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庶民勇者は廃棄されました  作者: ぎあまん


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80 風は暗所より 4

ただいまアルファポリスの「第11回ファンタジー小説大賞」にエントリーしています。

よろしければ投票をお願いします。(2018/09)


 オーガの魔太子グアガラダインはそこに立った。

 平均的な人間の男性よりも二回りは大きなその体は岩のような筋肉によって守られている。

 赤銅色の肌に額よりもやや上から伸びた雄々しい二本の角。そして伸びるに任せた黄金の髪がまるで猛獣の毛皮のように魔太子の全身を隠している。

 その手には巨体が持つに相応しいサイズの青龍偃月刀が握られている。


「…………」


 大要塞より塹壕帯に入る平地に立つグアガラダインは、夜に沈む主戦場を見つめる。警戒用の魔法球はまるで幽鬼のようだ。


「グアガラダイン」


 そんな彼に背後から声をかける者がいた。グアガラダインと比べれば立ち歩きを覚えたばかりの赤ん坊のような大きさの者が影のようにそこにいる。


「クウザン……か。お前も呼ばれたか?」

「ああ。悪樹王陛下の招聘だ」


 クウザンと呼ばれたのはゴブリンの魔太子だ。

 子供のゴブリンほどの大きさだが、ちゃんとした成人だ。


「やはり……この作戦は大魔王陛下に認められたものではないのか」

「あの方は穏健派よ」


 クウザンの言い方には吐き捨てる空気があった。

 それもそうだろうとグアガラダインもそれを責めようとは思わなかった。


「ラーナリングイン陛下は公平であろうとはしておられるが、我らの怨嗟を理解はしておらぬ……か?」

「それよ!」


 クウザンも大いに同調して頷く。


「ゴブリン、オーガ、コボルト、オーク……人類領に残った我ら魔族の同胞がどのような目にあっているか。それを知らぬはずもなかろうに、あの方は見て見ぬふりをされる!」

「そうだな」

「それに比べて悪樹王陛下の寛大さよ。我らの望みに応えようと智を働かせてくれる!」


(それはどうだろうか?)


 感激しているクウザンを見るグアガラダインの目は冷静だ。


 実際に兵士の質の向上や新戦術、新魔法の開発……兵力の充実に努めていたのはラーナリングインの方だ。

 悪樹王は戦いたがりであり、そのために策を労することはあるが、戦力の補充という意味では自身の森にある魔物を配下のトレントに与えるのみである。


 創成神が最初に作った世界樹が寿命を終えたとき、そこに残ったのが悪樹王だと言われている。

 腐敗を命とした神話の時代より存在する超生命体。魔太子でありながら魔王たちを超越する実力を持ち、大魔王と呼ばれるに至ったラーナリングインよりもはるかに謎多き神話時代の生き残り……それが悪樹王だ。


 はたして、魔族全体を考えた正しき考えとはどちらにあるのだろうか?


