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庶民勇者は廃棄されました  作者: ぎあまん


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94 太陽神の坊 4

ただいまアルファポリスの「第11回ファンタジー小説大賞」にエントリーしています。


よろしければ投票をお願いします。(2018/09)



 太陽神ていうのは高いところから見下ろすのに慣れすぎて自分を完璧だと思っているんだろう。だから完璧な自分と比較するために、どこか足りない奴を好きになる。


 山賊を引き渡した翌日。

 なぜかおれが牢屋に入れられることになった。


「理由を聞いても?」


 冒険者の宿に押しかけてきた衛士にそう尋ねても、彼らは難しい顔をするだけだった。

 ははーん。

 それだけである程度は察することができた。


 シビリスは予想以上の繋がりを持っていたようだ。


「山賊の使いっ走りをやるようなバカに顎で使われるのかい?」

「いいから来い!」


 おれの言葉に腹を立てた衛士に背中を押され、おれはそのまま牢屋にまで連れて行かれた。


「で、なにがどうなってんだ?」


 と、おれは同室になったガダルに聞いた。


「あんたは喧嘩を売っちゃいけない相手に売ったのさ」


 にやにやと笑うガダルは、きっとおれがその笑みを怖れると思ったのだろう。

 だが、おれはガダルの臭い息が顔に当たるぐらいに近づき問いかける。


「誰だ?」

「…………」


 おれの態度にガダルは虚を突かれたのか黙ってしまった。


「なんだよ。名前も聞けないんじゃびびれないじゃないか」

「…………お前、なんなんだ?」

「おれが怖れるのはなんだ? 暴力か? 権力か? 金か? はっきりしろよ。口に出した脅しを呑み込むほど、お前は腰抜けなのか?」

「……セルビアーノ商会だ。それとタラリリカ王国太陽神殿の大神官」

「ふうん」


 なるほど。では、あのシビリスは大神官の息子というわけか。


 ふうん……太陽神の大神官の息子か。


「まったく。太陽神はおれが嫌いらしいな。あるいは雷と相性が悪いのか?」

「おい。なに言ってるんだ?」

「独り言だよ」

「おい、セルビアーノ商会だぞ、知らないのか?」

「知らんよ。人を捕まえて奴隷にして売るぐらいしか考えつかない低脳商会だろうが」

「なっ!」

「そんなことよりセリとキファの二人はどうしてる? その低脳商会が捕まえたのか?」

「そんなこと、おれが知るか!」

「うーん……この流れだと絶対捕まえてるよな。となると、どうするべきか……」

「なんだよ……おまえなに考えてるんだよ?」


 びびらないおれがそんなに不思議なのか、ガダルがうるさい。

 ていうか、牢屋に残ってるってことはお前は見捨てられたのだろうに、どうして最初にドヤ顔をしていたのか理由がわからない。


「殴られたら殴り返す。それでおあいこと笑顔で解決にならないなら殴り返されなくなるまで殴る。お前らのよくやるやり方じゃないか?」

「……なにを言ってるんだよ?」

「あんたに何度も言ってもしかたないよ。じゃあな」


 おれは立ち上がり、牢屋を開けた。

 すでに牢番からなにから……この牢屋にいる連中はガダル以外は寝かせているのだ。鍵は、ちょっと力を入れた。

 ガダルが出ないように衛士が持っていた剣を柵に差し込んで曲げておいた。その光景にガダルがまた悲鳴を上げるが、付き合ってやる気にもなれない。


「さて……まずは太陽神の神殿だな」


 地上に上がるとおれはその足で神殿に向かった。



††††††



 神殿の奥にある特別な客室に今日は一人の人物が泊まっていた。

 本来なら泊まる資格のない人間なのだが、親の威光のためにそうせざるを得ない。スペンザの太陽神神殿を預かる神殿長として頭の痛いことであるが、仕方がない。


 あれで奇跡を奪われていればまだ断る理由にもなったのだが、太陽神は彼への愛を途切れさせてはいない。

 それがどうしても信じられない。


 だが、彼が奇跡を使い、太陽神との信頼関係を証明してみせる以上、神殿長としては……。

 本当にこれでいいのか?

 神の正義は本当になされているのか?


