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庶民勇者は廃棄されました  作者: ぎあまん


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87 世界を壊す茶番劇 2

ただいまアルファポリスの「第11回ファンタジー小説大賞」にエントリーしています。

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 あの女は!


 空から下りてきたダークエルフはユーリッヒの苦い記憶を刺激する。

 ユーリッヒの先代太陽聖剣を砕いた張本人だ。


 魔王が一刀のもとに斬り殺された異常な状況で、そのダークエルフはまったく動じることなく魔王を討ち取ったアストと話をしている。


 これは……これこそが魔族と繋がっている証拠ではないか。

 だが、そのアストは魔王ディザムニアを殺したのだぞ?

 しかも、話を信じるならばクウザンも討ち取ったというではないか。


「アスト!」


 わけもわからぬまま、ユーリッヒは叫んだ。


「貴様はなにを考えている!?」


 ユーリッヒの問いにアストはめんどうげな視線を投げかけてきた。


「あー……おまえってまだそこにいたの?」

「なんだと!?」

「動けるんだろ? 自分の足で帰れ」


 さきほどこちらの傷の具合を確かめていた時とは違う。


「それにいまの名前はルナークだ。いい加減間違えんな。じゃあな」

「貴様、ふざける……!」


 てきとうに話を切り上げようとするアストに腹を立て近づこうとしたのだが、それができなかった。


 ダークエルフの冷たい視線が突き刺さっていた。

【念動】だ。不可視の魔法の手がユーリッヒを掴み、そして持ち上げようとしている。逆らおうとはしているのだが、まるでできていない。


「弱者がいつまでも強者の会話に混ざろうとしないでくれるかしら?」


 ユーリッヒを冷たく突き放すその言葉。

 弱者?


「このおれを、弱者と!」

「弱者でしょう? では」

「うおおおおおおおおおおおお!!」


 ユーリッヒの抵抗は【念動】を小揺るぎさせることもできないまま、彼をクレーターの外へと追い出した。

 そしてそこでザルドゥルと合流し、彼は失意のまま大要塞へと向かうことになる。



 負け犬くんが飛んでいく姿というのは気持ちが良いものだ。

 おれはその光景に満足すると、ラーナに向き直る。


「で? なにをするんだ?」

「抑止力を演出しようと思うのよ」

「抑止力?」

「そう。悪樹王のせいで一部の魔族勢力がわたしの命令を無視しようとしているの」

「さっきの連中がそうだったのか? なら、魔王名乗ってた奴の首飛ばしたけど問題ないよな」

「もちろん。そうじゃなくても戦って死んだんだから問題ないわ」

「そりゃよかった」


 さほど心配をしていなかったが、それでも同じ魔族なだけにどんな関係性かもわからない。

 そう考えると、おれもまたラーナの期待を裏切る可能性があったわけだ。


 ふうむ……難しいものだよな。


「それで、なにすればいいんだ?」

「ああ、それは簡単。ちょっとここで腕試ししましょう」

「うん?」

「どう?」

「まぁ、いいけど……周りの被害とかは?」


 おれはいまだ退却をしていない魔族がいるのを確認して聞いた。


「気にしなくては良いわ。むしろ被害が大きい方がしばらく動かないでいようという気にさせるでしょ?」

「ああ……」


 だんだんと、ラーナのやりたいことがわかってきた。


「むちゃくちゃなことをやりたがるなぁ」

「あら? でもルナークも知りたくない?」

「なにを?」

「どっちが強いのか?」


 そう言ったときのラーナの笑顔におれはやられた。

 まったく、人を掌の上で好きに操ろうとはイイ性格をしている。


「おれのが強いに決まってるだろ?」

「なら、確かめてみましょう」

「おおよ。で、ルールは?」

「時間は日の出まで。大要塞は壊さない。意図的に他人に流れ弾を飛ばさない。装備は伝説級まで。武器防具のみ、護符系は不可」

「紋章は?」

「もちろん自由」

「よし」


 そういうことで、話は決まった。



†††††



「おい、おい……」

「うっ……」


 何度か呼びかけられたようだ。

 グアガラダインは意識の欠片が現実に触れた途端、一気に覚醒した。


「敵は!」

「落ち着け、お前の負けだ」


 慌てて立ち上がり周囲を見回すグアガラダインに、呆れた声がかけられる。

 そこには黒髪のエルフがいた。


「獣王陛下……」

「おう。やってくれたな」


 ここにいるはずのないエルフの姿にグアガラダインは後ろめたさに目を合わせられなかった。


「申しわけ……」

「ああ、冗談だ。悪樹王陛下が動くのなんてこっちは予想通りだったからな。巻き込まれたお前らは冷静さが足りなかったってだけだ。その代償もきっちりと払ったしな」

「は?」

「お前の部隊は全滅した」


 さらりと告げられた事実に、グアガラダインはさきほどの青年のことが頭に浮かんだ。

 他の勇者たちや戦士団にそれができたとは思えない。


「クウザンも死んだし、ディザムニアも逝ったぞ」

「なっ!」


 続いた言葉にはさすがに絶句せざるを得なかった。


「人類にも踏んじゃならない尾があったってことだ。見ろ」


 そう言われ、グアガラダインはアルヴァリエトリの示した場所を見た。

 教えられるまで気付かなかった。


 そこでは静かな戦いが行われていた。


 二人ともが刀を構えている。

 こんなにも張り詰めた空気にどうして気付かなかったのか。


 それは本当に静かな戦いなのだ。

 ただ構えているだけのようで、その実、目に見えない応酬が繰り返されている。


 その証拠に、二人の周囲だけ雨が降っていないではないか。

 いまだ降り続く土砂混じりの雨が二人の間でだけ降っていない。

 これはどういうことなのか? 目では追えないなにかを探ろうと聖霊を介して気で感じとる。


 それでわかったことにグアガラダインは愕然とした。


 二人の間にあるのは、なにものの存在も許さないかの如き非常識だ。

 目に見えないほどの無数の斬撃が繰り返されすぎて、その余波で雨粒が弾き飛ばされている。


 現実とは思えない現象にグアガラダインは唖然とするしかない。


 戦っている二人は誰だ?


 一人はグアガラダインを気絶させた青年だ。

 では、もう一人のダークエルフの女性は?


 いや……まさか……。


「……大魔王陛下なのですか?」

「ああ……そういえば、お前は初めて見るか。百年ほど前からエルフたちの前か、族長会議ぐらいにしか顔をお見せにならないようになったからな」


 初めて見る大魔王だが、まるで若いダークエルフにしか見えない。


「さて、悪いがのんびりしてる暇はないぞ。二人から武器が壊れるまでと言われているからな」

「……なんですと?」

「その間に大要塞まで退けということだ。守らなかった奴の命はない。言っておくぞ。おれだって死ぬからな。これ以上オーガ族を弱らせたくなかったら言うことは聞け」

「は……はっ!」


 アルヴァリエトリの真剣な顔にグアガラダインは素直に従うことにした。


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