 とはいえ、すでにグアガラダインとオーガ部隊はこの地にいて作戦の発動を待っている。

 事ここに至ってしまえば、魔太子といえど一人の意思で、しかも思想的な理由で作戦が止まるはずもない。


 なにより実質的な意味では、今回の作戦が失敗すると思っていないのだ。


「人間ども……我らの蓄えたる力、とくと見るが良い」


 吐き捨てて影へと消えていくクウザンを見送り、グアガラダインは再び主戦場を見る。


 漂う警戒魔法の光は、やはり幽鬼にしか見えない。

 幽鬼たちは人間の魂を吸わんと、そこで舌なめずりして待ち構えているのだ、と。



†††††



 その夜、クリファは塹壕帯にいた。

 主戦場に投げ入れられた爆裂魔法が周囲に潜んでいた罠や魔法を焼き、警報が爆音を裂いて高らかに夜を揺らす。


 その音にクリファは表情を好戦的に崩して前線へと移動した。


「状況は?」

「オーガ部隊が主戦場に侵入。迎撃を開始していますが、防御魔法に阻まれています」


 すでに塹壕に潜んでいた戦士たちが迎撃のために魔法や矢を放っているが、それは多人数による合唱によって作られた防御魔法によって防がれている。


 アストは一人で攻撃魔法の雨を防いでいたが、それは一人では誰にも出来ないことかもしれないが、複数でかかればできないことはない。


 だがそれでも、複数でなければそれを実現できないこと、そしてアストが使ったのが知らない魔法であったことにクリファは苛立ちを感じ、そしてそれを噛み潰した。


 だが、主戦場に登った赤銅色の肌が多く露出した鎧を着、角を猛々しく誇張するオーガ部隊の中に異彩を放つ魔太子の姿を見、クリファの表情は再び緩む。


「相手は魔太子だ! 広域防御魔法展開。主戦場で迎撃するぞ」


 号令にザラン連邦戦士団は雄叫びで応え、クリファとともに塹壕を上がる。


 二つの集団を守る広域防御魔法は接触の際には火花をあげたものの、距離が縮まるや一つに繋がった。


 同時に二つの集団は雄叫びを上げ、衝突を開始する。

 オーガは接近戦に優れているが、かといって鍛えた人間の戦士が後れを取ったりはしない。

 クリファとともに戦うザラン連邦戦士団は、何度もオーガの部隊と戦っている。彼らの種族的な戦法もその癖も熟知している。


 周囲で行われる戦いを信じクリファは魔太子に向かった。


「久しぶりだなグアガラダイン!」

「相変わらず野卑な男だな。クリファ」


 優等生の仮面をかなぐり捨て戦闘本能を猛らせるクリファに、グアガラダインは呆れた声を投げかける。


「そっちこそ野獣みたいな姿しておいて冷めるようなことばっかり言ってんな!」


 青龍偃月刀を構えるグアガラダインに、剣に炎を纏わせたクリファが突っ込んでいく。


 長物を使うグアガラダインに超接近戦を演じることで武器の利点を封じようとするクリファだが、グアガラダインは柄を器用に使って冷静に対処する。


 連撃を弾かれ、最後には押し戻される際に柄で殴られたクリファは血の唾を吐き捨てる。


「ちっ! 相変わらずの達人様だな!」


【聖霊憑依】


 炎の聖霊をその身に呼び、クリファは全身に炎を纏う。


「ふむ……」


 それに応えてグアガラダインも聖霊をその身に降ろす。

 オーガの魔太子が憑依させた聖霊の属性は気。


 生命の根源に関わる属性である気の聖霊を喚んだグアガラダインは、全身に黄金色の光を帯び、クリファと衝突する。


 炎と気の衝突は迂闊に近くに移動していた両陣営の戦士を吹き飛ばし、さらに激しく武器をぶつけ合う。


 達人という言葉に相応しく、クリファの剣による速い猛攻をグアガラダインは長い青龍偃月刀で巧みに受け止める。

 反撃に転ずれば長大な武器の一振りは広範囲に及ぶ衝撃波を発生させ、周辺の戦士たちに被害が及ぶ。


 それはクリファにしてもそうだ。

 剣による速く細かな連撃でグアガラダインの動きを縛ったかと思えば、隙を突いて放つ火炎弾は火属性の遠距離射撃魔法の【火矢】やその上位である【剛火矢】よりもはるかに強力な一撃だ。

 さらに周囲に解き放った炎は自ら意思を持っているかの如くグアガラダインを包囲し、その行動範囲に制限を加えていく。

 それは配下の戦士たちの戦いから自分たちの戦場を遠退かせようとしていた。


「繊細のようで粗暴……そしてまた繊細さを見せる。それはお前の本質か、あるいは定められぬ未熟さか」

「黙れ! 今日こそお前を焼き払ってやる!」


 オーガの呟きに苛立ちを吐き捨て、クリファは聖霊に捧げた魔力を武器化させる。

 それに応え、グアガラダインも動く。


【聖霊剣現】


 お互いの武器に聖霊を移し、次なる一撃を放つ。


【炎轟聖剣】

【鬼気斬刃】


 同時に放たれた炎と気の刃はぶつかり合い、真紅と黄金の光が主戦場の夜を染める。


 二つのエネルギーが衝突を続けている中……しかし劇的な変化がクリファの背後で起きた。



 轟。



 一瞬。全ての音が消滅した。

 その勢いはクリファたちの周りに展開していた防御魔法を消滅させ、勇者と魔太子が生みだした聖霊の技さえもかき消した。


 その後に続くのは鼓膜を破らんばかりの轟音と衝撃波。声を上げることもできずに、クリファは衝撃波に飲まれて土砂と共に宙を舞う。


 それをグアガラダインはその場に立ったまま静かに見上げていた。


「なにが起きた!」


 クリファがようやく叫べたのは自らを埋めた土砂から脱してからだった。

 そして、そこにある光景になにも言えなくなった。


 打ち上げられた無数の【光明】がその光景を晒す。


 巨大なクレーターが塹壕帯を全て飲み込み、消し去ってしまっていたのだ。


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