 ……考えすぎるのはよそう。太陽はそこにあり、その輝きは神殿長に降り注いでいる。


 太陽の愛を無邪気に信じよ。

 それこそが教えの第一義なのだから。



 ……などと神殿長が苦悩しているかどうかは知らないが、難しい顔をして奥の部屋を見ていたのは確かだ。

 招かれざる客はあそこにいるのだろう。

【透過】を使って気配まで殺したおれを見つけるのはニドリナだって難しいだろう。


 部屋を開ける音も風の精霊を使えば消していられるし、ドアの開閉も幻を使えば閉じたままのようにしていられる。

 ただ、全てを魔法で解決しようとすれば、今度は魔力の動きが活発になってそちらでなにかを察する者もいる。


 まぁ、部屋の中にいる奴がそこまで慎重で技能が豊富な人間だとは思えないが。


 いたのはやはりシビリスだ。

 おれは風の精霊に部屋全体の遮音を命じ、【透過】を解除した。


「っ!」


 突然現われたおれに、部屋の中を落ち着かずにうろうろしていたシビリスはその場で膠着し顔を青くした。

 口をパクパクさせてなにかを言おうとしていたので機先を制する。


「はい、黙ろうか。いや、別に叫ぶなりなんなりしていいんだけどさ。全部無駄だから。でも、なんかおれだけうるさい思いをしないといけないのって、理不尽だよな」

「おっ! お前! お前!! なんで!?」

「はいはい。お前が権力持ったバカ坊ちゃんなのは理解したよ。だから戦い方を変えようと思ってね」

「なっ! なにを……言って!?」

「まぁいいや。必要なのはお前の命であって意思じゃないしな」

「なにを!」

「おれを巻き込んだのはお前だ。文句を言うな」


 おれは問答無用でシビリスの足下に影獣を出して放り込んだ。

 ほんと、便利すぎるな影獣。

 イルヴァンに食べないようにだけ釘を刺し、【睡眠】と【麻痺】もかけておく。


 さて、シビリスは確保したし。後はもう一工夫……あ、書くものがないな。まぁ、インクがなくても刻めばいいか。

 というわけで、剣で壁にざっくりと伝言を残すと、おれは神殿を出て牢屋に戻った。




「なんで戻ってくるんだよ!」


 というガダルの熱い歓迎を聞きながら牢屋を閉じた剣を元に戻し、牢屋に入ると中にいた連中の睡眠を解いた。


「脱獄とか、そんな法律を犯すようなことをするわけないじゃないか」


 おれの言葉にガダルは目を剥き、なにも言えないという様子だった。


「そういえば、もう一人はどうしたんだ?」


 いまさらだが、一緒に捕まえた山賊の頭がいない。


「……あいつなら、連れて行かれた」

「どこに?」

「知るかよ。喜んでなかったから、今頃は川にでも浮かんでるんじゃないのか」

「……ということは、なんとか商会の連中はスペンザにいるってことか」


 うーん。先にセリとキファの二人の安全を確認しておくべきだったか。

 しかし、奴隷にするつもりなら売るまでは無事だと思うんだけどな。


「そんなことより、お前は一体、どうするつもりなんだ?」

「まぁ、それはその内わかるだろうさ」


 気が付いた牢番たちがざわめいているが、おれはそれを無視して一眠りすることにした。

 とはいえ相変わらず浅い眠りを繰り返す生活習慣が抜けたわけではないので、すぐに目が覚めてしまった。


 しかたないので魔力増加の手段を模索することにする。


 エルフ族会議や主戦場でおれが使っていたのは、自分の体に魔力発生炉――古代人のダンジョンで見つけたあれだ――を打ち込むというものだ。


 実際、あれでおれの魔力はかなり上昇した。


 だが、ラーナの放つ魔力の量や質はそんなおれを凌駕した。

 あれを超えるためにどんな手段を用いるべきなのか……。


 試しに魔力発生炉を二つ以上おれの体に打ち込んでみたが、発生する魔力量が増加することはなかった。二つで共同して一定量の魔力を生成している感じだ。

 魔力発生炉そのものに、発生量の上限のようなものが設けられているのだろうか?


 となると紋章そのものを弄る方向でなにか考えないといけないのか。


 紋章を弄る……改変するなんてこと、できるのか?

 だが、試してみる価値はあるな。


「……なぁ、なんかさっきから気持ち悪いんだが」


 気が付くと寝てたはずのガダルが青い顔でそんなことを言っている。

 ああ、いかん。

 高濃度の魔力で魔力酔いが起きている……のか?


 あ、違う。


 空気に毒が混ざってるな、これ。

 各種毒に対する耐性が通常でも高くなっているからな。おれよりも早くガダルに回っているってことか。


【清浄】×十


 余っている魔力を使って周辺の空気をかなり広域に渡って正常化する。

 これで散布された毒が向こうになったわけで、仕掛けた奴は動揺するに違いない。


 さあて……なにが出てくるかな?


 毒の感じからしてひどい酩酊状態にするもののようだったから殺す気はなかったんだろう。

 ということは、攫って拳骨交渉とかしてくる気だったのかもしれない。


 牢番たちの気配が遠退いていることから、向こうとも話が通っているらしい。

 まったく……権力ってものが庶民の味方だったことってあるのかね、これ。


 そんなことをぼやきながら待っているとそいつらはようやく姿を見せた。


「遅い!」


 とりあえずそう怒鳴ると、そいつらは戸惑いを見せるのだった。


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