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庶民勇者は廃棄されました  作者: ぎあまん


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77 風は暗所より 1

ただいまアルファポリスの「第11回ファンタジー小説大賞」にエントリーしています。

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 間違えていないから正解というわけにはいかないのがこの世界の難しい所というべきか。

 あるいは正解なんてないというべきなのか。

 あるいは正解だからといって楽な道ではないということか。


 素直に表に出た結果、おれはルニルと引き離され、大要塞の地下で鎖に繋がれることとなった。

 天井から伸びた鎖はおれの両腕を縛り、つま先立ちでギリギリ立てる高さで維持された。もちろん両足も鉄枷と鎖で固定されている。


 そして続く、肉を打つ音。


 ゴッゴッ! とか、ドガッ! とか、バキッ! とかそんな音だ。


 まったく、ご苦労なことだ。


「疲れた?」


 はぁはぁと荒い息を吐く拷問官? におれは首を傾げて尋ねてみた。上半身裸の筋肉ダルマはおれの質問に膝に手を当ててうな垂れていた顔を上げ、睨んでくる。


「いやぁ、ご苦労さんだね。まだやるのかい?」

「うるせぇ!」


 素手で殴るのに疲れたのか、拷問官は道具棚から棍棒をひっつかんでおれに振り下ろす。トゲツキの凶悪な棍棒はおれの胸に当たる。


 ゴッ! といういい音がして、棍棒が折れた。

 棍棒のトゲはおれの肌を傷つけることも出来なかった。


 紋章で防御を全開にしているからな。

 それは仕方がない。


 拷問官の絶望的な顔をおれは冷ややかに見下ろしつつ、おれはいつまで我慢するかなぁと考えていた。


 調子に乗った勇者の誰かがここに来たら人質にとるのも面白いよなと思っているのだが、警戒しているのか誰も来ない。


 まったくへたれどもめ。


 いや、賢い選択なんだけどな。


「てめぇ……いい加減にしろよ!」

「いや、それはこっちのセリフだと思うけどな?」


 折れた棍棒を投げ捨てて、拷問官が自棄気味に怒鳴りつけてくる。


「殴ってる方がキレるとかやめてくれよ。かっこわるいぞ」

「うるせぇよ!」


 折れた棍棒を投げつけ、拷問官が唾を飛ばして喚き散らす。


 こっちの方が殴られるより何万倍も嫌だな。


「無駄な抵抗続けてんじゃねぇよ! お前は人類の裏切者なんだよ!」

「そう思いたいのは勝手だけどな。人類がおれの味方をしてくれたわけでもないよな?」

「なぁっ!?」

「なんて驚き方だよ」


 おれはため息を吐き、拷問官に問いかけた。


「お前さんは、人類だからって特別扱いしてもらったかい?」

「あ、当たり前だろう! おれは人類を守る大要塞の戦士だぞ!」

「いや、それはあんたが努力した結果だろ? 別に人類が手放しであんたの味方をしてくれたわけじゃない。あんたが自分は人類の側にいると信じて努力したからここにいるんだ。違うか?」

「あ、ああ……」

「あんたが人類のために努力したから、人類はあんたを認めたんだ。つまり、すごいのはあんたなんだよ。わかるかい?」

「そ、そりゃ。おれはすごいぜ?」

「そんなすごいあんたを生んでくれた母ちゃんはもっとすごいと思わないか?」

「ああ、ママンはすげぇ人だ」


 筋肉ダルマのくせにママン呼びかよ。


「つまりあんたのママンの方が人類よりもすごいってことじゃないのか?」

「そ、そうだな!」

「だったらこんなところにいる場合じゃないだろ。あんたは人類よりもママンを守らなくちゃいけないんだ」

「……その通りだ。おれは大切なもののことを忘れちまっていたみたいだな」

「ああ。でも大丈夫。まだ間に合うさ」

「そう思うか?」

「ああ。あんたならできる!」

「ありがとう。勇気が持てたよ」

「ああ、行ってこい」

「ああ! 行って来……るかい!」


 ツッコミ代わりに木桶をぶつけてきやがった。


「お前はママンを裏切るっていうのか!」

「うるさいわ!」


 ちっ。

 暇潰しに口から出任せだけで洗脳ができるかと思ったが無理だったか。


「てめぇ……もう本当、覚悟しろよこの野郎」

「まさか……ママンの名にかける気か?」

「お前がママンって呼ぶんじゃねぇ!」

「おれは呼ばねぇよ。呼んでるのはお前だっての」

「うるせぇ!」


 こんな感じで拷問官と遊んでいた。

 しかし本当に、これはどうしたものかね?



