93 太陽神の坊 3
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洞窟は放置して砦へと向かう。
セリやキファがゴブリンの痕跡に気付いたおれを手放しで称賛してくる。
困ったことに本心からのもののようなので困る。
単純に照れる。
それに反して、男性陣の反応が悪い。
先を行くシビリスとガダルは小声でなにかを言い合うのみでこちらの会話に混ざろうとはしてこない。
「きっと、あなたに嫉妬してるのね。ガダルなんて斥候なのにゴブリンの痕跡を見つけられなかったんだから」
セリが嬉しそうに語るのが不思議だ。
「誰だって最初はあるもんさ」
「そうだけど。ガダルは初心者じゃないでしょ? 前にパーティを組んでたって言うんだし」
「斥候にもダンジョン専門とか野外専門とかがあるからな」
「へぇ……そうなんだ」
そんな風になぜか初心者講座になりつつある話をしながら山を登っていく。
木々の向こうから砦が見え隠れするようになって、シビリスが黙るようにと手信号を送ってきた。
今度はガダルが先に様子を見に行くようだ。
おれたちはそれを待ち、それからガダルが戻ってきてから再びシビルと二人が先頭になって進んでいく。
おれたちはその後に少し距離を置いて付いていく形で移動する。
砦が近づき、辺りにはかつて城壁だったらしき残骸が柱のように聳えて視界を遮る。
「わあっ!」
と、いきなりシビリスが叫ぶと二人とも姿が消えた。
「ちょっと、どうしたの!?」
「大丈夫!?」
キファとセリがおれがなにかを言うよりも早くその後を追う。
ザバッ!
そんな二人の足下から枯れ草を撒き散らしながら網が現れると、二人を包んで宙へと持ち上げた。
罠だ。
「あーあ」
おれとしては呆れるよりない。
「だから、初めての仲間は警戒しろって言っただろうに」
「そんなことより……た、たすけ……」
おれの言っている意味がわからないのだろう。網の中で二人は悶えている。
「まったく……」
と、おれが近づこうとしたところで、ようやくそいつらが姿を見せた。
おれを囲み、武器を向けてくる。
薄汚い格好をした男たち。
「山賊か?」
「違うな、商人だ」
にやにやとした笑顔で一人がそう言った。
「いまちょうど、商品を仕入れをしたばかりだ」
そう言ってゲハゲハと男たちが笑う。
「仕入れたって、この二人のことか?」
「そうよ。いい商売だろ?」
と、網に吊り上げられた二人を指差すと山賊の頭がまた笑う。
奴隷売買ってこの国だとどうなってんだろうな?
あんまりおおっぴらにやっている様子はないから禁じられてるか、制限が厳しいとかだと思うが。
このままだと、この二人はろくでもないところに売られてしまいそうだな。
「新米の女冒険者を騙して奴隷にするって商売か? なかなかあくどいなぁ」
「お前、なかなかの女を仲間にしてるんだってな? そいつを連れてきたら命は許してやるぜ」
「はっはっはっ、お前らにあの女が扱えるかよ」
「……おまえ、いまの状況わかってんのか?」
山賊たちはおれに向けて剣だけでなく弓も構えている。
しかしまぁ、だからどうした、だ。
「お前らこそ相手を見極める能力を磨いた方がいいぞ。いや、そんなものを磨けなかったからこんなところで臭い格好しないといけないのか」
「なんだと?」
「お前らの格好を見直してみろよ。商売がうまくいってる奴がする格好か?」
「てめぇ」
「お前らが奴隷商人なら、おれはお前らを売り払う仕事をするとしようか」
「やっちまえ!」
頭の号令で山賊たちが一気に来た。
おれは即座に黒号を抜き、切り払う。おれの動きに呆気にとられた山賊たちを瞬く間に薙ぎ払い、弓を構えていた連中は【蛇蝎】で貫き、逃げだそうとした連中には【飛針突】を食らわせる。
「まっ、とりあえずお前が生きてたらいいよな」
「なっ!」
山賊の頭だけは気絶で済ませ、持っていた縄で縛り付けた。
「……さて、お前たち。自分たちから出てこないともろとも殺すぞ?」
柱の向こうに隠れている二人に声をかけると、青ざめた顔のシビリスとガダルが出てきた。
「ま、待ってくれ!」
「おれたちも利用されていたんだ!」
「そういうのは役人相手にやってくれるか? とりあえず、大人しく縛られろ」
「くっ!」
説得が無理と判断したガダルが手に隠し持っていた笛を吹く。
耳に届く音はなかったが、代わりに獣じみた叫び声とともに木々の上からゴブリンたちが降ってきた。
洞窟に潜んでいた連中だろう。
どうやら、ガダルは魔物使いでもあったようだ。
しかし、まぁ……。
「それにはもう気付いてた」
【飛神突】
黒号から放たれた無数の針がゴブリンたちを襲い、着地する前に穴だらけになって絶命する。
「で?」
唖然とする二人に、おれはもう一度だけ問いかける。
「大人しく縄にかけられる気はあるか?」
奥の手が破られたガダルが顎が外れんばかりに驚いているのはなかなか見物だった。
やがて青を超えて白くなった顔でその場に座り込み、シビリスが慌てる。
「逃げたら殺す。縄にかけられる以外に命が残る道はない」
親切なおれの最後の警告でシビリスもその場に座り込んだ。
三人を縄にかけてようやくセリとキファを網から助け出す。
網の中で状況を見ていたのだろうが、二人まで青い顔をしているのがなんだか納得いかない。
「ここは感謝のキスぐらいもらえる場面だろう」
「あ、そ、そうね」
「うん、そうかも」
いまだに茫然自失なのか、あるいは本気で恐怖されているのか……できれば三つめの選択肢であって欲しいのだが、二人はおれの頬にそれぞれキスをしていった。
そんなこんなで縄にかけた三人を歩かせつつ、山を下りスペンザの街へ向かう。
セリたちには先へ行かせ衛士を呼んでもらうことにし、おれは三人を逃がさないようにゆるゆると進んだ。
「なぁ、おれを逃がさないか? そうすれば悪いようにはしないぞ」
シビリスが必死な顔でそんなことを言う。
「山賊の使いっ走りになにができるんだよ?」
「ぐっ……それは……」
「まぁ、なにか弱味を握られたのだろうが、そこら辺の釈明は役所でしてくれ。お前らに賞金以上の興味はないよ」
ゴブリンの討ち取り証明は確保したし、山賊の死体は衛士たちが確認に行くだろう。
ガダルはともかく、シビリスは山賊の仲間とは言い難い。
とはいえやはり興味がないので、さっさと賞金に変わってくれればそれでいい。
スペンザの城門が見え、こちらに近づいてくる衛士たちも確認できた。
おれはゆるゆると進みながら、ときおり抵抗する三人の尻を蹴るのだった。
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