あほらしいので無言を貫くことにした。

 息子が死ねばどうなると思うとかいろいろと脅してきたが、知ったことではない。おれは口を閉ざしたままだ。

 交渉に関してはこの前の奴の方がうまかったかもしれない。


 ジンガリアはただ息子を返せの一点張りで聞く価値もない。

 おれが無視するものだから、渋面で固定していた顔が段々と赤くなっていく。

 怒鳴りだすのも近いなと思っていると、新しい客が来た。


「これはどういう状況なのですか?」


 その声には聞き覚えがあったが、まさかここで聞くことになるとは思わなかった。


「誰だね! いま、私が話をしているんだぞ!」


 ジンガリアが苛立たしげに叫ぶが、彼女はそんなことは無視して牢屋の前にまでやってきた。


「わたしはルナーク王子の名代として参りました。ラナンシェ・ワーンシーと申します。彼は王子の恩人として宮廷に招かれているのですが、はたして彼はどのような罪で投獄されているのでしょうか?」


 そう。

 そこにいるのは大要塞で出会ったあのいかん胸を持つ女戦士、ラナンシェだった。


よろしければ評価・ブックマーク登録をおねがいします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