†††††



 ルニルもまた捕まっていた。

 ただ、彼女がいる部屋は豪華な一室であったが。


「とんでもないことをしてくれたものだね」


 ルニルの対面に悠然と座っているのはザルドゥルだ。

 ファランツ王国の第三王子にして勇者の一人である彼は、硬い表情のルニルにその態度のまま語りかける。


「……とんでもないこと、とはなんでしょうか?」

「それはもちろん、魔族と接触したことだよ」


 空とぼけるルニルにザルドゥルは楽しそうに答える。

 ルニルとしては言質を取らせまいという行為なのだが、ザルドゥルはそれら全てが無駄であると笑っているのだ。


「さて、わたしが魔族と接触したなどとんでもないことです。それよりも王子をどこへ連れていったのでしょうか?」

「ふふ……どこまでもしらを切るつもりかい?」

「いえ、歴とした事実です。あの方は王子です。嘘だと思われるのでしたら【天啓】をなさればよろしいでしょう。全ての神々があの方の素性を保証してくれるはずです」

「そうだね。そして神々は君の素性も保証してくれるよ。君がルナーク・タラリリカという名の女性であるとね」

「ええ。ですから王子と名前が混同されないよう、ルニルという名前に変えております」

「ふふ」


 ザルドゥルの笑みは絶えない。

 これが白々しい猿芝居であることはどちらも承知している。

 だが、身分という建て前は重要だ。【天啓】による神々の保証という最高の建て前を持っているルナークを牢獄に入れたという事実は、いまの苦境を乗り切るための最大の武器になりえるはずだと、ルニルは考えていた。


「このままではタラリリカ王国が人類の敵と認定されるかもしれないというときだと、君はわかっているのかな?」

「ですから、それは根も葉もないことです」

「君の長年のお付きと、君の国の準爵位冒険者たちが証言したのだとしても?」

「……政治闘争というものはどの国にもあることでしょう? 身内の恥をさらすようで残念なことではありますが」

「まったくね。人の足を掴んで引きずり落とし合う。まったく嫌になるよ。おれもね【勇者】だと認められたときに母方の家名を名乗ることを求められた。おれが王位を狙うことを兄たちが怖れたんだ。おれは母方の実家に爵位の昇級と幾つかの特権を与えることを条件にそれを飲んだ」

「うまく立ち回られたのですね」

「さて、それはどうかな?」


 毅然とした態度を続けるルニルにザルドゥルは笑みを浮かべた。


「たいした女性だ。こんな時でなければ求婚していたかもしれないな。いや、どうかな? いまからでも遅くないかもしれない。王位継承権を放棄しているおれなら、君の所に婿入りする事だってできるね。求婚してもいいかな?」

「では、この件は父と相談して決めたいと思います。帰ってもよろしいですか?」

「はっは! そういうわけにはいかないんだ」


 ザルドゥルはさらに気に入ったと笑みを深めた。


「こんなときに冗談を言う胆力もある。まったく、君はすごいね」

「王子の影響かもしれません」

「ああ、彼もすごいね。まるで道化師のようだった。怒る方がバカを見るというのに、他の二人は生真面目に受け取ろうとする。まったく、哀れになる」

「ザルドゥル様の印象もあのときとは違うようですが?」

「相手を見て態度を変えるぐらい、おれにだって出来る。そしていまは状況も違う。魔族との接触は許されざる罪だ」

「ですから、証拠はありませんよね」

「あくまでも、認める気はないと?」

「わたしは、罪など犯してはいません」


 ルナークを相手に、「自分は間違えていない」と大見得を切ったものの。ルニルにだって勝算があったわけではない。

 だが、あのままでは彼はあそこにいた戦士たちごとナズリーンを殺していただろう。彼にはそういった冷たい割り切りがある。

 そこから先で起こることは血生臭い戦争への道しかない。

 それを回避するためにはここで捕まり、なんとか交渉で解決する道を見つけるしかなかった。


 しかし、どうやったらこの状況を切り抜けることができるのか?

 厳しい戦いにルニルは折れてしまいそうだ。


「君の強情さには感服するが無駄な努力だと言っておく。真実はすぐに明るみになるだろう。そして人類と魔族は決して交わってはならないんだ」

「それは、どうしてですか?」

「そうなることを望まれているからだよ」


 それは、誰に?

 しかしその問いにザルドゥルが答える気がないのは、さきほどまではなかった冷たい笑みが示していた。


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